考察『鬼滅の刃』9人の「柱」本格参戦劇場版『無限列車編』を観る前に必ず踏まえておきたいこと……壮絶

鬼滅の刃4

文=多根清史 編集=アライユキコ


映画『無限列車編』が公開され、『鬼滅の刃』界隈が騒がしい。ライター・多根清史による考察『鬼滅の刃』シリーズ第4回のテーマは「柱という生き様」。劇場版の予習としても絶対に押さえておきたい。

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初登場で迷いなく主人公を殺そうとした「柱」たち

テレビアニメシリーズ第1期(正式発表はないが、おそらく第2期は時間の問題のはず)では主人公・竈門炭治郎や同期の我妻善逸・嘴平伊之助ら「かまぼこ隊」の活躍が中心に描かれたが、16日から公開される劇場版『無限列車編』からは、いよいよ9人の“柱”たちが本格参戦することになる。

柱とは、いにしえから人々を人喰い鬼から守ってきた政府非公認の組織・鬼殺隊の頂点に位置する剣士たちの総称。9人という定員は、「柱」の字画が9画であることにちなんでいる。それぞれが極めた呼吸の流派に従い「○○柱」という称号を持ち、一般隊士とは隔絶した強さを誇っており、文字どおり鬼殺隊の「柱」だ。その強さは、炭治郎たちが死力を尽くしても倒せなかった十二鬼月の累を、柱のひとりである冨岡義勇が危なげなく瞬殺したことでも窺い知れるというもの。

しかし炭治郎を救った縁もあり兄弟子にも当たる義勇のほか8人は、初登場での印象は最悪だったと言っていい。何しろ登場順でいえば2番目の蟲柱・胡蝶しのぶのデビュー戦は鬼をなぶり殺そうとしたことで(うっかり瞬殺していたが)次に炭治郎の妹・禰豆子を(鬼だからと)殺害未遂ときているのだから。

そして9人が一堂に集まった柱合裁判でのこと。鬼となった禰豆子と連れ歩いていた炭治郎を裁くお白州の場ではあるが、口にしたセリフを順に並べれば「裁判の必要などないだろう!(中略)鬼もろとも斬首する!」と爽やかに言い放ち、「ならば俺が派手に頚(くび)を斬ってやろう」と派手派手宣言をし、「こんな可愛い子を殺してしまうなんて胸が痛むわ」と少し癒しつつ「生まれて来たこと自体が可哀想だ」と言葉でトドメを刺すあり様。とても公平な裁きが受けられそうな空気ではなく、お館様の前でなければ私刑に処していたかもしれないと思えるほど。

しかし、これは「柱」や鬼殺隊の成り立ちからするとしょうがない。そもそも鬼殺隊は本連載でも前に述べたように「鬼に身内を殺された遺族団体」でもあり、固い絆や団結力は鬼許すまじ、世界から駆逐してやるという復讐心に根ざしている。その最高位にある柱たちが人間の限界を超え理を超えて鬼を両断できる力を得られたのも、親族や大切な人たちがむごたらしい殺され方をされ、それを糧として己を磨き上げてきたため。むしろ、当時はさしたる力を持たなかった炭治郎らに手を出さなかったのは「よく我慢した」「美徳」とさえ言えるだろう。

16日公開の劇場版『無限列車編』は、読者(視聴者)にとっても最悪の出会いだった柱たちの人となりを、壮絶な生き様を知って誤解を解いていく道のりの第一歩となるはず。そのあたりは物語の終わりを見届けた原作コミック派と、これからの楽しみを大事にするため“あえて”情報を入れていないテレビアニメ入門組とは温度差があると思うが(日本語入力アプリで柱の名前がすべて変換できる、恐ろしいほどの鬼滅ブーム……)極力ネタバレを避けつつ、柱たちの魅力を掘り下げていこう。

『鬼滅の刃』<6巻>吾峠呼世晴/集英社
『鬼滅の刃』<6巻>吾峠呼世晴/集英社

冨岡義勇の「半々羽織」の持つ意味

主人公・炭治郎が出会った最初の柱は、水柱こと冨岡義勇だった。炭治郎を助けようとするためとはいえ鬼化した禰豆子を迷いなく斬ろうとして、それをかばって「妹を殺さないでください」と土下座した炭治郎に「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」と一喝。そして妹をかばう暇があれば斧を振って自分を斬れと説教するという、筋は通っているがまだ素人だった相手になんてこと言うんだのセリフを連発していた。

感情を表に出さず冷徹な雰囲気を見せないが、炭治郎を叱っているようで実は激励している。根は優しく情に厚いのに、言葉足らずで誤解されてトラブルを招きがちというかわいそうな人だ。そこまで読者にわかったのは数巻分の時間を重ねてのことだが、実は初登場時からヒントはあった。左右の袖の柄が異なる、半々羽織(伊之助・談)である。

特におしゃれさんでもない義勇がなぜ、わざわざふたつの柄を合わせていたのか。その答えは公式ファンブックにあり、半分は同門である錆兎の形見(鬼に殺された錆兎の父の形見でもある)であり、もう半分は祝言を挙げる前日に鬼に襲われた姉の形見だった。いつでも故人の想いを背負って戦いに赴く、なんという熱い男……。

でも言葉足らずのため周囲となじめてない自覚があるのか、しのぶに「そんなだからみんなに嫌われるんですよ」とグサリと言われると「俺は嫌われてない」と痛々しく反論。各種の人気キャラクターランキングで男女を問わず絶大な人気があるのも、カッコいいのにどこかファン自らと重ねやすいコミュ下手・ナイーブさのおかげかもしれない。

そんな義勇との絡みや技およびセリフ的にも毒が多めのしのぶも、誰よりも鬼を憎むだけの壮絶な過去があり、それを知ると仕方ない、と思えるはず。いや「嫌われるんですよ」はフォローしようがないけど。

『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録』吾峠呼世晴/集英社

劇場版では煉獄杏寿郎の生き様に注目

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多根清史

(たね・きよし)1967年、大阪市生まれ。京都大学法学部修士課程卒。著書に『ガンダムと日本人』『教養としてのゲーム史』、共著に『超クソゲー2』『超ファミコン』など。ゲームやアニメ、マンガからスマートフォンまで手がける雑食系ライター。

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