『週刊少年ジャンプ』での連載完結を受けてスタートし、とうとう最終巻の考察を迎えた『鬼滅の刃』。ライター・多根清史が、万感を込めて、美しい物語を供養するように、キャラクターを、シーンを懐かしみながら考察します。
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無惨ザマァ!そう叫ばせる見事さ
日本全国、老いも若きも小学生も沸きに沸かせている『鬼滅の刃』最終巻がついに発売。映画の興行収入がいよいよ日本で公開された映画の歴代ランキング1位が視野に入ったとか、初版395万部だとか、数字の話はどうでもいい。『週刊少年ジャンプ』誌上で連載が完結してからはや半年、ようやく「鬼舞辻無惨、ザマァ!」と再び、ジャンプ未読組へのネタバレ配慮もせず叫べる日が来たのである。
それだけ、無惨を討伐する鬼殺隊の一人ひとりに感情移入できていたということ。散っていった人、生きながら最終決戦の地獄に臨んだ人、胸に焼きついたすべての想いがようやく報いられ、晴らされる。おそらく物語最古の「仇討ちもの」に、令和になった今これだけ数百万人もの読者を入れ込ませる『鬼滅』は規格外というほかない。
伊之助や善逸、かまぼこ隊の成長に涙ぐむ
このラストバトルの素晴らしさは、主人公・竈門炭治郎だけで無惨を倒して「いない」ことに尽きる。もともと生き残った柱らが総がかりで無惨の体力を削りつつ足留めし、その前提として珠世が我が身と引き換えに4種の薬を無惨に打ち込み、仲間たちが手渡してつないだバトンが炭治郎に渡ったかたちだった(無惨を9千年老いさせる薬を開発した珠世さんがスゴ過ぎるが)。
前巻(22巻)では善戦していた炭治郎だったが、「いきなり衝撃波」で戦闘不能に。そこにすかさず割って入るかまぼこ隊、伊之助と善逸のふたり。ただ助けるだけじゃない、炭治郎との日々を糧にした成長を刃にして振るっているのがグッとくる。
まず伊之助。かつて小さい女の子を踏みつけにして威張ってた野生児が、「あっちこっちに転がってる死体は一緒に飯を食った仲間だ」と涙して思いやれるようになったんですよ。「返せよ 足も手も 命も全部返せ」と無念を背負う心を身につけた……足や手がズバズバ斬られる国民的コミックスはアリなのかと思いつつ、人間らしくなったことに胸がじいんと熱くなるのです。
そして善逸も眠らず、漆ノ型・火雷神など奥義を連発。上弦の鬼に成り果てた兄弟子・獪岳との因縁の対決を経て、起きたまま仲間たちと共闘できるようになった。あの「守ってくれるよな?」と鼻水たらして懇願していた善逸が、「炭治郎 生きることだけ考えろ」と励ませる頼もしいヤツになるとは。
何回読んでも、このあたりでページをめくる手がいつもピタッと止まる。そしてかまぼこ隊3人の「実は(意識を保った状態での)初めての共闘」を何回も行ったり来たりしてしまうのである。