電気グルーヴに深く刻まれた哲学「君が捨てている部分が一番大事なところ」【Roots of 電気グルーヴ#6:Pop Will Eat Itself】
電気グルーヴの石野卓球とピエール瀧が音楽的なルーツについて語るトーク番組『Roots of 電気グルーヴ ~俺っちの音故郷~(仮)』。株式会社ビーアットのプロジェクト「BE AT TOKYO」がサポートし、同社が運営するラフォーレミュージアム原宿のコミュニティスペース「BE AT STUDIO HARAJUKU」で収録、YouTubeとポッドキャストで多角的に発信されているコンテンツで、このQJWebではテキスト版をお届けしている。
第1回のニュー・オーダー、第2回のDAF、第3回のダニエル・ミラーとミュート・レコード、第4回のデペッシュ・モード、第5回のパレ・シャンブルグにつづく今回のテーマは、ポッピーズことポップ・ウィル・イート・イットセルフだ。記事ではトークの途中途中で飛び出す固有名詞に詳しい注釈をつけているので、ぜひサブテキストとしてお楽しみいただきたい。
2回繰り返すと「音楽」になる
ピエール瀧 さあ、今回のテーマは?
石野卓球 はい。今回は、ポップ・ウィル・イート・イットセルフ(※1)。
瀧 ポッピーズ。
石野 「ぽっぷうぃるいーといっとせるふ」。これ、すごい日本語的な発音だよね(笑)。ウチらが電気グルーヴを結成するにあたって、すごく影響を受けたグループだよね。通称「ポッピーズ」。あと、頭文字を取って「PWEI」っていうね。このロゴとかね。
瀧 今見るとすげえ90sな感じがするね(笑)。
石野 デザイナーズ・リパブリック(※2)だからね。知らない方に軽く説明すると、イギリスのバーミンガム出身のバンドなんだけど。1986年に結成なんだって。
瀧 あっ、けっこう古いんだな。
石野 そう。意外に古いんだよね。で、前身バンドはシラフで演奏したことがないっていうぐらい、毎回酒を飲んで演奏するっていうのが売りだったんだって。
瀧 なるほど。バイアグラ・ボーイズ(※3)スタイル(笑)?
石野 バイアグラ・ボーイズいいよね〜。それもいずれやろう。
瀧 ルーツかどうかっていうと、またアレですけどね(笑)。
石野 だけど、そういうのも今後やっていきたいなって。
瀧 (ポップ・ウィル・イート・イットセルフは)ポップギターバンドなんだけど──。
石野 インディギターバンドね。
瀧 バンドバンドしてないったらアレだけど、ちょっとエレクトロニックな要素が入ってる。
石野 「バンドバンド」(笑)? デュラン・デュラン、まえだまえだ、Francfranc(フランフラン)……プリンセス プリンセス(笑)。
瀧 ポパイポパイ(※4)。
石野 あっ!
瀧 「あっ!」じゃねえよ(笑)。
石野 ずるい! 今ほんとに一瞬「ずるい!」って思っちゃった(笑)。「そっちのほうがよかったのに!」って(笑)。で、これが87年に出たファーストアルバムなんだけど。
瀧 『Box Frenzy』。
石野 ほら、裏ジャケでもビール飲んでる。
瀧 ほんとだね。いいね。信用置けるな〜。
石野 (笑)。ほんと、痛風なんか怖くないって感じでしょ(笑)。
瀧 このノリでバンドやってるぜってことだもんね(笑)。
石野 俺が最初に聴いたのはこれ(『Box Frenzy』)だったんだけど、まず名前がかっこいいよね。
瀧 うん、そうね。「ポップ・ウィル・イート・イットセルフ」。
石野 で、日本だと「ポップ・ウィル」とか「PWEI」だけど、イギリスでは「ポッピーズ」って言われてて。ケミカル・ブラザーズとかも日本だと「ケミブラ」とか言うじゃん。でも、イギリスだと「ケムズ」って言う。
瀧 日本の略し方とちょっと違いますよね。
石野 そうそう。だから、お前が高校時代に先輩から「顔」って呼ばれてた、みたいな感じ? 「瀧」っていう呼びやすい名前があるにもかかわらず、「顔」って呼ばれてたっていうさ。
瀧 文字数は合ってるからね。
石野 (笑)。
瀧 増減ないから、まあそこはいいでしょう。
石野 もう色んなとこで話してるけど、瀧が高校時代、野球部で1年のころに部室で説教を受けて、足上げとかやらされるじゃん。今や失われた昭和の文化「野球部いじめ」っていう。
瀧 「1年、たるんでるから集まれ〜!」って説教食らったりするわけですよ。
石野 「集まれ〜!」(※5)っていうのはもちろん闘莉王のやつでしょ(笑)。闘莉王、いいよね。
瀧 好きだよね、お前。闘莉王と斎藤佑樹がほんとに好きだよな。
石野 ははははは(笑)!
