死語になった「タバコミュニケーション」──それでも人気漫画から“タバコ”が消えない理由
喫煙をめぐる社会情勢の変化によって、分煙・禁煙意向が高まっている昨今。テレビCMはもちろん、ドラマからもその姿を消しつつあるタバコだが、マンガの世界ではそんな社会の変化をものともせず、依然として作品に欠かせない存在として描かれている。果たして、マンガにおいてタバコはどんな役割を果たしているのだろうか。
目次
『ルパン三世』『ONE PIECE』……ヒット漫画には“タバコキャラ”が欠かせない?
以前、QJWebで掲載した「喫煙姿が印象的なアニメキャラクター」(ネットエイジアリサーチ『非喫煙者意識調査2022』より)のアンケートでは、『ルパン三世』の次元大介が1位に輝き、2位は『ONE PIECE』のサンジ、そして3位には再び『ルパン三世』より主人公のルパンがランクイン。
以降も、『銀魂』の土方十四郎や『ゴルゴ13』のゴルゴ13など、新旧問わず人気作品とそのキャラクターが名を連ねる結果となった。
思い返せば、ヒット漫画には必ずといっていいほど“タバコキャラ”の姿があるように思う。『名探偵コナン』の赤井秀一、『最遊記』の玄奘三蔵……。
今秋からアニメがスタートする『チェンソーマン』にも、姫野先輩と早川アキ、そして岸辺隊長など、タバコが欠かせないキャラクターが多数登場する。
時代の流れに逆行。マンガ大賞『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』の快挙
さらに、最近ではキャラクターだけに留まらず、タバコが主題となっているマンガが大きな注目を集めた。その名も『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』。
社畜街道をひた走る中年サラリーマン・佐々木は、彼が通うスーパーの店員・山田さんの笑顔を心の支えに生きてきた。山田さんを見かけなかったある日、すっかり意気消沈した佐々木はスーパーの裏の喫煙所でタバコを吸おうとするが、そこで“田山”と名乗る奇抜な容姿の女性と出会い、言葉を交わすようになる。
山田さんと田山の名前から、なんとなくお気づきの読者もいるかもしれないが、このふたつの顔を持つ彼女と、それに気づかない佐々木というラブコメ王道のじれったさ。
そして、ラブコメといえど、物語の舞台が“スーパーの裏の喫煙所”だからか、愛煙家の中年サラリーマン・佐々木とクールな田山さんからは、甘い、あるいはキュンという印象を一切感じさせない。たとえるなら“ダウナー系ラブコメ”とでもいうべきか。
この斬新さが話題を呼び、今年の「次にくるマンガ大賞 2022」ではWEBマンガ部門第1位に輝いた。
今でも“タバコキャラ”が存在しつづける理由
分煙・禁煙意向が高まる世の中にもかかわらず、今も昔も変わらずマンガの世界で存在しつづけるタバコ。その背景には、タバコがマンガにおいてふたつの重要な役割を果たしているように感じる。
まずは、キャラクター性を際立たせる小道具としての役割。たとえば、冒頭に挙げたヒット漫画のタバコキャラたちは、もともとどこか“孤高”あるいは“アンチヒーロー”的な雰囲気を醸し出しているが、作中で紫煙をくゆらせる姿があることで、その雰囲気をいっそう強調させている。
さらに、タバコの銘柄を事細かに描くことで、セリフやモノローグを使わずにキャラクターの性格や心情、隠れたストーリーを読者に伝えているケースもある。
『最遊記』玄奘三蔵のタバコは「マルボロ(赤・ソフト)」。非喫煙の方でもマルボロのパッケージを見ると、なんとなく年齢層が上の男性っぽい……という具合に、THE・男なイメージを思い浮かべないだろうか。“玄奘三蔵が愛用しているタバコはマルボロ”──この描写を挟むことで、彼のワイルドさをいっそう強めているように感じる。
また、『チェンソーマン』には、早川アキと姫野先輩は同じ「メビウス」を吸っている描写が存在する。これは、アキが姫野先輩の影響でタバコを吸い始めたことが関係しているが、同じ銘柄を愛用しつづけているシーンがあることで、よりふたりの親密さと強固な絆を読者に連想させる。
この世から消えつつある“タバコミュニケーション”
そして、タバコがもたらすふたつ目の役割だが、その前に『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』で描かれているものについて少し掘り下げいきたい。
まず、佐々木と田山はタイトルどおり喫煙者だ。先ほどタバコがキャラクター性を際立たせるという話をしたが、本作の主要人物はいずれも喫煙者であり、そもそもの主題がタバコであるため、先述したひとつ目の理論には当てはまらないように感じる。
では、『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』はわざわざタバコを登場させて何を描いているのか? それは、タバコミュニケーション。喫煙所内で、喫煙者同士でのみ行われるコミュニケーションのことだ。
喫煙者からすると偶然が生み出した魔法のような時間であり、一方で非喫煙者からするとこの世から滅びてほしいもののひとつであろう、タバコミュニケーション。もはやすっかり死語となっているが、現実世界から姿を消しつつあるからこそ、『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』のタバコミュニケーションは物語にドラマチックさをプラスしている。
喫煙者でなければ共通点どころか、会う理由すらない佐々木と田山。ふたりがスーパーの裏にある喫煙所でタバコを吸う姿は、恋愛青春漫画で描かれる、授業を屋上でサボる高校生のような尊さを感じてしまう。
これから先、世の中の禁煙意向が高まれば高まるほど、タバコミュニケーションはもちろん、タバコという存在はフィクションになっていくだろう。そのぶん、“フィクションにおけるタバコ”として、誰も想像し得なかった新たな役割が今後も生まれるのかもしれない。
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