私たちは、もはや“14歳”ではない──『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』レビュー

2021.1.17

私たちは【かつてない思春期】を体験している

『:破』は、アスカ(テレビ版とは名字が変わっている)の《ヱヴァンゲリヲン新劇場版》での初登場作品でもあるので、物語はますます相対化される。アスカとシン・キャラが、同じ属性の女の子に見えながら、実はまったく違うことも私たちの深層を揺らす。

そこに、父性の変奏としての加持リョウジが加わり、さらには、レイが、ゲンドウとシンジの父子関係の回復を祈りつつ料理に手を染めるという、極めてホームドラマ的なウォーミーなエピソードが加わることで、私たちの心模様はさらに繊細になる。

この感情のグラデーションが、地球的危機と隣り合わせにあることの、なんという豊かさ!

『:序』にはあった「逃げちゃダメだ!」の単一性はこうして、見事に進化=深化を果たしている。成長しているし、覚醒しているのだ。シンジの落胆からの復活も、けっしてリフレインではない。シンジが確実に少年性を失いつつあるという切なさと共に、終盤のエモーションは見つめられる。

エヴァ世界をめぐる謎の部分は、明かされることによって、さらに複雑化していく傾向があり、そこが多くの人々を魅了したのは間違いない。この『:破』でも、セカンドインパクトからサードインパクトへの橋渡しは見事だ。しかし、2021年に再会すると、ゲンドウの野望よりは、14歳の子供たちこそが、丹念に、一途に、ある意味、愚直なまでに見つめられていることに、感動する。

(c)カラー

情報量はかなりのものだ。しかし、2時間を遥かに下回る上映時間が、濃密過ぎていっぱいいっぱいになることはない。それは、【14歳の時間】によるものなのだと思う。

目の前にあることに打ちひしがれ、封印していた綻びに直面せざるを得なくなり、固まりかけていたかさぶたを否応なく剥がしてしまう。そんな痛ましい行為が、けれども、いかに大切なことなのか。

コロナ以後の世界から『:破』を見ると、かつて深層の地獄巡りにも思えたシンジたちの姿が、なぜか優しい感触を伴って迫ってくる。

それは、コロナに打ちひしがれ、価値観が変容し、何が大切で、何が大切でないか、わかり始めた私たちと無縁ではないからだろう。

私たちは、かつてないほどエヴァを身近に感じ、また、愛おしく思えるのではないか。

私たちは、もはや【14歳】ではない。

しかし、コロナというセカンドインパクトを迎え、【かつてない思春期】を体験しているのではないか。

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q EVANGELION:3.33 Promotion Reel

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  • 映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』

    原作・脚本・総監督:庵野秀明
    監督:摩砂雪、鶴巻和哉
    キャスト:緒方恵美(碇シンジ)、林原めぐみ(綾波レイ)、宮村優子(式波・アスカ・ラングレー)、坂本真綾(真希波・マリ・イラストリアス)、山寺宏一(加持リョウジ)、石田彰(渚カヲル)
    製作:カラー
    制作:スタジオカラー
    (c)カラー
    ※『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』はAmazon Prime Videoにて見放題独占配信中


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