令和ロマン・松井ケムリは、自分から「これをやりたい」と強く望むことがあまりないという。何かを達成するために努力するのではなく、ただレベルアップし続けること自体が楽しい。だからこそ、誰かに求められればその問いに向き合い、答えを探しに行く。その積み重ねが、思いがけない成長や新しい挑戦を自然と連れてくるという。
全編ケムリが描き下ろした絵本『ちがうちがう』(集英社・7月24日発売)も、そんな彼の姿勢から生まれた絵本だ。目的よりも過程を楽しむ生き方は、ツッコミの構造にも、子育てにも、他者の発想を理解する柔らかさにもつながっている。問いがあれば答える、そんな生き方について話を聞いた。
ネットニュースへのツッコミをやめた理由

(まつい・ケムリ)1993年5月29日生まれ、神奈川県出身。お笑いコンビ・令和ロマンのツッコミ担当
──今回、絵本作家デビューを果たすことになったきっかけは?
松井ケムリ(以下、ケムリ) 編集の方に「絵本を描いてみませんか?」と声をかけていただいたのが始まりです。子供が生まれて絵本と接する機会も増えたなかで「自分が描いた絵本が世に出るってめちゃくちゃいいな」と思ってお受けしました。
──手がけた絵本『ちがうちがう』の、「おかしなものにツッコミを入れる」という内容はどのように決まりましたか?
ケムリ 僕は絵がうまいわけでもなければ、いいお話を書く才能があるわけでもない。だったら芸人である僕ならではの、ツッコミのシステムを主体にした絵本にしようと。
──「ツッコミを入れる」というかたちが決まったとしても、それぞれのページをどんなおかしさにするかが難しそうですね。
ケムリ そこはけっこう大変でしたね。お笑いってボケがまずあって、それに対してツッコミを入れるじゃないですか。でもこの本を作るときは、まずツッコミから出したんですよ。「何が違うのか」のバリエーションがなくちゃいけない。それでいて、子供がわかる違いでなくてはいけない。途中から「このツッコミ、被ってないか?」「そもそもこれ、全部『逆だよ!』じゃないか?」と、かなり試行錯誤しました。


──ケムリさんといえば、Xでひたすらネットニュースにツッコミを入れていた時期がありましたよね。それがこの絵本作りに生かされた部分はありますか?
ケムリ うーん、あるとすれば、こういう本を出してもおかしくない程度には「何かにツッコミを入れているキャラ」という認識が世の中に多少は浸透している可能性もある、くらいですかね。……あれ、またやりたいですけどね。
──おもしろくて好きでした。
ケムリ ネットニュースに取り上げられている対象が知り合いばっかりになってきて、言いづらくなっちゃいました。あと、自分が言ったことが広がるその影響力を考えたら、ツッコむのが怖いなとも思うようになったのもあります。
いい人だから、パパキャラもウェルカム
──今回は文だけでなく、絵も担当されていますよね。ケムリさんに絵を描くイメージがなかったので、キャッチーな絵に驚きました。
ケムリ 今までほとんど描いてこなかったですね。でもせっかく絵本を出すなら絵も文も自分でやったほうがいいよなと。別にドヘタというわけでもないのは自分でわかっていたので、丁寧に描けばいけるかなと。

──ケムリさんに以前お話を伺った際、「答えのあることならなんでもできます」とおっしゃっていましたよね。 絵本を作るのも初めての挑戦だったと思いますが、最初から「できるだろう」と?
ケムリ 本当に生意気に聞こえちゃうかもしれないですけど、なんか、できる、と思いました。もちろんいろんな方の手を借りてですけどね。やってやれないことはないだろうと。
──実際に絵本ができ上がってみて、出来栄えはどうですか?
ケムリ 売れ行き次第ですけど、シリーズ化したらもっとやれるし、新しい軸のものがあってもいいし。僕は、求めていただいたら、「問い」を出してもらえたら、答えるので。
──ケムリさんにお話を伺うといつもすごいなと思います。答える前から「答えられる」と思えることが。
ケムリ 僕、創作意欲があるわけじゃないんですよ。自分から「こんな絵本を出したい」というものはない。でも「なんか売れそうな絵本を考えてください」と言われたら、考えてみます。ただただ、そういうタイプなんですよ。
──絵本執筆もそうですが、ケムリさんはお子さんが生まれて、『天才てれびくん』(Eテレ)、『キッズが見てる!もしもタレントじゃなかったら+』(YouTube)など、お子さんと触れ合う仕事もたくさんありますよね。パパキャラを求められる場面が増えることについてはどう思っていますか?
ケムリ ウェルカムですね。特にマイナスを感じていないですし。自分で言ってごめんなさいですけど、僕、わりと好感度高く見えてると思うんですよ。で、それをいいことだと思ってる。世の中には「好感度が高すぎると危ないよ」という論調があるじゃないですか。でも、「高いほうがよくない?」と思うんですよ。「危ない」って、嘘ついて好感度を得ている前提で言ってないか? と。
──裏がある場合は、それが暴かれたときに好感度が落ちるから「危ない」となるけれど。
ケムリ そうそう。僕、別にいい人なんで大丈夫ですという思いがあるんですよ。暴落する人もいるけど、別に僕はこのままいけるけどね、という自信はあります。
──好感度が高い人は、必要以上に聖人視される面がありませんか?
ケムリ それがもしかしたらうまいこといってるのかも。僕、そこまで聖人視されていないと思うんですよ。ざっくばらんな部分もうまいこと世間に伝わっている気がしています。そりゃ、人の好感度っていつどうなるかはわからないけど、まあ今はそんな気持ちです。

