ランジャタイが『M-1グランプリ2021』準決勝で起こした事件

2021.12.15
ランジャタイ

文=ラリー遠田 編集=鈴木 梢


常軌を逸するネタとトークで暴れ回るコンビ、ランジャタイ(伊藤幸司、国崎和也)。サンドウィッチマンなどを擁する事務所・グレープカンパニーに所属するふたりは、昨年の『M-1グランプリ2020』敗者復活戦に出場するも最下位。しかしそこで爪あとを残したことで、先輩芸人も、芸能関係者も、お笑いファンも皆、特に目を離せないコンビとなった。

そんな彼らが『M-1グランプリ2021』準決勝を勝ち抜き、ファイナリストに選ばれた。果たして準決勝の現場で、何が起きていたのだろうか。会場に足を運んだお笑い評論家・ラリー遠田が決勝戦の行く末を考えると共に、ランジャタイが準決勝で起こした「事件」の一部始終を語る。

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『M-1グランプリ2021』準決勝の会場で目撃したもの

2021年12月2日、事件が起こった。この日、東京・NEW PIER HALLにて『M-1グランプリ2021』の準決勝が行われ、直後に決勝進出者が発表された。幸運にも準決勝の会場に居合わせた者として、そこで何が起こったのかをなるべく正確に書き残しておきたい。

ランジャタイが死ぬほどウケていた。

私が「事件」と呼んでいるのはこのことだ。それは、単なるお笑いライブの一場面という次元を超えた異常な熱狂だった。

ランジャタイが決勝に進んだという事件

準決勝の舞台となったNEW PIER HALLは、最大796席を有する横に広めの大会場であり、漫才師にとってやりやすい環境とはいえない。それでも、舞台に上がった26組のセミファイナリストたちは、この日のために磨き上げられた珠玉の漫才を披露して爆笑をさらっていた。

ランジャタイ(左:伊藤幸司 右:国崎和也)
準決勝でネタを披露するランジャタイ(左:伊藤幸司 右:国崎和也)

そんな中で、16番目に現れたランジャタイの漫才が始まると、もともとあった観客の熱気が一段高いレベルにドーンと上がったような感覚があった。うねるような笑いの波はどんどん高くなっていき、最終的には観客全員が催眠術にかかっているような興奮状態に陥っていた。

もはや観客の大半はボケやツッコミのタイミングで笑っているわけではなく、彼らの存在そのものに笑っていた。なぜこの人たちは、こんなにくだらないことをこんなに全力でやっているんだろう──無理やり言語化するとそうなるような感情が胸の奥で弾けて、横隔膜を否応なしに震わせる。

賞レースの予選では、特定の芸人の熱烈なファンが、その人のネタのときだけよかれと思ってわざと大きな笑い声を上げる、というようなことがたまにある。そのような行為は純粋な善意から行われているのだが、実際には、笑うべきタイミングではない箇所で過剰な笑い声が起こったりすると、それを耳にした観客はよけいに冷めてしまうということがある。つまり、意図的に笑うことが逆効果になってしまう場合もあるのだ。

準決勝のランジャタイに起こっていたのも、広い意味ではそのような現象だったともいえる。だが、過剰な笑い声がマイナスの効果を生まなかったのは、ほとんどの人がそこに巻き込まれて笑っている側だったからだ。いわば、あの日、あの瞬間、会場にいるほぼ全員がランジャタイのファンになってしまったのだ。

一般論としていえば、『M-1』の準決勝に足を運ぶような熱心なお笑いファンは、ランジャタイのようなタイプの芸人が好きだし、ランジャタイをおもしろいと思っていることが多いだろう。だが、人には好みというものがある。彼らの芸風は好き嫌いがはっきり分かれると思うのだが、準決勝では会場全体がひとつになっていた。観客全員がマスクをしていて笑い声が届きにくい状況で、あんなにはっきりと「ウケた」という状態を感じたのは初めてのことだ。

そんなランジャタイがファイナリストに名を連ねた今年の『M-1』は、例年以上の大混戦になることが予想される。一昨年にミルクボーイが優勝したときまでは、『M-1』には正統派の漫才の王者を決める大会というイメージがあったのだが、昨年のマヂカルラブリーの優勝でその幻想も崩れた。

『M-1グランプリ2021』ファイナリスト
『M-1グランプリ2021』ファイナリスト

マヂカルラブリーは「漫才論争」を引き起こし、漫才か、漫才じゃないかをめぐって国論が真っぷたつに割れた。今年はその割れた裂け目から、正統派以外のモンスターたちが続々と決勝になだれ込んできた。その結果が9組中、他事務所(吉本以外)4組、初決勝5組という今年の布陣である。そのモンスターたちの中でも最も異形のラスボスがランジャタイだ。

ランジャタイが勝つか負けるかはもはや大した問題ではない。彼らが決勝に進んだこと自体が事件だからだ。

マヂカルラブリーを「漫才じゃない」と言っていた人たちは、ランジャタイの漫才を見て何を思うのか。上沼恵美子は、オール巨人は、そのときどんな表情をしているのか。

両手にウッチャンとナンチャンのパネルを持ったランジャタイ国崎和也がせり上がって登場してくるようなことがあったら、我々は何を思えばいいんだろう。なんて言えばいいんだろう。

振り返ってみれば、マヂカルラブリーのときの漫才論争などかわいいものだった、ということになるかもしれない。「正気か、正気じゃないか」の正気論争、「お笑いか、お笑いじゃないか」のお笑い論争など、ランジャタイが良くも悪くも論争の火つけ役になる可能性はじゅうぶんある。優勝するようなことがあれば、ランジャタイが『M-1』を終わらせることになるかもしれない。

ランジャタイという笑いの通り魔が忍び込んだ今年の『M-1』では、必ず何かが起こる。12月19日、あなたもテレビの前で「事件」の結末を見届けてほしい。

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ラリー遠田

(らりー・とおだ)1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わ..

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