渡部建、多目的トイレ不倫から私たちが考えるべきこと(小川たまか)

2020.6.22

文=小川たまか 編集=田島太陽


アンジャッシュ渡部建の不倫が報じられている。渡部といえば、口さがないネット民の中でも好感度高めな佐々木希の夫。当然のように「佐々木希がいながらなぜ」という疑問が飛び交った。

とはいえ文春で報じられた顛末を読むと、「不倫」という言葉はしっくりこない。少なくとも今年初めに報じられた東出昌大の不倫と同じ行為とは思えず、東出が恋愛だったとするなら渡部は「ヤリモク(性行為が目的の関係)」だろう。

「夫」としてどちらがより妻を傷つけるかは人によって受け止め方が違うだろうが、最近は博識キャラでも売っていたイメージとのギャップからしても渡部によりドン引きしている人が多いように見える。


性欲処理器とトロフィーワイフ

渡部建
『渡部流 いい店の見つけ方教えます。すべて新店 初出し80軒』(文藝春秋)

『ボキャブラ天国』に出演しているアンジャッシュをテレビで見ていた10代のころ、何が怖いって付き合った相手にやり捨てされるほど怖いことはないと思っていた。

校内に目立つ先輩カップルがいた。男子をA先輩、女子をB子先輩とする。A先輩は私より2学年上のちょっと悪そうな目立つ人。B子先輩は彼よりひとつ年下で、学年で1番か2番に美人と言われている人だった。

あるとき、友人からこんな話を聞いた。

「A先輩って、B子先輩に全然手を出さないんだって。あのふたりは手もつないだことないらしいよ」

それだけなら、ティーンエイジャーの清い交際の話。しかしつづきがある。

「そのかわり、A先輩ってC子先輩とカラオケでヤッてるんだって」

C子先輩は派手な雰囲気の人で、当時まだ珍しかったPHSを持っていることもあってか「援助交際してるらしい」と噂があった。コギャルっぽい女子が援交の噂を立てられることは当時よくあったから、本当かはわからない。

でもA先輩との関係は、事実だと思わせるだけの目撃談があった。

お腹にグーパンされたような衝撃。和やかに『天使なんかじゃない』(矢沢あい)の話をしていたつもりだったのに、途中から急に『エルティーン』(※)になったよ……みたいな動揺も確かにあったが、それ以上に、人間の価値が分けられる現場を見せつけられてしまったように感じて身がすくんだ。

さらに、なんでB子先輩には手を出さないのかを我々なりに考えてみたが、おそらくは単に「トロフィーワイフ」だからなのである。とりあえず公に横に置いておくのは美人がいい、という。お人形さんだから手も出さない。

B子先輩にしてもC子先輩にしても、人間扱いしていない。

しかしA先輩をサイコなクソ野郎だと思えるだけのエネルギーも知力もそのころの私にはなく、ただ怯えるだけだった。10代にとって同じ学校にいる2学年上の悪そうな男子の存在は、国の統治者よりもデカい。強い者が作るルールブック……。

※『エルティーン』:1981年から2005年まで近代映画社から刊行されていた雑誌。10代女子をターゲットに、性の体験談やマンガが豊富に掲載され、女子が読む「エロ本」的な存在だった。

性的に雑に扱われたら傷つくのは女性だけなのか

10代から20代になり、周囲もさまざまな恋愛をする。時々聞くのが、「自分は彼を好きだけど、彼からはセフレとしか思われていない」という悩みだった。

女性向けメディアの特集には今でも「本命彼女になるためには」的なコピーがある。「本命に選ばれるのはこういう女子!」「本命になれるコとなれないコの違いは?」……。

あまりにもありふれているので思わずそういうものだと受け取りそうになるけれど、よく考えてみるとずいぶん残酷だと思う。少なくない数の若い女性が2番手となったりやり捨てされる可能性を頭のどこかに置きながら過ごしているし、ああいう雑誌の企画は、男性は本命以外の女を作るものであり女性ならそれを前提に対策するべきという価値観を無邪気に刷り込んでくる。

男性誌に「本命彼氏になるためには」という特集はあるのだろうか。たとえばバブルのころに「アッシーから本命に昇格するためには」とかあったのだろうか。あったとしたらずいぶん下手(したて)に出ているなと思う。でもそれが女子の場合は普通に行われている。

女性にも性欲はあるし、セフレを持つ女性もいる。たとえば男性が好きになった女性から「ごめん、体目的だったんだよね」とか言われたとしたら、どんな気持ちになるのだろうか。まあ何度かセックスできたからいいや、なのか。エッチだってしたのにふざけんなよ、なのか。

「それは男とか女とかじゃなく人によって違うでしょ」というのが令和風の答えなのかもしれないが、あえて主語を大きくし、旧来の価値観に沿った答えを言うのなら、女性は身体を使われたときに傷つき、男性は財産(金)を使われたときに傷つく。

「女遊びは芸の肥やし」と言われることさえあるコミュニティにいる男性は、自分の身体を性的に雑に使われたときに傷つかないのだろうか。誤解を恐れずに言えば、いわゆる強者男性にちゃんと傷ついてほしいと思う。各方面に配慮した言い方をするのであれば、男性が性的な傷つきを表明したときに理解のある世の中であってほしいと思う。それを「女々しい」と表現するような価値観こそ昭和&平成に置き去っていいはずと言いたい。

男はそれを我慢できないとか性欲をコントロールできないことについてはあらゆる言い訳が用意されたなかで守られ、ブレイクしたらいくら女を抱いたっていい的な世界で成功を収め、ストレスを人の身体を使って発散することに良心の呵責を覚えない。

「THE ホモソ」の中で育んだ自分の身体や性欲に対する雑で投げやりな感情が、多目的トイレでの雑な性欲発散に直結するんではないだろうか。自分を大切にしていないのだから、そりゃ人の身体も大切にできないだろうなと思う。

「浮気しない男はいない」という強者のルールからは距離を取って


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小川たまか

(おがわ・たまか)1980年、東京都品川区生まれ。文系大学院卒業後→フリーライター(2年)→編集プロダクション取締役(10年)→再びフリーライター(←イマココ)。2015年ごろから性暴力、被害者支援の取材に注力。著書に『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』(タバブックス)。自称フ..

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