「理解」が得意なケムリが驚く発想
──せっかくなのでこの機会に、ケムリさん自身のお気に入りの絵本についても聞かせてください。
ケムリ 最近手に入れたんですけど、『はじめてずかん1000』(小学館)。これすごいですよ。単語が1000個載ってるんですよ。僕、こういう網羅的なものが好きなんです。学生時代、英単語帳とかも好きでした。覚えるのが好きなわけじゃなくて、1冊にギュッと詰まっていること自体にロマンを感じるんですよ。ビクトリノックスの多機能ナイフを手にしたときに近い高揚感をこの『はじめてずかん』にも感じました。
──お子さんに見せているんですか?
ケムリ 消防車、救急車、犬、猫とか、一応見せてます。まだ理解しているかはわからないですけど。
──理解といえば、『ニカゲーム』(テレビ朝日)などで見られるケムリさんの理解力に驚くことがあります。Kis-My-Ft2の二階堂(高嗣)さんやtimelesz猪俣(周杜)さんの繰り出す思いがけない発想も、ケムリさんはおふたりの考え方から理解しますよね。今、プライベートでお子さんと接していて、お子さんが考えていることもだいたい理解できますか? それとも、驚くようなことがありますか?
ケムリ うちの子供はまだ発想という段階でもないですけど、『ニカゲーム』での発想と、子供に驚くことと、現象としてはあまり変わらないと思っていて。たとえば、相手が指を指したときに、その指が差す方向を見る子もいれば、発達の段階によっては指先を見る子もいるんですよ。で、たまに二階堂さんと猪俣くんは指先を見ることがある(笑)。そういう感覚です。うーん、そもそも、驚くこと自体があまり多くないかもしれません。
──あまり驚かない?
ケムリ それは僕が想定している世界が、かなり広いからかもしれません。どんなことが起きても「そんなこともあるか」と思うというか。あ、驚いたというか、『ニカゲーム』の歌詞を英訳するコーナーで、猪俣くんが「願いがもしも叶うなら」というフレーズを英訳しようとして、「No.1アイドル」と自分の願いを入れちゃったことがあったんですよ。主観と客観すら区別がない。それはさすがに、どういうことなんだろう?と思いましたね。
──自分の発想になかったことを解釈していくのは楽しい?
ケムリ 理解できたら気持ちいいですよね。これも問題に答えているのと同じだから。驚くことで思い出すのは……ネタの内容だから本当はあまり言わないほうがいいですけど、虹の黄昏さんのコントのブリッジに「犬がオスで猫がメスだと思ってた!」というのがあるんですよ。あれはマジでおもしろい。突拍子もないのに、なんだかギリギリ納得できる。発想の中で一番びっくりしたものかもしれません。
──たしかに、わかるような気がします……。
ケムリ かまぼこ(体育館)さんは本当にいろんなことを教えてくれるんです。「“足利尊氏(あしかがたかうじ)”の中に動物が何匹入ってるか知ってるか?」と言われて。アシカ、鹿、蚊、蛾、鷹、蚊、cow、蛆。で、「これより動物が入っている名前は存在しない」と。たしかにどれだけ考えてもないんです。しかも1文字もムダがない。こういうことを教えてくれるんです。「cow」って(笑)。あれはびっくりしました。
──ケムリさんが驚く数少ない対象は、かまぼこさんの発想ということですね(笑)。あらゆることを問いとして答えを出し続けるケムリさんは、子育ても問題としてトライしている感じですか?
ケムリ うーん、子育てって明確な問いじゃないから難しいですね。もともと、「どうにかなってるものをよりよくしよう」という気持ちが人より少ないタイプなんです。でも子育てって「危険に遭わないように守るためには?」というのが最低限の「問い」で、そこからは自学自習じゃないですか。だから自分に向いているとは思わないですけど、今はいろんな教育論を読んで、その中から正解らしきものを導き出したりしています。
──お笑いにおけるツッコミは、明確な答えが出るものなんですか?
