『チェンソーマン』早過ぎる完結を誰も驚かなかった理由。見事に駆け抜けた「地獄コミック」を考察

2020.12.22
チェンソーマンサムネ

文=多根清史 編集=アライユキコ


12月14日、「第1部」最終回を迎え、テレビアニメ化が発表された『チェンソーマン』。『QJWeb』では『鬼滅の刃』考察シリーズでおなじみのライター多根清史が迫る「地獄コミック」の地獄具合。

※この記事は「『週刊少年ジャンプ』で最終回を読んだこと」前提で、単行本未収録のネタバレも含みます

読者には予想されていた第1部完結

14日発売の『週刊少年ジャンプ』2021年2号で第1部が完結した藤本タツキ氏のマンガ『チェンソーマン』。2018年12月の連載開始からおよそ2年『このマンガがすごい!2021』のオトコ編1位に選ばれるなど人気絶頂のなか、早過ぎる完結に驚き……の声はほとんど聞こえてこなかった。『鬼滅の刃』は3年半でも意外だと言われたのに、なぜ?

ひとつには主人公が「チェンソーを頭につけた人間」というジャンプ漫画の極北にあるビジュアルだったこと。作者はマンガアプリ『少年ジャンプ+』連載の『ファイアパンチ』で鬼才ぶりが知られていたが、ジャンプ本誌に乗り込んでB級映画『武器人間』と見まがうキワモノを連載し始めたのだから、最初のころは「いつまでつづくのか」的な受け止められ方だった。その当時に2年もつづくと予想したら、え?と言われていたはず。

第1話掲載『週刊少年ジャンプ』2019年 1/1 号
第1話掲載『週刊少年ジャンプ』2019年 1/1 号

もうひとつは、本作の人気の理由が主にいきなり明かされる謎や、重要人物と思われたキャラが唐突に死んだりと、読者の頭がついていけないほど速い展開にあったからだ。おそらくほかのマンガなら半年は引っ張れそうなエピソードをものの1〜2週で消化し、はい次!という生き急ぎ方。せっかく好きになったキャラの活躍をもうちょっと見たい……みたいなファンの未練にはおかまいなしで、このペースでよく2年も全力疾走できたなと感慨さえ湧いてくる。

すでに読者にも、そろそろ終わりが近づいてると予感はあっただろう。11月に発売された最新9巻の完成度は、まさに「マンガという名の地獄」と呼ぶにふさわしかった。目に飛び込んでくる視覚の暴力度は8巻も凄まじかったが、こちらは本作の良心ともいえるキャラ・早川アキの人格や生き様そのものをまな板に乗せて、見事におぞましく料理してみせたものだ。

家族を銃の悪魔に殺されて復讐を誓ったアキや、アキとの絆を心のよりどころにした主人公デンジへの思い入れが深いほど、読む人の心は深くえぐられていく。しかも「心安らぐ日常から絶望のドン底」が1冊の中にきれいに収まっている奇跡の構成だ。週刊マンガ連載は超人だけができる領域なのに、過酷なマラソンの中でわざわざ「地獄コミック」を狙って出現させるとは。ここまでやるからには、もうすぐ完結に違いない──予感は的中したのだった。

「王道」のようで非『ジャンプ』の極み

本作は、デビルハンターをやっていた少年デンジがチェンソーの悪魔ポチタと契約して「チェンソーマン」となり、公安対魔特異4課のリーダー・マキマにスカウトされて悪魔を狩るという話だ。こう書くと王道ダークヒーローのようだが、設定がいろいろトチ狂っている。

まず、最初のデンジの不幸ぶりが度を超している。死別した父親の借金を背負い、返済のために眼球や臓器まで売り払い、100円をもらうために吸い殻を食べ、夢はジャムを塗って食パンを食うこと。それでも生きていけるのは前向きというより、人としてどこか壊れている。

でも、デンジの壊れ方はこの世界では絶対的な強みだ。なぜなら、恐れられる悪魔ほど強いから。公安最強の岸辺隊長が「ネジがぶっ飛んでるヤツは何を考えてるかわからない 悪魔も理解できんモンは恐がるモンだ」を口癖にしてるとおり、悪魔との戦いでは「頭がおかしいほど強い」のである。

そのためデンジの成長も、けっしてジャンプの王道には沿っていない。「仲間たちと力を合わせて強力な悪魔を倒す」のお約束は守っているが、デンジは絶対に感動できることを言わない。より強い敵を倒そうとは思ってないし、「風呂も毎日入れて いいモン食えて ツラの良い女(マキマのこと)も近くにいて」という生活で100点満点だ。デンジなりに上を目指しているかもしれないが、あまりに不幸過ぎたために読者にとっての「上」とかけ離れている。

といってもデンジは悪魔から人を守ろうとするし、嘘つきで身勝手な(でもツラは良い)パワーには優しい良いやつだ。それに読者の共感も呼べる。ただし「夢ェ叶うなら女抱いてから死にてえな」に集まる共感は、ほかのジャンプ漫画の主人公とは異質だろう。

そしてデンジはあんまり頭を使わない。「闇の力で知見を深めてなおバカの行動は理解できません」と敵に言われる底抜けさが強みだからしょうがないが、おかげで「デンジの視点」からは物語の全体が見えにくくなっている。そう、コミックを最初から読み返すと、これまで唐突に思えた出来事の数々が、実は巧妙に(あとづけもあるかもだが)張り巡らされた伏線ですべてつながることに気づくのだ。

ラスボスを上回った主人公の狂気


この記事が掲載されているカテゴリ

この記事の画像(全3枚)


多根清史著書

ARTICLE LIST

多根清史さんの関連記事一覧

多根清史さんの
新着・人気記事をお知らせします。