“多様な生き方”を肯定する映画『劇場』。激動の時代だからこそ「わたしの映画」になる

2020.7.17

(c)2020「劇場」製作委員会
文=折田侑駿 編集=森田真規


又吉直樹による同名小説を、山﨑賢人×松岡茉優×行定勲監督で映画化した『劇場』。7月17日、映画館で公開されると同時にAmazon Prime Videoにて配信がスタートした。

何者でもない若さゆえの葛藤を抱えた劇作家兼演出家の永田と、生活力が皆無の彼を支えることを東京にいる理由とする女優志望の沙希。“恋愛”と“夢”を描いたこの青春映画は、コロナ禍の今だからこそ多くの人にとって「わたしの映画」になるはずだ。


「わかりみが深すぎる」青春劇

山﨑賢人が演じる主人公・永田と、松岡茉優が演じるヒロイン・沙希が、特別ではない、ある種ありふれた青春劇を画面いっぱいに繰り広げるのを目にしたあと、イマドキの言葉で「わかりみが深すぎる……」と独りごちた。正しい言い方に変えるのならば、「激しく共感した」のである。

ぬぐってもぬぐってもあふれてくる涙を必死に堪えながら、あまりにもこの作品を「自分事」として受け取ってしまったのだ。それゆえに、思考停止してしまっていたのかもしれない。

現在29歳である筆者は、この物語に登場する人物たちと年齢が近い。映画は構造上、主人公が一人称で半生を振り返り、やがて現在へと至るもので、私はスクリーンを見上げながら、思いがけず私自身の半生を振り返ることとなった。多くの観客が、そうなのではないだろうか。いつか見た光景、どこかで耳にしたセリフ──身につまされる思いと共に。

思い返せば、大志と根拠のない自信から生まれる誇大妄想を胸いっぱいに抱いて、肩で風を切るように大都会・東京へとやって来たのもついこの前のことのようだ(と感じてしまう)。

映画『劇場』予告編

観客が置かれている環境によって、捉え方は変わる

主人公の永田(山﨑)は、劇作家にして演出家、そして役者でもある。学生時代からの相棒と共に、「おろか」なる劇団を立ち上げ、演劇の聖地・下北沢を拠点に活動を展開するも、辛酸を嘗める日々だ。

そんな彼の前に、女優を志す沙希(松岡)が現れる。彼の人生においての大きな転機。自信過剰で自意識過剰、かつニヒルな香りが漂う彼にとって、明るく快活な彼女の存在はあまりにもまぶしい。雲の間から差すひとすじの光のようである。

偶発的に街で出会い、惹かれ合うふたり

対照的な性格を持つふたりだが、まるで強力な磁石のS極とN極のように惹かれ合い、一度くっついてしまうとなかなか離れるのが難しい。これは「共依存」の関係だとも思える。しかしそんな磁石でも、ふとしたことで外れてしまうことがある。激しく加熱することによって、“彼ら”の磁力は弱まることだってあるのだ。

本作を、ひとりの青年による青春譚と観るのもよし、現代を生きる若い男女のラブストーリーと観るのもよしだ。実際、本作が主人公の一人称で語られることによって前者は強調されているし、そもそも本作は広く「ラブストーリー」だと謳われている。これらは、観客それぞれの今置かれている環境によって、捉え方が変わるのだろう。

筆者は本作を、「生き方」に関する映画だと強く感じた。もちろん、ひと口に「生き方」といっても、それもまた人それぞれだ。つまり、「多様な生き方」を描いているものだと思うのである。

どんな生き方も、尊重し肯定すべき


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折田侑駿

(おりた・ゆうしゅん)文筆家。1990年生まれ。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、文学、服飾、酒場など。映画の劇場パンフレットなどに多数寄稿。映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを務めている。

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