ケムリ いや、出ないですよ。でも、ざっくり答えはあるじゃないですか。それを答えるのがまず楽しいですよね。たとえば、真空ジェシカの川北(茂澄)さんが、“夢屋まさる”を「現実屋おとる」と呼んだら「逆だよ!」とツッコむ。ツッコミにもいくつかあるけど、「逆」という答えがそのひとつにあって、それは正解ではあるじゃないですか。その正解を導き出す。ここからさらにおもしろいツッコミをしようとしたら、ツッコミもボケになっちゃうんですよ。まあ、これも楽しいっちゃ楽しいです。明確な答えがある問いじゃなくても、質問に答えるのが好きなのかな。大喜利も好きなんですよ。答えはなくても、やっぱりその場の正解を出すのが好きなんです。「かなり法律はマッチョだ」というお題に対する川北さんの「ムキ超ムキ」とか。あれは正解ですよね。
いつか、唯一無二の存在に
──正解を出すのを楽しむケムリさんは、今後も「問いをくれれば」という姿勢のまま進んでいくんでしょうか。
ケムリ はい。問いさえあれば、答えるだけ答えます。で、その答えた結果で次に来る問いが変わり、それが僕の評価を形作っていくと思います。……僕は、自分は何ができるのか、自分がどれくらいおもしろいのかを知りたいんですよ。で、父親もサラリーマンだからか、僕自身も根っからの雇われ人なんです。自分の王国とかホームを持ちたいという感覚がなくて、人に呼ばれたい、雇われたい。
──独立志向はない?
ケムリ 独立する人じゃないですね。やりたいことがないですから。ただただ人に評価されたいんです。僕は吉本興業にいてよかった。吉本にいなかったら仕事が来ない。そしたら、何していいかわかんないですから。
──コンビとしては、(髙比良)くるまさんが組織の外にいて独立していますが。
ケムリ それがおもしろいですよね。くるまも、実はそんなに自分からやりたいことがあるタイプでもない気がするけど、いろいろ広がっていていいなと思います。
──ふたりがそれぞれ違う場所で広がっているから、令和ロマンとしての広がり方は均一じゃなくて。コンビに戻ったときにほかにはない組み合わせになるのかもしれませんね。
ケムリ ね。たしかに、希少価値が高いですよね。
──では、ケムリさん自身は今後も来るもの拒まず。
ケムリ あ、ただ、苦手とわかっていることはやらない。得意かどうかわからないものは、やるようにしてます。これ昨日気づいたんですけど、なんでこんなに雇われ人マインドなんだろうと。それは、やりたいことがないのもあるけど、やっぱり自分を成長させたいからなんですよ。自己実現というか自己修養? 『自助論』(サミュエル・スマイルズ、1859年刊)みたいな。
──すごいお話ですね。自己修養。
ケムリ 媒体はどうでもよくて、「おもしろいツッコミでいたい」という気持ちしかないんですよ。その先にネットで求められるか、テレビで求められるかはわからない。自分がレベルアップできればそれでいい。すべての仕事がそういう場だと思ってます。だから、やりたいことがないんだと思うんですよね。
──ステージはどこでも構わない?
ケムリ そう、レベル上げだけをしたい。レベルを上げた先にしたいことは別にない。間違ったRPGの楽しみ方をしているんですよ。
──でも今のお話を伺うと、やりたいことがある人は、自分で自分のかたちを決めている人ともいえますね。一方でケムリさんは、かたちを決めていないぶん、思いがけない成長とか変化があるかもしれない。
ケムリ ああ、そうですね。自分で話してて、「わ、なんかすごい人になりそう」と思っちゃいました、今(笑)。すごい人って「何も考えずここまで来ました」みたいなこと言うじゃないですか。タモリさんとかそうなんじゃないのかな? 知らないけど。僕もいつか、唯一無二の存在になっちゃうかもしれませんね。

『ちがうちがう』(集英社)
著者:松井 ケムリ
発売:2026年7月24日
価格:1,980円(税込)

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