星野源×オードリー若林正恭「Pop Virus feat.MC.waka」の素晴らしさ
9月7日(火)深夜に放送された『星野源のオールナイトニッポン』で星野源とオードリー若林正恭が披露した、奇跡のコラボ楽曲「Pop Virus feat.MC.waka」のあまりの素晴らしさに、放送後数日は脳内が「星」と「若」で埋め尽くされた。さらに、この音源が番組のYouYubeチャンネルに「公式」として合法アップロードされたと知ったときは、番組から最高のプレゼントをもらったような気持ちになり、カジ旅フリーのCM並みに興奮した。
「Pop Virus」は星野源の「音楽」に対する気持ちを歌った曲で、若林自身この曲を「笑い」に置き換えて聴いていたという。けっして掴みようがないものに対する想い、数年にわたり互いの気持ちを電波の上で伝え合っていたふたりの関係を表すのにこれ以上の楽曲はないと思った。
耳元で囁かれているかのような星野源の歌声と、ギター弾き語り一本から徐々にシンセサイザーが絡んでいくアレンジは、もはや「ASMR」。頭の先から全身が溶けていくような感覚になる。そして中盤から若林のラップが絡んでいくのだが、いい意味でゴリッとした無骨なラップによって曲のグルーヴ感が一気に増していく。
生粋のヒップホップヘッズでも知られる若林は、『オードリーのオールナイトニッポン 10周年全国ツアー in 日本武道館』では梅沢富美男と「夢芝居 -New Version」を、miwaのツアーでは「サヨナラ feat.MC waka」と、これまでもラップスキルの片鱗を見せていた。だが今回若林が披露したラップは、ふたりの「生き様」が乗っかったとんでもないものに仕上がっていた。
まず何より「言葉がめちゃくちゃ聴き取りやすい」。RHYMESTERの宇多丸氏が「日本語ラップで重要なのはリリックがしっかり聴き取れること」だと言っていたが、若林のラップは何を歌っているのかが一発で理解できる、まさに「老若男女すべてが聴けるラップ」だった。1バース目は、この曲をラップすることになってから現在に至るまでの心境を歌っているのだが、突然ラップを依頼されて戸惑い苦悩しながら、それでも「星野源のためなら」と必死でリリックを考える様子がありのままに伝わってくる。
俺のラップパート創造してたよりも長くね?
PUNPEEさんより長いなんてどう考えても不思議じゃね?
NHK『おげんさんといっしょ』にてラッパーのPUNPEEと星野源が「Pop Virus」をコラボしたときのラップパートよりも長いことを自虐を交えて引用したり、
言える訳ないじゃん!
止めてくれよ寺ちゃん!
『星野源のオールナイトニッポン』の放送作家でもある寺坂直毅の名前を登場させたり、
それから 毎日 通う 通う
ドトール タリーズ
刻む刻む リリックリリック
と、放送日の「火曜」と「通う」をかけつつ、ラジオでも行きつけの喫茶店としてたびたび紹介している「ドトール」や「タリーズ」を出すなど、ヒップホップの醍醐味でもある「意味がわかると100倍楽しめる」を完璧にやってのけている。韻の部分もガチガチに踏みつつ、「えっと……参る」とエミネムの映画『8 Mile』(若林が好きな映画として過去にラジオで言及)をサラリと二重がけするなど脳が縮み上がるほど大量の仕かけが散りばめられていた。
そして内容だけでなく「スキル」の面でも目を見張るものがあった。前半部分の「スキル、なんて、皆無、だけど、持ってる、バイブス」は1拍のあいだに3音節を入れて歌う「3連符フロウ」というテクニックを取り入れており、近年のヒップホップシーンでのトレンドのひとつになっている。けっして簡単なラップではないのだが、若林はサラリとなんの違和感もなく歌いこなしておりリズム感の化物ぶりがわかる。
2バース目からは全文引用したいほど情報量と骨密度が加速し、『あちこちオードリー』(テレビ東京)やラジオで話していたエピソードをリリックに盛り込んでいく。さらに星野源の楽曲や書籍のタイトルも随所に忍ばせ(「創造」「不思議」「蘇える変態」「車窓の外(エッセイ集『いのちの車窓から』)」「夢の外へ」「Crazy Crazy」……)、『星野源のオールナイトニッポン』のあと番組でもあり、ふたりとの関係性も深いCreepy Nutsの楽曲「よふかしのうた」のリリック「同じ周波数のムジナ」をサンプリングし、「いち に さん 飛ばして4戻って2有楽町」とニッポン放送の周波数1242まで盛り込むなど最初から最後まで「愛」しか感じないリリックに胸が焼けるほど熱くなった。
そして、若林のラップに対する星野源のアンサーにすべてのラジオリスナーの魂が救われたに違いない。
星と若が 夜を変えるはず
電波乗せて 笑い 音を届ける
クソな場所で 君を愛してる
刻む 戻らない一瞬を
渡す 2粒の永遠を
「希望」こと若林正恭と「花源」こと星野源、令和のブルース・ブラザーズに渡された永遠を死ぬまで心に刻み込みたい。
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