「好きな音楽何?」に「くるり」で様子見しなくていいのは便利だけど……
冬野さんが使っていたPairs(ペアーズ)にはコミュニティ機能があり、自分と同じ趣味の相手を検索することができる。サブカルチャー的な趣味を持つ人間なら誰もが体験したことがある、初対面の相手にどれくらい趣味の話が通じるかを探り探り話すあのぎこちない時間を過ごす必要がないのだ。
冬野「『どんな音楽聴くの?』って聞かれて、とりあえずくるりの名前を出して相手の様子を窺うあの時間がなくていいっていうのは楽ですよね。くるりも通じないときに、『チオビタのCMの……』とか言うのも本当につらいです(笑)。
私はマッチングアプリにせよ何にせよ知らない人と会うのが苦手だなって再確認したし、男性からの加害とかリスクもあるので今はもう使ってないですけど、同じ趣味を持つ人と出会いたいならやっぱり便利だなとは思います」
ポス子「あんまりマニアックなコミュニティに入っちゃうと、ライブハウスとかで会っちゃう可能性があるので、今は『星野源』とか大きい規模のものを中心にするほうがいいかなと。その中で『cero』のコミュニティに入ってたりすると、サブカルが好きな相手は『お、カクバリズム好きなのかな?』って勝手に汲み取ってくれるんで」
キクイ「私も試しにPairsに登録したときに『岡田あーみん』『焼肉が好き』『子どもが欲しい』っていうコミュニティに入って、大森(靖子)さんに見せたら『全部やめて星野源のコミュニティに入れ』って言われました(笑)。
でも、知らない人と音楽の話するのとか本当につらいですよね。昔、合コンの人数合わせで急に呼ばれて、初対面の男性に『へー、バンドやってるんだ。どんな感じ?』って聞かれて。『まあ、ロックです』ってお茶を濁したら、『ロックにもいろいろあるでしょ? パンクとかさ』ってグイグイくるんですよ。『強いていうならグランジですかね』って答えたら、『グランジ……? 俺U2しか知らないから』って急にはしご外されたんですよ!(笑)U2しか知らないってどういうこと!?」

冬野「『好きな音楽何?』って聞かれて正直に答えると『えー、何それ知らない。ウケる(笑)』とか言われるわけじゃないですか。そうなると表面的なこと言って取り繕うしかないのに、『お前は表面的な人付き合いしかしないから恋人に巡り合えないんだ』みたいなこと言われると『いや、この悲しいモンスターを生み出したのはお前らなんだけど!?』って頭抱えますよね」
『普通の人でいいのに!』のラストで主人公は周囲のすべてに逆ギレしながら疾走し、しかしどこにも行けずに「死にたい……」と棒読みで独りごちる。
冬野さんは最初から「まったく成長しない主人公にしよう」と思っていたと言い、その救いのない結末に背筋が震えた。しかし、何度も読み返すうちに、不思議な高揚感を覚えるようになった。
私たちに今必要なのはこの主人公のように、成長しない自分を抱えたまま、他人の目も自分のプライドも自意識も自己肯定感もすべて投げ飛ばして闇雲に走り出し、途方に暮れてへたり込んで泣き出して、自分がどこにいるのかを確認することではないだろうか。
イベントで心のかさぶたを剥がすように語り合った、冬野さん、キクイさん、ポス子さんの3人が終演後、今日初対面だったとは思えないほど楽しそうにまだまだ話しつづけているのを見て、そう思えてならなかった。

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