宇崎ちゃん、キズナアイ炎上におけるお気持ちヤクザと繊細チンピラ(荻原魚雷)

2020.3.19

文=荻原魚雷 編集=森山裕之


デビュー作『古本暮らし』以来、古本や身のまわりの生活について等身大の言葉を綴り、多くの読者を魅了している文筆家・荻原魚雷。高円寺の街から、酒場から、部屋から、世界を読む「半隠居遅報」。 最近炎上した『宇崎ちゃんは遊びたい!』の献血のポスター、VTuberキズナアイのNHKでのニュース解説は問題だったのか。公共の場における表現はどこまでがセーフでどこまでがアウトか。 お気持ちヤクザと繊細チンピラという言葉について。


「お気持ちヤクザ」という言葉が生まれた

少し前に「お気持ちヤクザ」という言葉を知った。

ライトノベルの表紙、自治体や地下鉄のPRに使われる萌えキャラなどを「性的」云々と批判する勢力を揶揄した言葉である。「自分の気持ちを傷つける人間、不快にさせる人間は悪(社会悪)と考えている人々」と定義されている。昔からある言葉でいえば「独善」に近い。あらかじめ断っておくと、わたしは「お気持ちヤクザ」という言葉はかなり曲解されて広まったと考えている。

わたしは三重県の生まれで母方の郷里は伊勢志摩なのだが、5年ほど前に市の観光PRに海女をモチーフにした碧志摩メグ(あおしまメグ)というキャラクターが選ばれた。

当時の新聞には「海女キャラ『女性蔑視』志摩市に市民『公認撤回を』」と報じられている。批判の内容を要約すると「胸や太ももを強調しすぎ」「海女の伝統や文化をバカにしている」というものだ。その後、公認撤回を求める署名活動が繰り広げられ、結果、碧志摩メグは非公認キャラになった。

興味のない人にとってはなんのこっちゃという話かもしれない。

志摩市は平成の大合併で2004年10月に生まれた新しい市だ。市町村合併したにもかかわらず、人口5万人以下の市で過疎化が進行している。 わたしも志摩にいた祖母が亡くなってからずっと足が遠のいている(交通の便がよくないのだ)。

志摩市の海女キャラの炎上騒動があった2015年ごろ「お気持ちヤクザ」という言葉はまだなかった。公認撤回をめぐっては賛否が分かれたが、わたし自身は萌えキャラが安易に使われる風潮に対し、異を唱える人がいてもおかしくないし、問題提起としてはそれほど無理筋ではないと思っていた。

と言いながら最近までこの騒動のことを完全に忘れていた。

「お気持ちヤクザ」という言葉が生まれたあと、抗議によって市の公認を取り消されたキャラクターの例として碧志摩メグの名前がたびたび浮上するようになり、「そういえばそんなことがあったなあ」と思い出したにすぎない。

萌えキャラへの批判の中には肌の露出だけでなく、その役割を疑問視する声もある。なぜ若い女性のキャラクターでPRしなければいけないのか。胸や太ももを強調した構図で描く必要があるのか。お年寄りじゃなダメなのか。男性のキャラじゃダメなのか。そもそも単にこの手の絵が苦手という人もいるだろう。わたしも公共の電車やバスの側面に萌えキャラがデカデカと描かれるのはやりすぎではないかと思う。普段から萌えキャラを見慣れている人とそうでない人でその印象も違ってくる。

公共の場における表現はどこまでがセーフか


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荻原魚雷

(おぎはら・ぎょらい)1969年三重県鈴鹿市生まれ。1989年からライターとして書評やコラムを執筆。著書に『本と怠け者』(ちくま文庫)、『閑な読書人』(晶文社)、『古書古書話』(本の雑誌社)、編著に『吉行淳之介 ベスト・エッセイ』(ちくま文庫)、梅崎春生『怠惰の美徳』(中公文庫)などがある。毎日新聞..

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