西島秀俊論──西島秀俊は映画スタアなのだと宣言すべきときがようやく到来している。


『きのう何食べた?』で表出した西島秀俊の資質

作品が望むものを己に浸透させ、その上でぐいっと前に出る芝居ができる運動体。

それが西島秀俊だ。

知性もある。理論もある。
だが、それ以上に、腕力が際立つ。
ぶっとい反射神経。
揺らがぬ持久力。
いつでも立ち上がる魂。
静謐な高揚。
駆け抜けても擦り切れぬ鼓動。

西島秀俊について想いを巡らすことは、アスリートについて考えることに等しい。

今、送り届けられたばかりの最新主演作劇場版『きのう何食べた?』を観て、あなたは何を思うだろうか。

人気深夜ドラマ、待望の劇場版。もうひとりの主演者、内野聖陽と共に同居するカップルを演じている。

劇場版『きのう何食べた?』予告篇【11/3(水・祝)公開】/主題歌:スピッツ

とても心温まる世界観である。弁護士でありながら、無類の節約派で、その延長線上に料理もある料理好き。安くて、身体にも心にもおいしいものを作ることが、ある種の生きがいにもなっているかのような主人公を、パートナーとの日常を通して、丁寧に表現している。

よしながふみの同名マンガを原作にしたドラマが大人気となり、映画化にまで至った

西島秀俊が作る人。
内野聖陽が食べる人。

そのような関係性の安定が、両者のコミュニケーションを形作っている。時にすれ違いもあるが、家で食事を共にすることで保たれ証明されるものが、ふたりにはある。

「シロさん」こと弁護士の筧史朗に扮する西島秀俊

おしゃべりで、屈託がなく、チャーミングで、大らかな内野の役とは対象的に、よけいなことは言わず、こだわり屋で、無愛想で、神経質でもある西島の役どころが、逆説的にこの演じ手の本質を照射しているように思う。

内野が陽性のキャラクターを細やかな積み重ねによって具現化しているのに対し、西島は内向的にも映る人物を思いきりよく、ある意味、爽快に顕しているから、感動させられる。

「ケンジ」こと美容師の矢吹賢二に扮する内野聖陽

両者が、役のタイプと演技アプローチをあえて入れ替えて演じているかのように思えるから、このシリーズは懐深い。俳優同士が互いを信頼しているから可能になったコラボレーションであろう。

たとえば、内向的なキャラクターを内向的に表現したら、どうなるか。あるいは、明るい人物を明るく演じたら、どうなるか。どちらも、トゥーマッチでつまらない芝居にしかならない。

劇場版『きのう何食べた?』では、賢二の誕生日プレゼントでふたりは京都旅行することに

原作者は「一視聴者として、こんなにニコニコ笑っている西島さんを初めて見た」(劇場用パンフレットでのインタビューにおける発言)と喜びを表明しているが、この作品における西島秀俊の笑顔にこそ、この俳優の資質はあるのではないか。

西島秀俊は、笑顔で貢献する。
西島秀俊は、笑顔で献身する。

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  • 劇場版『きのう何食べた?』

    2021年11月3日(水・祝)より全国東宝系にて公開
    監督:中江和仁
    脚本:安達奈緒子
    原作:よしながふみ『きのう何食べた?』(講談社「モーニング」連載中)
    出演:西島秀俊、内野聖陽、山本耕史、磯村勇斗、マキタスポーツ、高泉淳子、松村北斗(SixTONES)、田中美佐子(友情出演)、チャンカワイ、奥貫薫、田山涼成、梶芽衣子
    配給:東宝
    (c)2021 劇場版「きのう何食べた?」製作委員会 (c)よしながふみ/講談社

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