「死んだ人は生き返らない」を厳守
またワニ先生は、ラスボス打倒後の「その次」を作りにくいように、自ら物語のルール的にブレーキを仕込んでいたフシがある。それは「死んだ人間は生き返らないし、欠損した五体は元には戻らない」ということだ。
その片鱗が見えていたのが、「無限列車編」でのある人の扱い……を正直に言うとネタバレ過ぎるので自粛するが、その次の話では宇随天元が……こちらもテレビシリーズの続編を待っている人にはネタバレになるのか。ともあれ、「取り返しのつかないこと」が主要キャラクターの身の上に情け容赦なく起こるのである。
腕や脚の1本や2本は余裕で再生できるキャラがザラにいるジャンプマンガでそこまで厳しくしなくても、と思える。が、まさに「失った腕が生えてこない」ことこそが、主人公らの鬼殺隊=人間と、デタラメな再生能力を持つ鬼との分かれ目。ひいては「かけがえのない、たったひとつの命を武器に戦い抜く」というテーマと深く結びついているから、絶対に譲れなかったのだろう。
このことは物語の構成にも深くつながっており、鬼殺隊の中でも実力ある「柱」たちの数は限られているため、必然的に補充が利かない消耗戦となる。一見してもったいなく効率も悪いように見えるが、劇中では本編に至る数百年もの間、鬼の上位にある「上弦」どころか「下弦」でさえも柱が返り討ちに遭うことはしょっちゅうであり、「一人一殺」なら上出来でおつりが来るほど。「腕1本ぐらい失っても下弦と引き換えなら儲け」の世界だからしょうがない。
でも、それだと戦える主要キャラクターは終盤に近づくにつれ減っていく。もしも、(ほぼ)全滅の後に新キャラが入れ替わりに投入されたら、それはそれで炎上は必至だ。ワニ先生、引き延ばしできないような構造を意図して仕込んでましたよね?と思わざるを得ない。
鬼舞辻無惨を超えるラスボスは考えにくい
最後に、鬼舞辻無惨という稀有な、おそらくジャンプ史上どころか少年マンガの歴史をひっくり返しても前例が見つかりにくいラスボスの存在がある。
ただ強いだけのボスならほかにいくらでもいる。無惨様(敬称をつけたくなる)のスゴさは、たまらない小物臭である。この方、モダンな紳士や少年、妖艶な女性などいくつも姿を持っているが、それらはすべて「身を隠すため」だ。命が惜しくて惜しくてたまらないのだ。
それは部下の鬼たちの支配にも及んでおり、絶大な力を持つ血を分け与える際に「絶対に自分のことをしゃべるな」という呪いをかけている。さらには鬼たちの結託を防ぐために同族嫌悪まで仕込んでおり、どれだけ自分の身がかわいいんだという。
無敵の完全生物のくせに「顔が青白い」と言われたぐらいでブチ切れて人も殺すし、気に食わないからと部下を瞬殺するし(おかげで終盤の戦力がダウンしている)小物界のキング・オブ・キングなのである。
そして数ある得意ワザの中で、最大にやっかいなのが「逃げる」こと。ヤバいと思えばすぐにうしろを向いて逃げる、こんなラスボスいねえ! しかも、それは上述のように「失った手脚も仲間も元には戻らない」鬼殺隊側にとって絶対にしてほしくないことだ。
おかげで読者からも無惨様は「ブラック上司」と言われるわ、支配を逃れて成仏した鬼は「寿退社」と拍手を送られるわで、主人公以上に目が離せなかった。「無惨様の次の新たなラスボス」が出なくて、本当によかった!
【関連】考察『鬼滅の刃』最終巻。よくがんばった、無惨様!すべての登場人物に愛が注がれたバトルに拍手
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