仕事に人生は捧げない。「コスパ重視」の働き方に辿り着いて、気づけたこと

2022.6.3

文=丸山愛菜 編集=田島太陽


社会人を対象とした最近の調査では、全体の65%以上が「仕事上の悩みがある」と答えたという(『Job総研』2021年調査より)。職場の人間関係や業務の問題がメンタルヘルスの不調を引き起こし、休職や退職を余儀なくされる者も多い。

現代人はなぜ、心身を犠牲にしてまで仕事に思い悩んでしまうのか。私たちが今まさに抱えているこのしんどさは、どのように解消できるのだろうか。

本稿では、自身も一度は「生きてても意味がない」と考えるまでに追い詰められたという20代半ばの筆者が、「コスパ重視」の働き方へと切り替えてから見えてきたものについて綴る。


なりゆきで彫り師になった人のひと言に、思わず共感

人生でふたつ目のタトゥーを入れているときだった。

施術中はスマホをいじったりしてもいいけど、私は彫り師の人と会話をしながら過ごしている。基本的に話題は仕事についてだ。その彫り師は興味があるのかないのか、絶妙にわからないテンションで相づちを打つので、仕事の愚痴を気軽に話せる。

「自分の意志とは関係なく、会社に言われてやらなきゃいけない仕事が多いから、しんどいこともけっこうあって……」
「でもさあ、会社に勤めるってそういうことだよね。やりたくないこともやらなきゃいけない。それが仕事だから」

先ほどまでわりと適当な返答をしていたのに、急に真っ当なことを語るからびっくりした。
続けて、彼はこう言った。

「僕もさあ、最初の何年かはやりたくない仕事ばっかりだったよ。和彫だって、興味もないのに彫らなきゃいけないからさ」
あまりに意外過ぎて、思わず少し大きめの声で「そうなんですか?」と聞き返してしまった。

「やっぱり和彫を入れたがるお客さんは多いからね。時間かかるし大変だから嫌だったよ。そもそも、彫り師だってなりゆきでなっちゃったし」
なりゆきで彫り師になる人生って、どんな世界線なんだ。

「彫り師って、もともとタトゥーが好きでなる人が多いんだけど、僕は別にそういうわけじゃないし。だって痛いじゃん。たくさん入れても、将来困るしね」
めちゃくちゃ失礼だけど、彫り師があんまりあと先のことを冷静に考えるなよと思ってしまった。

写真=筆者・丸山のタトゥー(写真提供:丸山愛菜)

確かに、彼の腕にはタトゥーが入っているものの、他の彫り師と比べてもかなり控えめだ。

彫り師って、皆が皆、なりたくてなっているものだと思っていた。だって、人の体に一生の傷を残すほどの大仕事をしているわけだから。

「仕事が選べるようになった今は、男性の依頼は受け付けない。デザインが複雑でコスパが悪いから」
なるほど、彼はコスパ重視で彫り師を選び、割り切って仕事をしているのか。これに関してはかなりレアケースだけど、彼の考え方にはすごく共感できるなと思った。

仕事に人生を捧げることを「正義」とする職場

私はもともと、彫り師とは真逆の考えで、「自分がすり減ってでも努力して仕事する」とか、仕事に人生を捧げるのが正義だと思っていたタイプだ。そう強く思うに至ったのは、学生時代のインターン先での経験が大きい。

大学3年生の終わり、なんか就活っぽいことをしようとインターン入社した広告会社。
プロモーションの企画会議やCMの撮影現場など、それまで地元の居酒屋でアルバイトをして過ごしていた私にはどれもキラキラして見え、まわりの友達とは違った環境で働けることに優越感を抱いていた。

社長は、よく若い社員を呼びつけてはこう言っていた。
「俺たちは世の中に影響を与える仕事をしている。他の会社員とは違って特別な仕事をしているんだから、普通の生活を求めるのは間違っている」

今考えると吹き出してしまうくらい厚かまし過ぎるし、勘違いもいいところだが、当時は私にとってそれが正解で正義だった。だから、睡眠時間を削るほど仕事に打ち込み、お金ももらえないのに土日出勤して作業をし、上司や社長から指示が来たら、大学の授業中でも、友達と遊んでいる時でもすぐに対応をした。

怒鳴る男性

それでも社長からは、「努力が足りない」と怒られることの方が圧倒的に多かった。

そうか。今のままではまだ不十分なんだ。もっと遊ぶ時間を減らさないといけないし、仕事のことを考えつづけなければいけないんだ。私はセンスがないし、要領も悪いから当然だ。もっともっと、倒れる寸前まで働き詰めないと。


「いなくなってしまいたい」無能な自分を責めた日々

学生インターンにそんな負担をかけるなんてあり得ない話だ。だけど、その時は「無能な自分が悪いんだ」と、自分を責めつづけていた。

大学4年生の早い段階で内定をもらい、卒業したら新入社員として働く予定だったから、帰りの電車で無意識に涙が出てきたり、明らかに体調不良が続いても、そう簡単に逃げ出せなかった。

あるときから、自分は無能なんだから、生きてても意味がないんじゃないか。このまま人に迷惑をかけつづけたくない、いなくなってしまいたい。そんな思いがずっと頭を離れなくなってしまった。

