遅く起きた日曜日に、「いつもの自分が選ばないほう」を選んで過ごす(スズキナオ)

2020.10.4

いつもの自分なら辿り着かなかった「わんど」の風景

「ここらへんでそろそろ駅前に戻ろうかな」と、これまでの自分なら思っていたであろうところも、今日の私は不安な方向へグングン進んでみる。特にあてはないが、胸を張って進もう。すると公園のような場所に出て、木立を抜けてさらに進んでいくと淀川の土手に出たので驚いた。

“じゃないほう”へと歩きつづけた甲斐があった

空が広くて気持ちいい。秋の日差しをキラキラと跳ね返す水面に見惚れながら、川沿いを歩く。

「淀川河川公園太子橋地区」というエリアにたどり着いたらしい

芝生の広場に石のベンチが置かれていたのでそこに腰かけて、こんなこともあろうかと途中のコンビニで買ってリュックに忍ばせておいた缶チューハイを取り出す。「川沿いで缶チューハイを飲む」という行為は普段自分が好んでしていることなので“じゃないほう”では全然ないのだが、いつも選ばない「シークヮーサー味」のチューハイを買ってきたのでよしとしよう。

“じゃないほう”の味のチューハイを飲む

しばらく風に吹かれて幸せを噛みしめたあと、淀川沿いを下流に向かってずっと歩く。途中、「わんど群」と表示された案内板があり、いつもの自分ならスルーしてしまっていたかもしれないところだが、指し示された方向へ行ってみると、川の本流とは別に池のようなものが現れ、そのあちこちに釣り人たちの姿が見えてきた。

淀川の「わんど」ではバスなども釣れるらしい

「わんど」とは「湾処」とも書き、川岸にできた水の淀み、溜まりのことなのだという。淀川には大小の「わんど」が45カ所もあり、それぞれに環境も異なり、別々の生態系が維持されているそう。国の天然記念物に指定されている「イタセンパラ」という希少な淡水魚も生息しているそうだ。

釣り人たちが思い思いの場所から「わんど」に釣り糸を垂らしている風景もまた、今日の自分でなければ見つけられなかったものだろう。

のんびりと会話を楽しみながら釣りをしているらしかったふたり

さあ、そろそろ帰路につこう。河川敷から町へとつづく階段をのぼっていく。

河川敷はどこを撮っても絵になるな

いつもの自分ならどこかで一杯、お酒でもひっかけて帰りたいところだが、今日はたまたま見つけた豆腐屋さんの軒先で豆乳を飲んで帰ることにする。豆乳をひっかけて帰るなんて、“じゃないほう”の自分よ、あっぱれだ!

プラスチックのコップに注がれた豆乳、おいしかった

豆腐も1丁購入して家に帰り、そこに醤油をかけて食べながら気づく。私はいつも選びがちな木綿豆腐を買ってきてしまっていたのである。木綿と絹の二択。ここは絶対に絹を選んでおくべきだった……。気を抜くとすぐにいつもの自分に戻ってしまうみたいだ。

というかそもそも「特に目的地を決めず出発して、川沿いをチューハイを飲みながら歩いて帰ってきた」という一日って、ほとんどいつもの自分と同じじゃないか……。ひょっとしたら“じゃないほう”の自分とは、自分とよく似ているけどほんの少しだけ違う、兄弟のような双子のような、親友のような、そんな存在なのかもしれない。

■スズキナオ「遅く起きた日曜日に」は、毎月ほぼ第1日曜日の遅く起きたころに更新予定

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    登場する酒場:中津「いこい」「はなび」、天満「但馬屋」、西九条「玉や」「金生」、「風の広場」「大阪城公園」、淀屋橋「江戸幸」ほか多数

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スズキナオ

大阪在住のフリーライター。「デイリーポータルZ」「メシ通」等のWEBメディアで記事を書いている。酒とラーメンが好き。パリッコとの飲酒ユニット「酒の穴」としても活動中。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)など。

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