藤寺郁光『「鬼滅の刃」の折れない心をつくる言葉』:PR

劇場版も人気爆発!『鬼滅の刃』が生み出す言葉の魅力を味わう

2020.11.27
『鬼滅の刃』名言本

文=多根清史 編集=前田和彦


今や日本だけでなく世界からも惜しみない賞賛が送られる『鬼滅の刃』。

さまざまなメディアミックスで、作品のキャラクターたちを見ない日はない。もちろん、そんな状況を作り上げたのは、『鬼滅の刃』の唯一無二の作品世界であるのは言うまでもない。

中でもキャラクターたちが発するセリフの力が大きいのも事実だろう。

そんな言葉の魅力を凝縮した『「鬼滅の刃」の折れない心をつくる言葉』(藤寺郁光・著/あさ出版)も多くの人に読まれている。劇場版で人気が爆発する現在、改めてこの一冊を紐解いてみたい。

社会現象の中でも輝く珠玉の言葉たち

すでにテレビどころか街角でも見かけない日はない『鬼滅の刃』。10月16日に公開された『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が25日に興行収入が100億円を超えたかと思えば、11月9日に発表された最新情報では200億円を突破したとのこと。そしてエラい人までも「全集中の呼吸で答弁」なんて言い始めた……。

「鬼滅の刃」の折れない心をつくる言葉
『「鬼滅の刃」の折れない心をつくる言葉』藤寺郁光/あさ出版

そんな本作の巨大ブームが、誰しも口にしたくなるセリフをきっかけのひとつにしているのは疑いのないことだろう。

そうした「言葉の魅力」にクローズアップしたのが、本書『「鬼滅の刃」の折れない心をつくる言葉』(藤寺郁光・著/あさ出版)だ。視点が実に秀逸!

語感がいいこと、「頭のどこから捻り出したの?」という奇抜さ、それでいて日常感覚に寄り添っていることなど、もちろんセリフそれ自体が秀逸であることは言うまでもない。

一方で、マンガはテキストと作画との総合芸術であり、セリフはドラマの流れの中にあってこそ生命を与えられる。

たとえば本作を代表するであろう「俺は長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかった」という名言は、鬼との死闘が終わったあとに主人公・竈門炭治郎が心の中で呟くモノローグだ。

一見すると理論を超越しており、ここだけ取り出すとギャグである。

しかし、それが宿敵・鬼舞辻無惨に血を注がれて鬼化された妹・禰豆子をとことん信じ抜くことにつながったし、まさに劇場版でも恐るべき眠り鬼・魘夢のワナを破る上で「長男の後悔と誇り、家族との絆」が切り札ともなった。

ユーモアあふれる言葉でも、本人の生き様に根ざしていることが読者や視聴者の心を強く打つのだ。

煉獄杏寿郎の熱い言葉を噛み締めよ!

本書『「鬼滅の刃」の折れない心をつくる言葉』では、そんな名セリフの数々を文脈と共に捉え、読者がいつも心に灯火をともせるように52の言葉が紹介されている。

その中でもとりわけ注目を惹くのが、前述の映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』で炭治郎に並ぶもうひとりの主役・煉獄杏寿郎の言葉だろう。

もともと初登場から開口一番「鬼もろとも斬首する!」と炭治郎の処刑を訴えたり(直後、助命に理解を示したが)、無限列車の中でも「うまい! うまい!」と牛鍋弁当を喰らったりと一つひとつが強烈だったが、本書で取り上げられた煉獄さん(敬称)の言葉は、やはりどれもこれも「強い」。ここでそのいくつかを紹介しておこう。

そんなことで俺の情熱は無くならない! 

心の炎が消えることはない! 

俺は決して挫けない

(第55話「無限夢列車」)

無限列車で煉獄が豪快に2体の鬼を瞬殺したかと思いきや、実は魘夢に眠らされた夢の中の出来事だったときのこと。

これは自身が柱になったときの回想だが、それを元柱の父に報告すると、息子の成長を喜ぶどころか「どうせ大したものにはなれないんだ お前も俺も」(「俺も」と加えて余韻を残すのが鬼滅節である)と冷たく突き返す。

そこで弟・千寿郎に「父上は喜んでくれましたか?」と尋ねられたことに対し、精一杯絞り出したのがこの言葉だ。

人それぞれ情熱を持っていることもあるが、大切なのは「炎が絶えずに燃えつづけている」こと。時に誰かが炎を消そうとすることがあったとしても、自分自身が燃料を補給しつづけている限り、そう簡単に炎が消えて情熱がなくなることはない。

この過去で煉獄が自らを燃え上がらせたことが、逆境のなかで炭治郎らの心にも火を点け、ひいては……(原作コミックスを参照のこと)と振り返れば、常に前に進みつづけて炎で闇を照らすことが、やがて誰かも幸せにするのかもしれない。

呼吸を極めれば様々なことができるようになる 

何でもできるわけではないが 

昨日の自分より確実に強い自分になれる

(第62話「悪夢に終わる」)

