『トップガン』続編で発揮された“俳優としての本質”
コロナ禍の公開延期により、実に36年ぶりの続編となった『トップガン マーヴェリック』(2022年)は、トム・クルーズという名の映画史を鑑みる意志のある観客にとっては、最良の余韻を与えるだろう。
往年の『トップガン』(1986年)を知る世代なら、ほとんど時が止まった(彼が手にするスマホに違和感があるくらいに)風情に、ごく自然に郷愁を覚えるだろう。郷愁もまたサービスなのだとしたら、トム・クルーズは徹底したサービスマンであり、この映画を観るあなたを輝かせる。あなたが、女性であれ、男性であれ、郷愁と共に、あなたは輝く。そして、それはうしろめたいことではない。トム・クルーズによるホスピタリティは完璧だ。
自らプロデュースすることによって、監督よりも遥かに映画のフォームを決定づけてきたトム・クルーズは、『トップガン』の続編に期待されるものすべてに応えながら、俳優としての本質を、エンタテインメントの邪魔にならないように潜ませる。
現役パイロットから教官へ。というお決まりの設定に抗うことなく、しかし、上半身裸でビーチで若者たちと一緒に戯れてしまう逸脱さえ痛快に提示してしまうトム・クルーズは、一方で、映画における聖性を知り尽くしている。

主人公は、劇中で2度、子供に見つめられる。1度目は、笑いが起きる。2度目も、笑いは起きるが、それ以上に聖なる静謐が宿る。そして、いずれのシーンも、子供の瞳が、観客の心象には残るのだ。そう、トム・クルーズは、またしても相手を輝かせる。
見つめられる己ではなく、見つめてくれる誰かを讃えるのだ。
それは、子供たちであり、共演者であり、私たち観客でもある。


トム・クルーズはアメリカ人男性としては小柄なので、相手を見上げる眼差しにも特長があるが、本作では、この点も際立っている。
亡き戦友の息子との間に派生するわだかまりを、不安げな視線に託す。ヒロイン(ジェニファー・コネリー)に誘いのアプローチをかけるときも、チャーミングな不安を見せる。
トム・クルーズは、どんなにヒーローを演じても、どこか自信なさげで、そこが愛すべき点であることを、私たちは改めて知る。
もうすぐ還暦を迎える。しかし、銀幕の中の彼は、今日も自信なさげな笑顔を浮かべている。
輝くべきなのは僕じゃないんだよ、と言わんばかりに。

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映画『トップガン マーヴェリック』
2022年5月27日(金)公開
監督:ジョセフ・コシンスキー
脚本:クリストファー・マッカリー
製作:ジェリー・ブラッカイマー、トム・クルーズ
出演:トム・クルーズ、エド・ハリス、マイルズ・テラー、ジェニファー・コネリー、ヴァル・キルマー
配給:東和ピクチャーズ
(c)2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.関連リンク
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