考察『鬼滅の刃』最終巻。すべての登場人物に愛が注がれたバトルに拍手、よくがんばった、無惨様!



鬼舞辻無惨、最後のあがき

技のすべてを出し尽くした炭治郎が無惨を壁に縫いつけたところで、甘露寺が怪力で触手を引きちぎる。さらに義勇と炭治郎の「片腕と片腕」が日輪刀を握りしめて赫く染め上げ、巨大な胎児のようになった無惨を「隠」(事後処理部隊の黒子)らが瓦礫や車をぶつけて足留めし……要は鬼殺隊の誰もに、隅々にまで活躍の場が与えられている。これほどすべてのキャラクターに愛が注がれたバトル漫画は、ほかに見たことがない。

その魅力を引き出せたのは、ラスボス・無惨ががんばったからだ。たったひとりで。
なぜひとりになったかというと最終的には上弦の鬼すべてが鬼殺隊に倒されたからだが、遡れば部下の裏切りを恐れるあまり鬼たちを互いに憎み合わせ、ろくに柱も倒せない下弦の鬼らを言い訳も聞かず皆殺し(通称パワハラ会議)、部下の頭数を自ら減らしていってた。何から何まで「自業自得」である。

通称パワハラ会議は『鬼滅の刃』<7巻>吾峠呼世晴/集英社
通称パワハラ会議は『鬼滅の刃』<7巻>吾峠呼世晴/集英社

それほどまでに己の力に絶大なる自信を持ち、生に執着した無惨だけに、最後のあがきも凄まじかった。ラスボスが強いことは当たり前であり、どんな攻撃を受けても力でねじ伏せるのは珍しくもなんともないが、彼が日本漫画史に末永く残すであろうオリジナリティは「しつこい」「くどい」「見苦しい」と三拍子そろっていたことだ。

無惨様(あえて敬称)が本当に輝くのは、追い込まれてからのことだ。前巻でも夜明けが近くなったからと躊躇いなく「走って逃げる」を選んでラスボスの恥知らず記録を塗り替えていたが、ついに術を出せないほど疲労。それでも衝撃波を出すわ触手を振り回すわ、粘りに粘る。「もういい加減にしてよぉ!!」という甘露寺の言葉は読者こそ言いたいこと!

その後も、見た目だけならランキング上位に食い込むイケメン顔を醜い化け物に変貌させ、肉の壁をブクブクと膨れ上がらせ、ようやく太陽の光を浴びて崩れ去った。かたや無惨サイドから見れば、鬼殺隊は潰しても潰しても死なない、湧いて湧いて何度でも立ち上がる。どちらにとっても究極の泥仕合であり、互いに大技をきれいに決めて1本とはほど遠い根気よく削り合う消耗戦だ。
でも、戦いが終わったあと味はさわやか。柱は次々と走馬灯と共に息絶え、主人公の炭治郎も息をしてないというのに。この不思議な読後感は「死んでくれ 頼む」と鬼殺隊と読者から心から願われた、無惨の見苦しいまでの生きることへの固執のおかげだ。よくがんばった、無惨様!

「日本一慈しい鬼」退治の衝撃再び

ここで終わらないのが、無惨の無惨たるゆえん。肉の壁に取り込んでいるときすべての血も力も炭治郎に注ぎ込み、「鬼の王」へと変えてしまっていた。『ジャンプ』本誌で連載当時、鬼滅の公式キャッチコピー「日本一慈(やさ)しい鬼退治」が「“日本一慈しい鬼”退治」に意味が変わってしまった、恐れていた予想が現実になってしまった!と悲鳴が全国から上がっていたものだ。

無敵の自分を追い詰めたもの、それは鬼殺隊に受け継がれた想い。それに感動した無惨は「私の思いもまた不滅なのだ」と炭治郎にすべてを託す……いつもの「相手の意思を無視して鬼に変える」と同じだよ!
人の想いをまるで理解してないとさらけ出した挙げ句、最後の悪だくみも炭治郎を思いやる人々の想いに叩き潰され、「私を置いて行くなアアアア!!」と恥の上塗りを重ねた無惨。単に戦闘だけでなく心も完膚なきまでに打ち砕かれた無惨様(再び敬称)は、やはり歴史に残るラスボスだった。

コミックス描き下ろしの14ページは最高の「供養」


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多根清史

(たね・きよし)1967年、大阪市生まれ。京都大学法学部修士課程卒。著書に『ガンダムと日本人』『教養としてのゲーム史』、共著に『超クソゲー2』『超ファミコン』など。ゲームやアニメ、マンガからスマートフォンまで手がける雑食系ライター。

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