とにかく圧倒されっぱなしの鑑賞体験
映像と音声の分裂に基づく、異なる質のものの併存。そのアプローチは結果的に、一度観ただけでは内容を掴み切れないほどの情報量を本作に詰め込むことになる。数百に及ぶオリジナルのポッドキャストの中から、このシリーズが「原作」として選んだのは「精神世界」「死」「瞑想」といったかなり形而上学的なテーマで、交わされる議論もそれなりにぶっ飛んでいる。
一方で映像は、一般的なアニメーション・ドキュメンタリーのように、その理解を助けようとはせず、『アドベンチャー・タイム』ファンならおなじみの、ウォード流の気の狂ったような高速スラップスティックを展開する。どちらを単独で追いかけても咀嚼の難しいものが併存するのだ。結果、『ミッドナイト・ゴスペル』を観ることは、恐らくほとんどの人にとって、追いかけるのが大変で、とにかく圧倒されっぱなしの鑑賞体験となる。
しかし、この過剰なフォーマットが生み出すのが「振り回される楽しさ」だけであるかといえば、そうではない。この狂ったような仕組みは、最終的には途方もない感動をもたらすのである。
死の間際であった実の母親をゲストに迎えた最終エピソード
情報過多であまりにも騒がしいこのシリーズは、後半になるにつれ、だんだんと静けさを帯びるようになる。映像と音声の距離も次第に縮まっていき、最終エピソードでは完全に一致しさえする。 この最終エピソードは、すでにさまざまな論者が本シリーズのベストとして挙げているものである。確かにそのとおりで、本シリーズのあらゆる騒がしさは、このラストに向けた壮大な助走であったのだとさえ、全編を観終わってみると思えてくる。
そんな最終エピソードのゲストは、クランシー=トラッセルの実の母親だ。対話のテーマは死と向き合うこと。ポッドキャストの収録時、彼女は末期ガンと診断され、死の間際であった。そんな状況で臨床心理士でもあった母親は、死と直面することについて冷静に語る。
時に心を乱すクランシーをなだめ、そして、胸が張り裂けんばかりの悲しみに襲われる彼に、ただ「泣きなさい」と促すシーンは感動的で、それまでのさまざまな騒がしさは、あまりにもまっすぐなこのシーンのためにこそあったのだ、とさえ思わされてしまう。
このシリーズの騒がしさとは、あまりにもつらい現実を目の前にした、それと向き合うための時間として必要なものだったのだ。だからこそ、親しい人の死を受け入れるプロセスとなっている全体の構造が、まず心に響く。本作において「分裂」が有効なひとつ目の理由は、これである。騒がしさから安らぎへと到達するために、必要なのである。
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