“Zoomで交霊会”という着想のおもしろさ
そんな私たちの生活に欠かせないものとなったZoomを利用して、本作に登場する者たちは「交霊会」をやるのである。そうして実際に彼らには、次から次へと異変が起こることに──となれば、ステイホーム期間中の“家にいれば安全”という大前提が根底から崩れ落ちる。
外には出られない。逃げ場がないのだ。
Zoomを用いて作品を制作する場合に重要なのが、“すべてをオンライン上で完結させる”ということ。本作もまた、監督、キャスト、スタッフは一度も接触していないという。ホラー映画なのでネタバレは避けるが、“どのようにして不可解な現象が起こっている(ように見せている)のか”を考察してみるのもおもしろいだろう。
さらに本作のユニークな点のひとつとして、Zoomの画面越しに友人が恐怖体験に遭っている様をそれぞれが目撃してしまう状況が作られている、ということが挙げられる。人はいつだって得体の知れないものの存在に怯えながら、同時にその得体の知れないものに近づきたいという欲求を持っているものだと思う。
多くのホラー映画を思い出してみればいい。私たち観客が「そっちへ行ってはダメだ!」というほうへと向かって彼らは歩を進める。「霊に誘われている」と言ってしまえばそれまでだが、何かしらの“決定的な瞬間”を目撃したいという欲求が働いているのではないだろうか。
これは、日常では味わうことのできない恐怖体験に出会うことができるホラー映画を観る、という行為そのものがまさにそうだし、「怖過ぎ……」と自宅の暗がりにて、口を手で塞ぎながら本作を鑑賞している私もそうだ。
本作を鑑賞する観客というのは、得体の知れないものの恐怖に犯される友人らをZoom越しに見合う者たち、つまりこの映画の俳優たちと近しい関係にあるのだと思う。
この恐怖感の本質的な要因とは?
ここまで書いてきて、またジワジワと恐怖感が蘇ってくる。今、私が向かっているのはパソコンの“画面”なのだ。無理もない。かつて『着信アリ』(2004年)などの作品に触れた直後に携帯電話が恐ろしくなったように、今ではパソコンやスマートフォンを恐ろしく感じる。
本作の公式ホームページもぜひのぞいてみてほしいところだ。どのような作品であるのかを、だいたい知ることができるのではないかと思う。
さて、この『ズーム/見えない参加者』に見られる恐怖感の“本質的な”要因とはなんなのだろうか? その答えはいくつも挙げられる。ひとりきりでいるはずの部屋に見知らぬ“何か”がいるのを察知すれば誰だって恐怖に慄(おのの)くものだし、ロックダウンという未曾有の環境下であることも心理的に作用しているだろう。
しかし、その最たるものは“Zoom越し”という環境にあると思う。
先に述べてきたように、もうすでにこのツールは私たちの生活にとって欠かせないものだ。この“身近さ”が、恐怖感のリアリティをも生み出しているのではないのだろうか。
当然、「Zoomホラー」が量産され、観客の中に慣れが生じてくればまた状況は変わってくるはず。本作はコロナ禍における、ある種の記念すべき“新感覚ホラー”だといえそうだ。また、本作が製作されたのは2020年だが、ホラーのみならず、この年の雰囲気を表した代表的な作品となっているように思える。
冗談半分の「交霊会」などのようなタチの悪い使い方ではなく、Zoomは有意義に使いたいもの。しかし、その可能性が無限であることをも本作はここに知らしめたと言えるはずだ。
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映画『ズーム/見えない参加者』
2021年1月15日(金)新宿ピカデリー、グランドシネマサンシャイン、 シネクイントほか全国公開
原題:HOST
監督&脚本:ロブ・サヴェッジ
出演:ヘイリー・ビショップ、ジェマ・ムーア、エマ・ルイーズ・ウェッブ、ラディーナ・ドランドヴァ、キャロライン・ウォード、エドワード・リナード
配給:ツイン
(c)Shadowhouse Films and Boo-Urns 2020関連リンク