深田晃司&濱口竜介監督とミニシアターの社会的価値を考える。1億円が57時間で集まった理由とは?

2020.4.29


映画館の歴史とともにある集合的な「記憶」

――なるほど。その上で、たとえば先日の会見ではシネマ尾道の支配人・河本清順さんから、普段から通っているとは言えないような地域の人たちが会員になってくれている、という旨の発言がありました。それは亡くなられた大林宣彦監督の功績を含め、ミニシアターが内包している価値が地域の方にも可視化されているからだと推察されます。

深田 今年の1月、シネマ尾道の「こども映画制作ワークショップ」に、講師として関わらせてもらいました。地域の子どもたちと、小津安二郎の『東京物語』の舞台となった小学校などでワークショップを行うのですが、ここ数年、定期的に開かれているので子どもたちも何回も参加していて、異様にリテラシーが高い。映画の歴史について質問しても、ポンと答えてきたりする。
映画館が地域に根ざした活動をしてきたからでしょうし、それは演劇も含めて、劇場という場が本来持っている役割なんですよね。単に貸し小屋のように成果を発表するだけの場所ではなく、コミュニティの拠点としての需要があると思っています。だからこそ今回のように大変だとなったら、多くの支持が集まったんだろうな、と。
そして、濱口さんがおっしゃるような個人の体験、いわば「記憶」ですよね。たとえば、今はなくなってしまった「あの映画館」で、映画を観ている記憶――。実際にミニシアター・エイド基金のコレクター(支援者)の方々のメッセージにはそうした「記憶」についてのものが多いですし、支援にも影響しているのかもしれない、と感じます。それは過去の映画に関わった先人たちのおかげだとも思うのです。

濱口 今回のコロナ騒ぎのなかで、1、2館の問題ではなく、ミニシアターが集合的に危機に直面することで、そういう「記憶」が刺激されたのだと強く感じました。皆さんの中でそうした「記憶」がむくむくと湧き上がってきて、動かざるを得なかったんじゃないかと。それは特定の誰かの成果ということではなく、「文化」としか名づけようのないもの、「ミニシアター」もしくは「映画館」という場で培われた集合的な「記憶」というものが今、弾け返っている……そんな状況なのかな、と見ています。

「Mini-Theater AID」YouTubeチャンネルでは多くの監督、俳優から賛同コメントが寄せられている

――深田さんは今回のステートメントで、「日本を訪れた世界の映画人が等しく感嘆と賞賛の声を挙げるのが、ミニシアター文化の存在」と書かれていますが、もう少し詳しく伺えますか。

深田 たとえば映画大国のフランスでは、シネコンでもミニシアター系の映画がかかります。一方、パリの郊外や地方に行くと、自立してプログラムを組む映画館が当たり前のように助成金の支援を受けています。堂々と受けている。そこには文化芸術は水道やガスのように社会にとって大切なインフラである、という認識が基盤にあって、映画館にも自分たちが高い公共性を担っているという自覚があります。社会が映画館を公的に支援することで、同時代的な経済性だけでは計り切れない多様性を保障しようとしている。乱暴に言えば、リュック・ベッソンとジャン=リュック・ゴダールがそのまま共存できる環境なんです。ゴダールがベッソンに近づくことを求められはしない。
しかし、日本の場合は映画を作る側も観せる劇場も、市場原理に過剰に巻き込まれながらやっていかなくてはならない。だからこそ、国からの助成がないにもかかわらず、日本にこれだけたくさんのミニシアターが今もあることに驚かれるわけです。今回のクラウドファンディングも、ひとまず1億円集まったことは喜ばしいのですが、あまり美談にはしたくない、と感じています。

濱口 1年暮らしたことがあるボストンでも、自分が見つけられた、いわゆるミニシアターでかかるような作品を上映している映画館は、ハーバード・フィルム・アーカイブ、つまりハーバード大学の施設という公的な性格の強い映画館を含めて、ふたつか3つほどでした。公的な支援なく日本のミニシアターが成り立ってきたということは、尋常ならざることだな、と感じますね。
ただ、そもそも日本では各地域にある公的施設が上映活動をすることも簡単ではない。そのことが「民業圧迫」という形で、ミニシアターを潰してしまう可能性があるからです。今まさに潰れそうなミニシアターがそこにあるがゆえに上映活動をじゅうぶんにはできない、という感覚が公的施設の側にもおそらくあるのではないでしょうか。だからと言って、あの、それぞれ強い個性を持つミニシアター館主の人たちが今の日本の公的機関でプログラマーをしている姿も、どうも僕には想像しづらい(笑)。僕としては、今後は「上映に対する助成制度」しか答えはないのでは、と思い始めています。

ミニシアターの人たちは文化を守っている


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宮田文久

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宮田文久

(みやた・ふみひさ)フリー編集者。1985年、神奈川県生まれ。Ex.株式会社文藝春秋(「淑女の雑誌から」担当時は、机上がハードなレディコミであふれた)。博士(総合社会文化)。雑誌『DISCO』編集人、イベント『わたわたフェス』主催。インタビュアーとなる機会も多く、2016年の独立以降では、一柳慧、細..

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