深田晃司&濱口竜介監督とミニシアターの社会的価値を考える。1億円が57時間で集まった理由とは?

2020.4.29


ミニシアターの人たちは文化を守っている

深田 日本は良くも悪くも、半世紀以上前、10億人を超える観客動員数を誇り、世界屈指の映画大国だった歴史の貯金、その余波でなんとかギリギリやっている、ということだと思います。だからこそ、文化的な建物はまだそこにある。創立100年とか、親子3代でやってきた、というような現役の「ミニシアター」がザラにあるわけです。
今も、上映イベントや映画祭には文化庁の助成は下りますし、個々の作品を作る上での助成もある。それは僕や濱口さんの映画ももらっているわけですが、なぜか劇場に対しては助成がほぼ下りない、という歪みがあるんです。「拠点助成」のようなかたちで劇場そのものへの支援も必要ですが、たとえば「助成を受けている作品を上映することで劇場もまた助成される」というシステムにできればいい。フランスでは、CNC(国立映画センター)の助成金を外国映画がもらうと――たとえば日本映画がもらってベルギーで配給が決まると、ベルギーの配給会社にも助成が下りる、というシステムがあります。日本は文化予算があまりに少ないという大前提の問題がありますが、この方法に近いことはできるのではないか、と思うのです。

――今回のプロジェクトは、そうした長期的な問いの場にもなるのでしょうか。

濱口 ミニシアター・エイド基金は何より短期プロジェクトであり、緊急支援策です。一方でSAVE the CINEMAという運動が長期的に、映画や文化の意義を訴えていく。その枠組でやっています。その上で、あくまで個人的に、長期的な目線で考えてみたいものがあるとすれば、今回のことで無視できないところまできた日本における芸術や文化の徹底的な軽視について、です。なぜこんなにも社会から他者化されているのか、まとまった考えはまだまったく持てていません。ただ、メディア・リテラシーが教育に組み込まれることは急務だとは感じます。
メディアが発するメッセージの裏に、それを構成している主体がいるという意識を社会全体が共有する必要があります。もちろん批判的に情報を腑分けできる能力が今の社会では絶対に必要、ということもありますが、一方でそのことによって発信者の「クリエイティビティ」を感知しやすくなります。それに対しては、ある種のリスペクトが生まれるはずです。デザインを例に考えるとわかりやすいのですが、芸術・文化を基盤としたクリエイティビティが自分たちの生活のあらゆる部分に浸透している、今の社会と不可分なものなのだ、ということももっと共有されるはずです。
最近、アーティスト支援を表明したドイツ文化相の「アーティストは生命維持に必要だ」という発言が部分的に引かれるのをよく目にしますが、あれはアーティストの「クリエイティビティ」が社会の創造性と結びついている、という発言なんですよね。そこにあるリスペクトは、もちろんアーティストに向けられたものだけれど、もっと広く、社会におけるクリエイティビティに対する敬意をベースにしたものと感じました。産業的なクリエイティビティと、アーティスティックなクリエイティビティが地つづきにつながっているような感覚があるのではないか、と想像します。その感覚は日本にはあまりないものですよね。

――なるほど。スティーブン・キングのツイートも異なる見え方がしてきます。

Mini_Theater_AID_zoom
今回の取材はZoomを使って行われた。左上より時計回りに、インタビュアーの宮田文久氏、『QJWeb』編集部・森田、濱口竜介監督、深田晃司監督、「ミニシアター・エイド基金」広報・佐々木瑠郁氏

深田 自分が関わっているNPO法人「独立映画鍋」では、昨年度から都立高校でメディア・リテラシーの授業を始めています。僕たちは今、あらゆる映像に囲まれ、発信できる立場にあるなかで、映像の基礎研究たる映画の歴史からメディア・リテラシーを学ぶ、というもの。リュミエールの作品がいかに「フィクション」であるか、というところから始めますが、大事なのは「正しい情報と間違った情報がある」ということではなく、「あらゆる情報には意図がある」ということ、そして「あらゆる情報の背後には発信した人間がいる」ということ。それはネガティブなことではないし、今の濱口さんの話を聞いていて、そうか「リスペクト」という言葉がいいんだ、と今度の授業で使おうと思いました(笑)。
映画は、三脚とカメラを置き、回しっぱなしにすれば風景が切り取られる、というものではありません。現実の社会にカメラを置こうとする人がいて、ある景色にカメラを向けようとする人間がいる。右に向けるか、左に向けるかでも変わってくる。それを編集する人にも意思がある。その視点に対して、最低限のリスペクトを持てるかどうかですよね。

濱口 そうした長期的なことは考えつつ……ミニシアター・エイド基金では短期間で1億円が集まりましたが、劇場に経営の状況を改めてヒアリングすると「まったく足りない」ということがわかるんです。ちょっと役に立つことをした気になっていましたけれど、まったくじゅうぶんではなかった。

深田 そうそう、多くの方が即答でしたね。

濱口 それは劇場側が「もっとくれ」と言っているのではまったくありません。ランニングコストがこれだけかかる、という平時の状況を聞いて、単に数値として足りないという現実が浮かび上がってきている、ということです。これからさらにヒアリングして、次の目標を決めなければいけません(編集部注:その後、4月20日には3億円までの段階的な目標=ストレッチゴールが設定され、4月28日には2億円を達成した)。

深田 先日の会見でも、休業要請が曖昧ななかで映画館を開けることを選択すると、今度はその作品を観たいけどコロナが不安なお客さんは来館できないままに上映期間が終わってしまう、という話がありました。扱っているのは大量生産の規格品ではない、一つひとつが掛けがえのない作品である責任の重さと葛藤しながら、ミニシアターの人たちは文化を守ってきているのだ――そうした底の深さを、僕も改めて感じています。

▶︎【総力特集】アフターコロナ
『QJWeb』では、カルチャーのためにできることを考え、取材をし、必要な情報を伝えるため、「アフターコロナ:新型コロナウイルス感染拡大以降の世界を生きる」という特集を組み、関連記事を公開しています。


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宮田文久

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宮田文久

(みやた・ふみひさ)フリー編集者。1985年、神奈川県生まれ。Ex.株式会社文藝春秋(「淑女の雑誌から」担当時は、机上がハードなレディコミであふれた)。博士(総合社会文化)。雑誌『DISCO』編集人、イベント『わたわたフェス』主催。インタビュアーとなる機会も多く、2016年の独立以降では、一柳慧、細..

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