「私奴隷じゃないです」弁当屋の“カスハラ”事件で見た、店員の勇気ある反論(僕のマリ)

2021.7.5
僕のマリ

文=僕のマリ 編集=佐々木 笑


今年5月、都内の人気弁当店で起こった事件について、折に触れて考える。

事件の概要は、店内に設置されたライブカメラがすべて録画している。深夜の弁当店に来店したふたり組の男が、酔った様子で惣菜を買おうとした。スーツ姿の男と、グレーのパーカーを着た男、年齢は30代後半〜40代といったところだろうか。男は店員に電子レンジで温めるように求めたが、コロナ対策でレンジが使用禁止になっていると言われる。それに激昂し、「誰がしたんじゃ!」と怒鳴り、「クズ」「だからそんな仕事(弁当店の仕事)してんねん、アホ!」と店員を罵倒し始めた。

男たちはふたり共、このご時世にもかかわらずマスクをあごまで下げている「あごマスク」姿だ。怒鳴ったので、飛沫も飛んで弁当にかかったかもしれない。泥酔していたとはいえ、非常識極まりない行為である。さらに、店員に向かってお金を投げる場面もあった。硬貨は店員の耳をかすめた。男たちはやがて帰って行ったが、事件の一部始終を捉えたこの動画は瞬く間に広がった。

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※写真はイメージです

【後日談】非常識な客より、スタッフを大事にすることを選んだ店長

後日、「あごマスク」の男たちのひとりがマスクをきちんと着用し、菓子折りを持って店に現れたという。「すみませんでした。許してもらえますか」と謝罪したというが、店長は「到底許せない。示談にする気もさらさらありません」と突っぱねた。

店のツイッターで事件の動画が投稿・拡散され、話題を呼んだことで「まずい」と思ったのだろう。マスクをきちんとしていなかったせいで顔も割れている。あれだけのことをしておいて、菓子折りひとつで片づけようとするのは軽率としか言いようがない。

店長が、パトカーを呼ぶので警察署で事情聴取に応じるように求めると、男は「わかりました」と応じた。やがて男は連行された。「示談にも応じないし、謝罪も受け入れない」という店長の毅然とした対応に、私は心からの賛辞を送りたい。

店長は「店に不満があるなら来なくていい」とさえ言った。非常識な客より、スタッフを大事にすることを選んだ潔い判断である。

「お客様は神様」という時代は、終わった

「カスハラ」という言葉がある。「カスタマーハラスメント」の略で、顧客や取引先からの悪質なクレームや不当な要求を指す。顧客が店員にセクハラまがいの言動をしたり、些細なミスに対して過剰な謝罪(土下座など)を求めるのもカスハラである。

この弁当店で起こった事件は立派なカスハラだ。

店員は「コロナ対策で、店の滞在時間を短くするために電子レンジは使用禁止」と正当な理由を述べていたのにもかかわらず、「クズ」などといった言葉で罵倒・恫喝されていた。こんな事件に見舞われてしまったら、接客業を辞めたくもなる。しかし、この弁当店にいた店員はカスハラに真っ向から戦ったのだ。この日店頭に立っていたのは20代の男性店員と30代の女性店員。動画では、女性店員が男たちに反論する様子が収められている。

電子レンジの使用を断り、罵倒される最中で「お客さんじゃないんで」というひと言を男たちに放つ女性店員。こんな迷惑行為をしてくる者は客ではない、という意味合いのものだろう。この言葉を聞いた男たちはさらにヒートアップし、小銭を店員に投げつける。「金払ったら客だろうが」と言う男に、店員はひるまずに「客じゃないです。払ってもらってないです。投げただけです」と応戦した。

また、男たちがマスクをきちんとしていないことにも言及し、「モラルの問題です」「出て行ってください」と店を出るように促した。「お前の給料はここで買った金で払われてるんだろ」という言葉に対しては「私奴隷じゃないです」と言い返していた。

動画は数分間に及ぶが、男たちの矢継ぎ早な罵倒に、負けず劣らず反論していた。店長の毅然とした対応もよかったが、どんな言葉にもめげずに言い返した女性店員も素晴らしかった。これほどの勇気を持って接客できる人は稀有だろう。

働いている人に迷惑をかける人はけっしてお客様ではない。店員は奴隷ではない。「お客様は神様」という時代は、終わったのだ。

現金を投げつけ土下座を要求、実際の映像


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僕のマリ

(ぼくのまり)1992年生まれ、物書き。犬が好き。2018年、短編集『いかれた慕情』を発表。ネットプリントで印刷できるエッセイをたまに書いている。

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