考察『鬼滅の刃』我妻善逸トップ人気(当然)を掘り下げる。決め手は「人格の揺らぎ」



「肝心なときにしか役に立たない男」のカッコよさ

善逸のそうした魅力は、「普段は極端なヘタレ」と「やるときはやる」のギャップとかけ合わせられることで爆発的にふくれ上がる。「肝心なときにしか役に立たない男」というフレーズが、彼のあり方をドンピシャに表現し尽くしている。

何しろ本格的なデビュー回が、道のド真ん中で女の子にすがりついて「いつ死ぬかわからないんだ俺は!! だから結婚してほしいというわけで!!」である。ただ具合が悪そうにうずくまっていたから声をかけただけの相手に対して。
さらに鬼の屋敷の中で炭治郎とはぐれたときは外に出ようと訴え、守るべき男の子に「あなたの腰の刀は一体何のためにあるんですか?」と言葉でメッタ斬りされる始末。もう、これより下はない人間的ストップ安であり、よって善逸株は何をやっても爆上がりするほかないのだ。

「いつ死ぬかわからないんだ俺は!!だから結婚してほしいというわけで!!」『鬼滅の刃』<3巻>吾峠呼世晴/集英社
「いつ死ぬかわからないんだ俺は!! だから結婚してほしいというわけで!!」『鬼滅の刃』<3巻>吾峠呼世晴/集英社

そしてストップ高となるのが、鬼に対して振るう雷の呼吸の超絶カッコよさ。「壱ノ型・霹靂一閃」は強烈な踏み込みからの居合いであり、人間はもちろんのこと鬼の目にも捉えられず、善逸が通り過ぎたあとには首が落ちている。これを六連続で放つ「六連」は、あまりの速さに重なって雷鳴のように聞こえる凄まじさだ。

居合い術を使う役回りは『ルパン三世』の石川五ェ門にしろ『るろうに剣心』の主人公にしろ強烈な印象を残しやすいが、「テレビ画面で動き、音までついた霹靂一閃」(蜘蛛の糸を踏むアクションも追加)は居合いキャラの歴史を塗り替えた感があった。その意味で善逸は、アニメ化で最も恩恵を受けたキャラクターのひとりかもしれない。

アニメ版の炭治郎と善逸の出会い『鬼滅の刃』5(DVD)/アニプレックス
アニメ版の炭治郎と善逸の出会い『鬼滅の刃』5(DVD)/アニプレックス

爺ちゃんとの絆が善逸を強くする

善逸が強くなるのは基本的に「眠っている」ときのみ。普段は緊張や恐怖で体が強張りうまく動かせないが、命の危機を前に緊張・恐怖が極限を超えると失神するように眠りに落ちる。その状態では緊張が解けて本領が発揮できるー原作ではそう説明されていた。

が、緊張・恐怖が極限に達しているのは、絶対に逃げないからだ。自分がすごく弱い、守ってあげられる力がない、でも俺が守ってあげなきゃ……と放り出さないから、恐怖と責任感が弾けるに至る。ヘタレがなけなしの勇気を奮い起こす、こんなのカッコいいに決まってる。

善逸が使えるのは、全部で6つの型がある雷の呼吸のうち壱ノ型だけ。たったひとつの型に打ち込み、極限まで磨き上げ、自ら派生技まで創作している。とことん不器用にして天才なのである。

善逸が「眠れば強くなる」ことを二重人格と捉えるのは間違いだ。自己肯定感がとてつもなく低いのに責任感が誰よりも強く、努力は大嫌いなくせに寝る間を惜しんで修行する。一見矛盾している強さと弱さは、「爺ちゃん」こと師匠の桑島慈悟郎との絆により固く結びつけられた一個の人格なのだ。

善逸が自分を好きになれないのは、誰からも期待されてなかったから。親がいない身の上のため、誰も何かをつかんだり何かを成し遂げる未来を夢見てくれず、一度失敗して泣いたり逃げたりするとコイツはだめだって離れてく……もともとネガティブな性格のようだが(天涯孤独でも前向きな人はいる)、それはさておき。

そんな善逸ががんばれたのは、爺ちゃんのおかげだった。何度も何度も逃げた善逸を何度も何度も引きずり戻し(物理)けっして見限ったりしなかった。泣いたり逃げたりする弟子の才能をひたすら信じ、壱ノ型しかできない善逸に「一つのことしかできないならそれを極め抜け」と厳しく励まし心を燃やさせたのも慈悟郎だった。

また善逸の中に強い責任感を芽生えさせたのも、元柱だった爺ちゃんが教えてくれたこと、かけてくれた時間が無駄じゃなかったと証明したかったから。誰よりも強くて、弱い人や困っている人をいつでも助けてあげられる幸せな夢を現実にしようとする、ひたむきな想いが善逸を(重圧により)眠らせて本当の実力を発揮させるのだ。

爺ちゃんと善逸が……『鬼滅の刃』<17巻>吾峠呼世晴/集英社
爺ちゃんと善逸が……『鬼滅の刃』<17巻>吾峠呼世晴/集英社

下野紘という奇跡のキャスティング

善逸は人並み外れて耳がよく、相手が何を考えているかも“音”で聞き分けられる。つまり真意がわかっていながら信じたいと思う人を信じ、そして騙されつづけ……。底抜けにいいやつだから「泣きたくなるような優しい音」を聞いた炭治郎を信じ抜き、連れている鬼(当時は美少女の禰豆子だとは知らず)を命がけでかばって伊之助にボコボコにされたのである。

まさに理想の仲間(騒がしいことを除けば)といえる善逸だが、強敵と戦うときはたいていがたったひとりのソロプレイだ。自分が弱いと思い込んでいるから、頼もしいツレがいるとそちらに頼り切ってしまうためだろう。本人にとっては不幸そのものだが、善逸ファンにとっては「情けなく泣きわめき、圧倒的な剣技で恐るべき鬼を瞬殺する」極上のフルコースである。

アニメ版で善逸を演じるのが、まさにヘタレから勇者まで、天と地の落差を演じ切れる下野紘さんという奇跡のキャスティング。原作で鬼から逃げ回るときの「汚い高音」がアニメ(第10話)で見事に表現されていて、善逸は幸せ者だなあ!と感動したものですよ。

10話収録。『鬼滅の刃』4(DVD)/アニプレックス
10話収録。『鬼滅の刃』4(DVD)/アニプレックス

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多根清史

(たね・きよし)1967年、大阪市生まれ。京都大学法学部修士課程卒。著書に『ガンダムと日本人』『教養としてのゲーム史』、共著に『超クソゲー2』『超ファミコン』など。ゲームやアニメ、マンガからスマートフォンまで手がける雑食系ライター。

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