他人に「ガンバレ!」とエールを送る勇気
また、劇中での大きなポイントと言えるのが、業平をメインボーカルにして「人にやさしく」が歌われるシーンだ。朴訥とした、少しミステリアスな雰囲気のある業平が、歌い出した瞬間に露わにする激情。
主人公たちは、本当は誰かに励まされたいと思っていても、そのセンシティブな内容から安易に助けを求めることができない複雑な苦悩を抱えている。そんな彼らの“もがき”を、前述の凄惨な事件を交えて丁寧に描いてきたのちに叫ばれる、「ガンバレ!」のエール。それは周囲の人間にも、自分に対しても、そして観客も含めた見ず知らずの他者に向けられた本音として届けられる力があり、胸に迫る。
ちなみに業平役を務めたのは、横浜発のオルタナティブ・ロックバンド「NITRODAY」のボーカルであり、本作が演技初挑戦となった小室ぺい(「人にやさしく」の音源もNITRODAYによる演奏)。そのナイーヴさを内包しつつエッジの効いたボーカルは物語の焦燥感ともマッチしており、音楽を本職とする彼に業平役を任せた意味が理解できる。

また、向井脚本作品を追っている邦画ファンであれば、『リンダ リンダ リンダ』において女子高生バンドが「リンダリンダ」を演奏する光景がフラッシュバックする者も少なくないだろう。あれから15年後に描かれたセルフオマージュとも見ることが可能だし、青春や思春期のサウンドトラックとして錆びることのないザ・ブルーハーツの輝きを改めて実感できるパートでもある。
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