炭治郎が大けがを負って傷つき倒れ込んだ際、呼吸のやり方をアドバイスした煉獄の言葉だ。

鬼殺隊の剣士たちが使うそれぞれの「呼吸」は劇中の創作には違いないが、「呼吸」が本質的に大切であることは揺るがない事実だ。

人間も動物も植物もすべて呼吸しているという生物学的な意味もさることながら、人にとっては「集中を途切れさせない、常に冷静さを失わない」という鍛練の象徴でもある。

そして『鬼滅の刃』の世界でも、呼吸を極めることで凄まじい戦闘力を引き出したり、無限に近い再生力を持つ鬼との戦いに耐え得るスタミナを維持し、傷を負えば出血を止めることもできる。

それほど多くの効用を持ちながら「何でもできるわけではない」こと、しかしそれをつづけることが「昨日の自分より確実に強い自分になれる」唯一の道であることが凝縮された、まさに呼吸を極めた煉獄でしか絞り出せない言葉だ。

『鬼滅の刃』のテーマのすべてが詰まった台詞とは

老いることも死ぬことも

人間という儚い生き物の美しさだ 

老いるからこそ死ぬからこそ 

堪らなく愛おしく尊いのだ 

強さというものは

肉体に対してのみ使う言葉ではない

(第63話「猗窩座」)

上弦の参・猗窩座(無惨の配下・トップ3の鬼)が煉獄の力を認めて不老不死の鬼になるよう誘ったとき、煉獄が正面から断った言葉だ。

「至高の領域」に到達できない理由として挙げた「人間だからだ 老いるからだ 死ぬからだ」と指摘されたことを、真っ向から否定し切ったのである。

この言葉には『鬼滅の刃』のテーマのすべてが詰まっていると言っても過言ではない。

あり余る悠久の時間を「肉体が強くなること」に好きなだけ注ぎ込める鬼と、それと比べればわずかに過ぎない一生を老いること、死ぬこと含めて愛し、すべてを受け入れつつ若者たちにあとを託すことを「強さ」とする鬼殺隊の隊士たち。

おそらく我々のような凡人には一生かかっても辿り着けない境地。だからこそ、己が傷つくこと、命を失うことすべてに後悔がなく、信念を燃やし尽くせる煉獄の生き様は眩しいのだ。

胸を張って生きろ

(第66話「黎明に散る」)

己の弱さや不甲斐なさにどれだけ打ちのめされようと

心を燃やせ 歯を喰いしばって前を向け

(第66話「黎明に散る」)

どちらも上弦の参・猗窩座との戦いで致命傷を負い、命の終わりを自覚した煉獄が炭治郎らに語りかけた言葉だ。

煉獄と猗窩座、鬼殺隊と鬼の頂点近くに位置する者同士が激突したなか、その動きさえ捉えられず、仲間を救えなかった自らの弱さを悔いている3人に対してかけられたものである。

これは自らに厳しい鍛練を課しつづけ、「弱き人を助けることは強く生まれた者の責務です」という母の言葉を生涯かけて守り通した煉獄だからこそ重みを帯びる。

そんなかけ替えのない人物だけに炭治郎らの後悔も底なしになるが、それを察して「俺がここで死ぬことは気にするな 柱ならば後輩の盾となるのは当然だ」と重荷を取り除く心配り。

しかし、けっして優しいだけではない。守られた後輩達に「心を燃やして自分を奮い立たせる」という厳しい責任と「胸を張って生きろ」という“誇らしさ”のバトンを渡したのだ。

そのバトンを受け取った後輩たちは苦しくつらい茨の道を歩んでいくことになるが、しかし歩みを止めず前を向いて進んでいった者だけに待つ、様々な出会いやたどり着ける境地もある。

「心を燃やせ」は映画のキャッチフレーズにもなっているが、原作では炭治郎が絶体絶命に陥った局面で、自らを奮い立たせる言葉として何度か登場する。

これからコミックスを読む人たちは、再びこの名言と出会ったとき、それまでの何巻分もの物語がひと言に凝縮されていることに驚くはずだ。

『鬼滅の刃』の言葉一つひとつはキレとインパクトがあるとともに、心に染みわたる深みもある。“なぜこんなに心動かされるのだろう”と考えを深めたいとき、副読本として座右に置いておきたい一冊だ。


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  • 「鬼滅の刃」の折れない心をつくる言葉

    「鬼滅の刃」の折れない心をつくる言葉

    刊行日:2020年8月8日(土)
    価格:1,430円(税込)
    著者:藤寺郁光 (ふじでら・くにみつ)
    ページ数:232ページ

    【目次】
    はじめに
    第一章 感情を動かす
    第二章 自分を信じる
    第三章 あきらめない
    第四章 強くなる
    第五章 仲間を想う

    【著者プロフィール】
    藤寺郁光 (ふじでら・くにみつ)
    carta代表。マンガ、アニメ、アイドルの分野と、ビジネスとの関わりについてWEB媒体を中心に執筆。古今東西の名言を集めることをライフワークにするのと同時に、マンガの編集や分析、キャラクターやガジェットなどの研究も行っている。

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多根清史著書

Written by

多根清史

(たね・きよし)1967年、大阪市生まれ。京都大学法学部修士課程卒。著書に『ガンダムと日本人』『教養としてのゲーム史』、共著に『超クソゲー2』『超ファミコン』など。ゲームやアニメ、マンガからスマートフォンまで手がける雑食系ライター。

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