“プレイリスト・ムービー”という新しい表現!?音楽と不可分な映画『WAVES/ウェイブス』
『ムーンライト』や『レディ・バード』、『ヘレディタリー/継承』など、世界中の映画ファンを熱中させている新進気鋭のスタジオ「A24」。同スタジオの最新作『WAVES/ウェイブス』が7月10日に公開された。
フランク・オーシャン、ケンドリック・ラマー、レディオヘッドなど、異例の豪華ミュージシャンの楽曲がふんだんに使用された「ミュージカルを超えた〈プレイリスト・ムービー〉」。新しい映画表現を模索した、とにかく“音”にこだわった意欲作の魅力に迫る。
オリジナルスコアを含め39曲!とにかく曲数がめちゃくちゃ多い
A24――『ムーンライト』(2016年)や『レディ・バード』(2017年)など、高い作家性と現代的な表現、テーマ設定を両立させた映画作品を多数送り出し、映画ファンからの熱心な支持を受ける映画会社。同社が製作と配給を担い、日本公開前から話題となっているのがトレイ・エドワード・シュルツ監督の『WAVES/ウェイブス』だ。
ストーリーや映像表現もさることながら、本作で特に注目されているのはその音楽。日本の配給を担当しているファントム・フィルムは、「ミュージカルを超えた〈プレイリスト・ムービー〉」という惹句で『WAVES/ウェイブス』を表現している。
『WAVES/ウェイブス』では、実に31もの楽曲が使用されている。パンフレットに掲載されている監督による楽曲解説は、トレント・レズナー&アッティカス・ロスによるオリジナルスコアを含めて、なんと39曲を取り上げていて……とにかく、曲数がめちゃくちゃ多い。
たとえば、クエンティン・タランティーノの『レザボア・ドッグス』(1991年)のサウンドトラックに収められているのは16曲。もう少し最近の作品でいうと、エドガー・ライトの『ベイビー・ドライバー』(2017年)のサウンドトラックは30曲。実際に映画で使われている楽曲数はそれと同数ではないとしても、『WAVES/ウェイブス』の楽曲数の多さは際立っている。
そんな『WAVES/ウェイブス』を観てみると、これが確かに「新しい音楽映画」なのである。冒頭からアニマル・コレクティヴの「FloriDada」が鳴り響き、タイラー(ケルヴィン・ハリソン・ジュニア)と彼の友達が車内で大騒ぎしている。アメリカの高校生だったら、もっとポップでうるさいラップソングで騒ぐんじゃないの……?なんて思うものの、南フロリダの高校生がアニコレを「聴いてないというのは安易すぎる」とシュルツ監督は言う。
レスリングに明け暮れるタイラーの生活や家族を紹介する次の場面で聞こえてくるのは、テーム・インパラの「Be Above It」だ。さらに(監督にとって特別な音楽家であり、この映画において特権的な意味を持たされている)フランク・オーシャン、チャンス・ザ・ラッパー、カニエ・ウェスト、エイサップ・ロッキー、ケンドリック・ラマー、タイラー・ザ・クリエイター、H.E.R.などなど、ラップミュージックやR&Bがふんだんに使われていく。