最新のニュースから現代のアイドル事情を考える。振付師・竹中夏海氏がアイドル時事を分析する本連載。今回は、東京五輪で垣間見られた嵐のかけ合いを切り口に、近年のアイドルグループの活動休止・解散事情を取り上げる。
【関連】「アイドル・宮脇咲良」の覚醒。HKT48とIZ*ONEで手に入れた最強の武器
目次
嵐・櫻井、大野から届いた「金メダリストへの祝福メール」を代読
東京五輪・水泳の競泳女子400メートル個人メドレー、200メートル個人メドレーの2種目で金メダルを獲得した大橋悠依選手。
その夜、NHKの『東京2020オリンピック デイリーハイライト』に生出演した彼女に、ナビゲーターの櫻井翔はこう言った。
「まずは大橋選手。本当におめでとうございます。ちょうどレースが終わった直後にですね、私のスマートフォンが鳴りまして。ちょっと読み上げますね。『大橋悠依ちゃんやばいね、ダブル金。ひとりではしゃいじゃったわ』……大野智さんからいただいております。ご紹介するのも、もちろん許可をいただいております」
「……」の溜めからのサプライズと、許諾を得ていることをきちんと開示するところがいかにも櫻井らしい。行き届いている。
さらに、こうつづける。
「今晩こうして(大橋選手と)中継でお話しする機会があるので『何かお伝えしますか?』と彼に聞いたところ、『めちゃくちゃかっこよかったです。おめでとう!と、伝えられたらお願いします』と大野さんからメッセージいただいております。今もたぶん観てると思います」
大野の大ファンだという大橋選手はもちろん感激し、スタジオは温かい拍手に包まれた。
一部のゴシップメディアが「金メダリストを特別扱いして不愉快だとファンから不満が続出」なんて水を差すような記事を出していたが、実際のところ(少なくとも私の知る限りは)大橋選手を櫻井、大野と共に祝福する嵐ファンがほとんどだったと記憶している。
そして、この一連のやりとりを見て「嵐のファンはなんて幸せなのだろう」と実感した。こんな気持ちにさせられるのは、彼らが活動休止を発表してからもう何度目かわからない。
「4人でも6人でも嵐じゃない」嵐の活動休止発表
国民的アイドルグループ・嵐の無期限活動休止。2019年1月27日、そのニュースは日本中に衝撃を走らせた。
99年の結成時から彼らをゆるく応援しつづけてきた私も、「何が起きてるんだ???」と仕事先のダンススタジオでしばらく呆然としてしまったのを覚えている。
だけど、全員そろった記者会見を観て、その疑問は解消された。嵐は“5人でいること”を選んだ。それだけのシンプルなことだと、すぐにわかったからだ。
活動休止はファンからすればもちろん寂しい。しないですむのならそれに越したことはないだろう。
でも、多感な年頃から20年以上走りつづけてきた彼らにとって、このタイミングで一度止まることは避けられない道なんだなと、あの会見でファンの多くが察した。
「4人でも6人でも嵐じゃない」「5人じゃなきゃ100%のパフォーマンスはできない」と、あのとき彼らは繰り返した。そして2020年末までを「『嵐っていいな』と思ってもらえる2年間にしたい」と。
そして、実際にそうなった。TikTok、Twitter、InstagramなどのSNSアカウントを次々と開設し、楽曲をサブスクで解禁し、嵐によりアクセスしやすい環境を整えてくれた。
日本一チケットが取れないと言われていたコンサートは、新型コロナウィルスの影響もあって、ライブ配信で世界中の人に届くかたちとなった。
嵐のメンバーとスタッフが、いかにファンのことを考え、大切にし、感謝を伝えようとしてくれているか、そこまで細やかに追えていない私にですらじゅうぶんに伝わってきた。
活動休止後に感じる「嵐を風化させない」気概
そしてそれは2年どころか、活動休止から半年以上経った今でも丁寧につづけられている。
推しているアイドルの活動休止も解散も、そりゃ悲しい。でもファンにとってその比にならないほどつらいことって実は、あとあとグループ時代が“腫れもの”扱いされてしまうことではないだろうか。
