憎む相手は鏡の向こうにいる
フィリップス先生も、「事実を認めまいとしてもがく」人だ。不当にコールを罰するフィリップス先生に、コールが言う。
「先生の憎む相手は鏡の向こうにいる」
コールは、フィリップス先生が同性愛者だと気づいている。それを認めたくないがために、コールを不当に罰しているのだと、コールはアンに告げる。
フィリップス先生は、自分の在り方を認めまいとしてもがき、プリシーと結婚しようとしているのだ。
ギルバートと共にアヴォンリーに来たバッシュは、黒人であることで差別を受けつづける。居心地が悪い。
歯医者に行こうとして、バッシュは黒人のスラム街があることを知る。
「スラムに行くのを楽しみにするとは珍しい」と言う医者のワード先生に、バッシュは「きっと素敵なところだ。黒人が雪の中で踊ってるーうひひひ」と笑う(歯の治療の薬でラリって陽気になってるのだ)。
バッシュにとって、白人に囲まれた生活を強いられるアヴォンリーは居心地のいい場所ではなかったのだろう。たとえ犯罪が多発しているスラムでも、「同類」がいる場所では気持ちが解放されるに違いないと感じている。
バッシュの「黒人が雪の中で踊ってる」というイメージは、アンがウェディングベールで踊る場面と、クライマックスの結婚式の場面で反復される。
マリラが母から譲り受けたウェディングベールを、アンは見つけ、こっそりかぶる。
「あなたを、共に学び合い幸せをわかちあっていく友、人生の相棒とすることを誓います。生涯の対等なパートナーとして踊りましょう」と言ってくるくる回る。が、ひっかけて、ビリっとベールを破ってしまうのだ。
帰宅したマリラに、アンは正直に打ち明ける。
「正直に打ち明けたのは偉いわ」とマリラ。
シーズン1の1話で、紫水晶(アメジスト)のブローチがなくなって、アンが疑われた場面と照応している。あのときは、マリラはアンが盗んだと思い込んで強く追い詰めたし、アンは孤児院に返されることを恐れ、嘘の告白をした。
今や、アンとマリラは、固い絆で結ばれている。アンは、マリラを信頼して正直に罪を告白するし、マリラは、アンを自分の娘だと認めている。娘に受け継がれるベールはアンのものだとマリラは言うのだ。
式場から出ていくプリシー
原作の『赤毛のアン』でも、アンは結婚についてこう述べている。
『赤毛のアン』L.M.モンゴメリ 著/松本侑子 訳/文藝春秋
ダイアナと私は、二人とも結婚しないで、立派な未婚女性として、生涯、一緒に暮らす約束をしようかしらって真剣に考えてるの。ダイアナは、まだ決心がつかないのよ。だって、むこう見ずで乱暴な性悪男と結婚して、夫を改心させるのも、崇高な行いだという気がするんですって。
フィリップス先生とプリシーの結婚式。誓いの場面で、プリシーは列席者たちを見る。母親と目が合う。フィリップス先生は「プリシー」と呼びかけるが、プリシーはフィリップス先生を見ない。
花束を落とし、駆け出し、式場から出ていってしまう。
父は呆然としているが、母は、驚きと喜びを隠せない表情だ。
プリシーを追って、アン、ダイアナ、ジョシー、ジェーンが、式場を飛び出す。
白い雪原を走るウェディングドレスのプリシー。それを追う少女たち。
転んだプリシーを心配そうに少女たちが取り囲むが、顔をあげたプリシーは笑って、くるくる回り始める。
少女たちが雪の中で踊っている。
黒人だから、妻だから、男だから、女だから、といった偏見で、縛られ、自由を手放すことにあらがっている人たちの姿を見事に描いた回だった。
第9話は、フィリップス先生がアヴォンリーを去り、ステイシー先生が新たに赴任してくる回。破天荒で奔放、「進歩的な母親の会」で不評になるほどの「時代を先駆け」た先生だ。大人になったアンを連想させる先生で、もちろん波乱を巻き起こすのだった。
『アンという名の少女』
原題:Anne with an “E”
制作:2017年 カナダ
原作:L・M・モンゴメリ
製作総指揮:モイラ・ウォリー=ベケット
キャスト
アン・シャーリー(エイミーベス・マクナルティ)(上田真紗子)
マリラ・カスバート(ジェラルディン・ジェームズ)(一柳みる)
マシュー・カスバート(R・H・トムソン)(浦山迅)
ダイアナ・バリー(ダリラ・ベラ)(米倉希代子)
ギルバート・ブライス(ルーカス・ジェイド・ズマン)(金本涼輔)
レイチェル・リンド(コリーン・コスロ)(堀越真己)
ジェリー・ベイナード(エイメリック・ジェット・モンタズ)(霧生晃司)
Netflixシーズン1から3まで配信中
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