『きのう何食べた?』で表出した西島秀俊の資質
作品が望むものを己に浸透させ、その上でぐいっと前に出る芝居ができる運動体。
それが西島秀俊だ。
知性もある。理論もある。
だが、それ以上に、腕力が際立つ。
ぶっとい反射神経。
揺らがぬ持久力。
いつでも立ち上がる魂。
静謐な高揚。
駆け抜けても擦り切れぬ鼓動。
西島秀俊について想いを巡らすことは、アスリートについて考えることに等しい。
今、送り届けられたばかりの最新主演作劇場版『きのう何食べた?』を観て、あなたは何を思うだろうか。
人気深夜ドラマ、待望の劇場版。もうひとりの主演者、内野聖陽と共に同居するカップルを演じている。
とても心温まる世界観である。弁護士でありながら、無類の節約派で、その延長線上に料理もある料理好き。安くて、身体にも心にもおいしいものを作ることが、ある種の生きがいにもなっているかのような主人公を、パートナーとの日常を通して、丁寧に表現している。
西島秀俊が作る人。
内野聖陽が食べる人。
そのような関係性の安定が、両者のコミュニケーションを形作っている。時にすれ違いもあるが、家で食事を共にすることで保たれ証明されるものが、ふたりにはある。
おしゃべりで、屈託がなく、チャーミングで、大らかな内野の役とは対象的に、よけいなことは言わず、こだわり屋で、無愛想で、神経質でもある西島の役どころが、逆説的にこの演じ手の本質を照射しているように思う。
内野が陽性のキャラクターを細やかな積み重ねによって具現化しているのに対し、西島は内向的にも映る人物を思いきりよく、ある意味、爽快に顕しているから、感動させられる。
両者が、役のタイプと演技アプローチをあえて入れ替えて演じているかのように思えるから、このシリーズは懐深い。俳優同士が互いを信頼しているから可能になったコラボレーションであろう。
たとえば、内向的なキャラクターを内向的に表現したら、どうなるか。あるいは、明るい人物を明るく演じたら、どうなるか。どちらも、トゥーマッチでつまらない芝居にしかならない。
原作者は「一視聴者として、こんなにニコニコ笑っている西島さんを初めて見た」(劇場用パンフレットでのインタビューにおける発言)と喜びを表明しているが、この作品における西島秀俊の笑顔にこそ、この俳優の資質はあるのではないか。
西島秀俊は、笑顔で貢献する。
西島秀俊は、笑顔で献身する。
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劇場版『きのう何食べた?』
2021年11月3日(水・祝)より全国東宝系にて公開
監督:中江和仁
脚本:安達奈緒子
原作:よしながふみ『きのう何食べた?』(講談社「モーニング」連載中)
出演:西島秀俊、内野聖陽、山本耕史、磯村勇斗、マキタスポーツ、高泉淳子、松村北斗(SixTONES)、田中美佐子(友情出演)、チャンカワイ、奥貫薫、田山涼成、梶芽衣子
配給:東宝
(c)2021 劇場版「きのう何食べた?」製作委員会 (c)よしながふみ/講談社関連リンク
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