「理想の姿」で活動できる
自らの音楽を発信する目的で「バーチャルの身体」を選択する人が増えているのは、生身でやるのと別に得られるものがあるからだ。
1 表現したい世界観をより深められる
バーチャルアバターは人間動物問わず何にでもなれる。そのため歌う際に自分が求めている表現を、自らの姿をイメージのフックにすることで、より深く掘り下げることができる。たとえば学生のアバターで歌えば、青春ソングの雰囲気はより伝えやすくなる。3DVRを使用した場合は背景を自在に変えることもできる。建物内に花火をあげるなど思いどおりの曲演出ができるのも魅力だ。
2 自らの姿を隠して音楽活動ができる
プライバシーの問題で自分の姿を人前に出しづらい状況が、表現活動の足を引っ張ることは多い。ミュージシャンである自分の姿を出して、音のイメージを左右したくない、というアーティストもいる。その際にバーチャルアバターは「理想の姿」で活動できるためとても便利。『笑点』(日本テレビ)がディスプレイを使ったリモート大喜利をしたときのような手法で、リアル世界に大型モニターやスクリーンを持ち出してアバターを映し出すライブも、多数実施されている。
3 衣装のように、音楽に合わせて使いやすい
会社に行くときはスーツで、友達と遊ぶときはカジュアルな服で、デートではおしゃれに…と衣装を変えるノリで、音楽をやるときはVTuberで、と着替える感覚を気軽に楽しめるのもバーチャルならでは。生身(リアルアバターと呼ぶ人もいる)で音楽をやりつつ、バーチャルでは別ジャンルの歌を歌うなど、表現の目的に合わせて使い分けをするアーティストもいる。
4 見てもらうきっかけになる
マイナージャンルの音楽はどうしても埋もれやすい。しかしバーチャルの身体で表現すると「VTuberの音楽」という、普段聴かない人を引きつけるきっかけが生まれる。アバターやイラストが凝ったものであれば、さらに目につきやすくなる。ボーカロイドを使った作曲家が、ボカロファンの目について話題になっていく状況に近い。
技術的な問題などデメリットはあるものの、バーチャルはまだまだ想像力次第で多数のメリットを生む可能性を秘めている。現在活躍するアーティストの中から、邦楽やクラブミュージックを好む人におすすめのVTuberをいくつか紹介していこう。
MonsterZ MATE〜ヒップホップVTuber
ボーカリスト・アンジョーとラッパー・コーサカによる音楽ユニット。思いを直球でぶつける言葉の数々が心地よい、J-POP、ヒップホップミュージックを制作している。
数多くのVTuberと親交が深く、音楽活動でのコラボも多数行っている。「Beep☆CARAMEL」では人間・バーチャル双方がパーティーに誘われて盛り上がる様子を歌い上げるMVを制作し、お互いの境界線をなくしていった。「Up-to-date」は、バーチャル業界の行く末やVTuber活動の不安、ファンの心のゆらぎに対して、イマジネーションで乗り越えるよう奮い立たせるアンセムソング。VTuberの音楽を流すクラブイベント(Vクラ)で特に盛り上がる曲だ。ふたりはすでにユニバーサル ミュージックからメジャーデビューし、CDも発売中。
ミソシタ〜「ポエムコア」の先駆者
男なのか女なのか、そもそも人間なのかわからないミソシタ。トラックに合わせて詩を読む「ポエムコア」という音楽ジャンルの先駆者。くすぶる思いを抱えた人間を「地下二階の同志」と呼び、奮い立たせる歌を数多く公開している。「ミッドナイト・ファイティングブリーフ」の「人の闇は笑うな だが俺の闇は笑え」という序文は、多くのVTuberファンに語り継がれている名言。ミソシタはすでにポニーキャニオンからメジャーデビューを果たし、2枚のアルバムを発売している。
ミソシタはほかにも360度VR映像のMVを制作したり、バーチャルワールドを制作したり、AIの作った曲に自らの詩を乗せたり、映画撮影を行ったり、バーチャルとリアルの合コンを開いたりと、さまざまな挑戦を行っている。
somunia〜自分を保つために歌う
今にも消えてしまいそうな外見と、囁くような儚げな声色で歌う曲が魅力のVSinger。記憶が消えつつあり、自分を保つため歌や動画を残している、という背景を持っているのが特徴。キャラクター性、ビジュアル、声質が音楽にピタッとはまって話題になった好例。打ち込みメインの曲が多く、楽曲はiTunesエレクトロニック部門で売り上げ1位を記録するほどの人気だ。
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