いなくなろう、このまま電車に飛び込んでしまおう。
出勤時、前を通過しようとする電車を眺めていたとき、ふと、「どうせ死ぬんだったら、会社を辞めてからでもいいのでは?」という考えが浮かんだ。
会社を辞めてみて、今よりもつらいことが多かったら、その時また考えよう。今すぐにこの世を去る必要はないのかもしれない。

自分を追い詰めるまで働いても、残るものは何もない

会社を辞めたあとはフリーターを経て、友人が紹介してくれたWEBメディアの会社に入社し、そのまま現在に至るまで丸3年、ライターとして働いている。

楽しいことより、しんどいことや退屈なことのほうが多いけど、いなくなりたいと思うほどつらい気持ちになったことは一度もない。
前の会社では、どんなに努力をしても「お前なんか雇わなければよかった」と言われつづけていたのに、今の会社では、ただ言われた業務をやっているだけで、「がんばってるね」と褒めてもらえる。

最初のほうは褒められるたび、みんな気を遣ってくれてるんだな、と居心地の悪さを感じていた。だけど次第に、会社の人は正当な評価として、「偉いね」「すごいね」と言ってくれているのではないかと考えるようになった。

仕事が苦じゃなくて、ほどよくサボれて、趣味を楽しみながら都内でギリひとり暮らしができるくらいの給料で、日常的に上司から罵倒されず、むしろ褒めてもらえる。先の彫り師の言葉を借りるなら、めっちゃコスパがいい仕事だ。

世の中には「会社のために身を削って仕事をする」とか「給料が高くなくてもやりがいを重視する」ことが正義だと考えている人は少なくないと思う。少し前の私のように。

広告会社での教えが染み込んでいたから、今の会社に入って、自分が体調や精神をおかしくするまで働いていないのを、どこかで負い目に感じていた。
でも、そんな働き方をして、残るものはなんだろう。私が得たものといえば、よくありがちな重労働やパワハラの苦労話と、他人への甘えが許せなくなった狭い心だ。
本当にそんなの、人生においてなんの意味もない。時間の無駄だ。マジで「精一杯がんばらない自分はダメだ」とか、くっだらないプライド捨てられてよかったよ。

コスパの悪い働き方をやめたら、見えてきたもの

コスパ重視の働き方に切り替えてから、ぼんやりとしていた自分の現在地が、けっこう見えるようになってきた。
自分は今、どれくらいのレベルの能力があって、どれくらいの目標であればひとりで達成できるのか。次のステップに進むには、何が足りなくて、どんな努力が必要なのか。自分はどこに行けて、どこには到達が不可能なのか。

とにかく「がんばりが足りない」と自分を責めていたときは、自分を「何もできない無能な人間だ」と過小評価し過ぎていたし、逆に「もっとがんばればどんな仕事でもできるのではないか」と過大評価もし過ぎていた。
要は、今まで自分はコスパの悪い努力の仕方をしていたわけだ。

どうすれば同じ時間で自分のパフォーマンスを効率よく発揮しながら、お給料がもらえるのかを考え出したら、自分がやるべきことと、逆にやらなくてもいいことがわかってくる。
そこそこの評価をもらうためには、どんな成果が必要なのか。その成果に最短距離で到達し、あとの時間はできるだけサボったり、好きな仕事のために使いたい。これが現在のモチベーションになっている。

こんな働き方をしてるなんて、昔の自分には「ダサい」と嫌われそうだけど、自分を守るためにはどう考えてもこっちのほうがいいと自信を持って言える。

仕事に人生を、命を捧げなくてよかった

学生時代に憧れていた広告会社には就職できなかったけど、私は現状にとても満足しているし、自分を無能だと責めることも少なくなった。

今まで仕事選びやがんばり方が下手くそで、コスパが悪いことを繰り返していた。そのせいで自尊心を保つのが難しかったし、自分をたくさん傷つけてしまった。
ここに来るまで、たくさんの時間を無駄にした。苦しい時間が長かったけど、やっと少し抜け出せた気分だ。
仕事に人生を、命を捧げなくてよかった。コスパ重視が最高だ。少なくとも、私の場合は。

写真提供=丸山愛菜

もしかしたら学生や同年代で、思うように結果が出ず、昔の私のように「自分は何もできない人間だ」と思い込んでしまっている人も多いのではないだろうか。

でも、それは努力が足りないからではなく、コスパの悪い仕事を選んでしまっているからかもしれない。
憧れている仕事が、自分にとってコスパがよかったら最高だけど、ほとんどの人がそういうわけにはいかないだろう。

もし、今がどうしようもなくしんどいのであれば、一度「コスパ」に重点を置いて現状を振り返ってみるのもありかもしれない。
理由も説明されず3カ月で居酒屋のバイトをクビになったり、売り上げに貢献していないとスナックのおばさんからいじめられたり、返事が居酒屋の店員みたいでうるさいと靴屋の店長に怒られまくってきた私だって見つけられたんだから、誰にだってコスパがいい仕事は必ずあるはずだ。

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丸山 愛菜

(まるやま・あいな)1996年生まれ。WEBメディアのライターを経て、ホームセンターチェーンのオウンドメディア編集部員。ぬいぐるみが大好きで、どこへでも一緒に連れていきます。