解散後に元メンバーがそのころの話題を一切口にしなくなり、「あぁもしかして、グループ在籍時のことはあんまり思い出したくないのかな……」とうっすら察してしまった経験が何度かある。あれが本当につらい。
何がつらいって、自分が応援していたその時間や熱量が、もしかしたら推しの負担になっていたかもしれない可能性があることだ。そう思うと、申し訳なくてやり切れない。
だけど嵐は、そういう片鱗を一切見せない。むしろそんな勘ぐりをする余地すら与えないほど、活動休止後もメンバー自らほかのメンバーの話題をどんどん口にしてくれる。
単なるサービス精神というよりも、「タブーにする気なんてさらさらないから安心しなよ」というメッセージにも思える。大橋選手を通して紹介されたやりとりにも、そうした心遣いが作用している気がしたのだ。
嵐のメンバーから「嵐を風化させないぞ」という気概を感じる。そんな人たちを応援できる嵐ファンってなんて幸せなんだろう、とたびたび思うのだ。
V6、°C-ute……。アイドルのポジティブな活動休止・解散が増えている理由
ひと昔前まで解散や休止といえば、方向性の相違やケンカ別れの印象が強かったはずだ。ところが近年では、蓋を開けてみると前向きな理由がスタンダードとなってきている気がする。
今年の11月1日をもって解散するV6も、その発表コメントが印象的だった。
「解散という結論に至りましたが、これは6人がV6のメンバーであることを誇りに思い、ひとりの人間として、これからの人生に対して前向きに決断した結果」
「『この6人でなければV6ではない』という思いが6人の中で一貫していたことから、決断することができました」
この言葉どおり、解散を発表してから彼らはなんだか以前にも増して“6人のV6”を慈しんでいるように見える。6人全員で最後まで走り切ることを、本人たちが一番楽しんでいるのではないだろうか。
2017年に解散した、女性アイドルグループの°C-uteもそうだった。
12年間の活動に幕を下ろした解散コンサートの翌日から、元メンバー同士がSNS上でも仲のいい姿を頻繁に見せ、「あれ……? °C-uteって本当に解散したんだっけ……?」と混乱しつつも喜びを噛み締めるファンが続出したのだ。
私の教え子たちでも解散後、ずっと良好な関係を築いているグループは多い。
そんなに仲がいいのであればつづければいいのに、という見方もあるかもしれない。しかし区切りをつけたからこそ、彼らはずっと気持ちがつながっていられるのではないだろうか。
どんなにいい関係でも、近い距離感で終わりが見えないと保てなくなってしまうこともあるものだ。
今この瞬間もアイドルは増えつづけていて、その一方で解散・休止をするグループもいる。
だけどそれってつまり、彼らが“メンバー”から“友人”になる未来もあるかもしれない、ということではないだろうか。そう思うと少しだけ救われる。
嵐の活動休止は、そんな可能性すらも感じさせてくれるのだ。
関連記事
-
-
天才コント師、最強ツッコミ…芸人たちが“究極の問い”に答える「理想の相方とは?」<『最強新コンビ決定戦 THE ゴールデンコンビ』特集>
Amazon Original『最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ』:PR -
「みんなで歌うとは?」大西亜玖璃と林鼓子が考える『ニジガク』のテーマと、『完結編 第1章』を観て感じたこと
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『どこにいても君は君』:PR -
「まさか自分がその一員になるなんて」鬼頭明里と田中ちえ美が明かす『ラブライブ!シリーズ』への憧れと、ニジガク『完結編』への今の想い
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『どこにいても君は君』:PR -
歌い手・吉乃が“否定”したかった言葉、「主導権は私にある」と語る理由
吉乃「ODD NUMBER」「なに笑ろとんねん」:PR