『OKOWA』常連怪談師「Apsu Shusei」が語る怪談の魅力
その多様性を示すチームと言えるのが、「決戦!怖談軍団闘争」で準優勝を果たした京都の「HOWLING GHOST」軍だ。文様作家としても活躍する怪談師・Apsu Shusei(アプスーシュウセイ)、初の著書『怪談びたり』(二見書房刊)を上梓した深津さくら、新進気鋭の怪談師・チビル松村からなるこのチームは、音響やライティングにもこだわった見事な演出で、恐怖や情感を際立たせることに成功していた。内容としても、人間の深層心理や自然とのつながりといった、怖さだけに依らないイマジネーションあふれるものであった。
「子守唄のように怪談に触れてきた」と、幼少期から怪談を好み、四国八十八カ所巡礼も達成しているリーダーのApsuは、音楽畑から怪談界に足を踏み入れた人物。怪談イベントで松原タニシと共演したことを機に交流を深め、そこから『おちゅーんLIVE!』や『OKOWA』にもたびたび出演する。『恐い間取り』のヒット、そして『OKOWA』の盛り上がりなどを見てきたApsuは、怪談の魅力をこう分析する。
「よい怪談は、ただ恐怖を煽るものではなく、人間の可能性を見る“物語”として成立するんです。霊的な体験、理論や科学では解明できない経験談を、真実かどうかではなく、物語として味わうことができるのが魅力。自分が怪談を話すときもそれを意識しています」
一方で、バトル形式では話術の優劣のみにスポットが当たる側面もあるため、そこで生まれる行き過ぎた創作性や、そのことで怖さばかりがインフレしてしまう状況からは距離を置いているという。
「怪談は、やろうと思えば誰でもできますし、完全な創作でもいいんです。だからこそ、モラルも必要。僕は主宰する怪談会や友達付き合いの中から怪談を集めるのですが、エピソードを人前で話していいかきちんと許可を取ります。そういう地道な作業が欠かせない。心に残る物語というのは、語り手の誠実さや人柄があってのものなので」
その人の背景が裏づける 怪談としての強度
Apsuの言葉が示唆するかのように、OKOWAタイトルマッチ決勝の中山功太vs田中俊行は、ふたりが重ねてきた稀有な経験が怖談として表出したような戦いであった。『R-1グランプリ』優勝など芸人として輝かしい実績を持ちながら、『しくじり先生 俺みたいになるな!!』ではそこからの挫折と苦難をあけすけに語ってきた中山の、光と闇を知る者としての強さと弱さが交錯する話術。内容としては、「てるてる坊主」の“抹消”された歌詞に突き当たる沖縄での実体験であったが、常に不穏さを纏った彼の表情や声質は、その物語性をより強固にしていた。
一方で、『稲川淳二の怪談グランプリ2013』で王者となり、その後もオカルトコレクターとして数々の怪談を紹介する田中俊行は、この日3本目となる決勝で、名作としてマニアの間で語り継がれている「あべこべ」を披露した。インパクトや新鮮さが重要な要素であるバトル形式において、幾度もイベントで話してきた物語をあえて語るという予想外の展開。賛否両論あったものの、筆者には、『M-1グランプリ2009』決勝に出演した笑い飯が、これまで幾度も披露しているネタ「チンポジ」で勝負をかけたときと同種の感動を覚えた。怪談もお笑いも、内容はもちろんだが、そこに語り手の辛苦や希望、はたまた意地やプライドが見え隠れすればするほど、人の心に深く刺さっていくのではないだろうか。
8月28日には、松原タニシ原作、亀梨和也主演×中田秀夫監督のホラー映画『事故物件 恐い間取り』が公開されるほか、その松原も、『恐い間取り』の正式な続編となる『事故物件怪談 恐い間取り2』(二見書房刊)を上梓した。さらにNetflixでも『呪怨』シリーズの新作が公開されるなど、怪談は新たなフェーズへと突入する予感がある。怪談イベントにも今まで以上に熱い視線が注がれる夏になりそうだが、語られる物語をただ恐怖に震える道具として受け取るだけでなく、その背景や語り手の人柄に目を向けることで、生きる上で必要な糧にもできる――『OKOWA』での11時間半は、そんな怪談・怖談のポジティブな可能性にこそ大きな価値が感じられるものであった。
怖い話NO.1決定戦!『OKOWAタイトルマッチ四の章』アーカイブ動画
『事故物件 恐い間取り』
出演:⻲梨和也 奈緒 瀬戸康史
監督:中田秀夫
8月28日(金)全国公開
(c)2020「事故物件 恐い間取り」製作委員会
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