瀧 たまに俺に斎藤佑樹情報を送ってくることあるもんな。
石野 野球に関しては瀧のとこに集めたいっていうのがあるんで。野球に関しての情報と、ここ2年ぐらいの「俺はコロナだ」っていうやつの事件に関しては、必ず見つけたら瀧に送るようにしてるもんな。「俺が畳だ!殿様だ!」(※6)に対して、「俺はコロナだ!陽性だ!」っていうさ。これ、現代版としてカバーで出せばいいじゃん。俺すげえ適当に言ってるけど、絶対ダメだよね(笑)。
瀧 「俺はコロナだ!陽性だ!」。売れようがないよね(笑)。
石野 どこまで話したっけ?
瀧 え〜……忘れた。
石野 忘れるよね(笑)。忘れるのが何が悪いっていうか、だって俺たち何年やってると思ってんだっていう。俺たちいくつだと思ってんだって。あっ、先輩の話だ。レベッカの曲に入っていた「せんぱ〜い」っていう幽霊の声(※7)ね(笑)。
瀧 「せんぱ~い」はレベッカじゃないでしょ。岩崎宏美じゃなかったっけ。
石野 それは「万華鏡」でしょ。「万華鏡」は「うぉ〜」っていうやつ(※8)。で、「レベッカの先輩」が──。
瀧 そっち行くの? そっちの道、曲がるんだ?
石野 当時の東高のレベッカ先輩が闘莉王よろしく「集まれ〜!」って。「集まれ〜!」はケンタッキーのCMだったっけ?
瀧 のちにCMになったけど──。
石野 CMからでしょ? そんなに「集まらせて」ねえと思うもん。あと、サッカー選手が「集まれ〜!」って言ってるのがのちにCMに使われるってなんだよっていう(笑)。
瀧 そっか。そしたら、カズダンスみたいなものだもんな(笑)。
石野 あっ、そっちまで行く?
瀧 同郷の先輩ね、一応(笑)。
石野 ちなみに俺、カズと同じサッカー部員で。
瀧 違うだろ(笑)。
石野 それは嘘ですけど(笑)。
瀧 卓球くんが行ってた高校の1個上にカズがいたんだけど、もう入学早々──。
石野 ブラジルに留学して。ブラジルのコーヒー農園に(笑)。それがのちのアントニオ猪木(※9)(笑)。アントニオ猪木の最初の芸名知ってる?
瀧 「死神酋長」?
石野 リングネームね。あれを推したのが、実は力道山だったっていう。
瀧 ……だから、カズは卓球くんの1個上なんです。名前が静岡中に轟き渡ったよね。
石野 「車」3つの「カーカーカー」で「カーズ」。それでできたのがゲイリー・ニューマンの「カーズ」(※10)。
瀧 なるほど。のちにアニメになる「カーズ」ね。
石野 車が2台停めてあったとこに、こうやって縦列駐車で真ん中に入ってったの。それで「轟」っていう。しかも、「キー!」ってドリフトで停めて……それはどうでもいいんだけど。
瀧 「轟」って言ったときにお前をちらって見たら、もう「そっちに行くな」って思ったもん。
石野 「外れるのはカズ、キングカズ」(※11)っていう。岡ちゃんが言ったのは「三浦カズ」だから違うけどね。「外れるのはカズ、キングカズ。そして、俺がキング」(笑)。岡ちゃんの有名なセリフね。わかる人いるのかな? あのころ生きてた人、全員死んでるだろ。
瀧 「俺がキング」は言ってないから、わかるやつはいないと思う(笑)。
石野 「顔」の話に戻るけど、野球部の部室に呼ばれて、「1年全員足上げだ!」っていうのがあるじゃん。で、みんな足上げしてて、先輩が「端からひとりずつギャグを言って笑わせろ」っつって、ひとりずつギャグを言ってったんだけど、瀧が初っ端に「こんばんは、裕子と弥生です!」っつって、「馬鹿野郎! 連帯責任だ! もう1回最初からだ!」って。
瀧 それ、「顔」の話と違うよね(笑)。
石野 ごめん。俺、別の話をし出しちゃった。
瀧 かけるレコードを間違えたっていう(笑)。
石野 セカンドシングルのほうかけちゃった。
瀧 DJとは思えないわ、ほんとに。
石野 バックスピンで(曲を)消して、1回無音を作ったほうがフロアが盛り上がるから。「どうしたんだ!?」っていう。
瀧 待ってる感を出しながら。本当は自分が間違えたんだけど、「待たせてるんだぜ」っていう感じにして(笑)。わかる。俺もたまにライブで歌詞が歌えなかったとき、そうすることあるもん。
石野 音楽っていうのは1回失敗してすぐやり直すと、それは失敗なんだよね。それが、2回繰り返すと「音楽」になるんだよね。
瀧 わかる。
石野 瀧くんはね、「ベートーベン」ってバンドをやってましたから(笑)。ヒット曲に「ジャジャジャジャーン」など(笑)。ベートーベンって「ジャジャジャジャーン」の一発屋だろって(笑)。
瀧 「サビしか知らねえ、サビ始まりなんでしょ?」って(笑)。
石野 俺がかけたかったほうのレコードにしていい? また瀧の部室の話ね。瀧が闘莉王先輩に「集まれ〜!」って呼び出されて、で集まったんだよね。まず先輩の説教があります。1年生全員正座させられて、そこで「外れるのはカズ、俺がキング」っていうのがひとくさりあって(笑)。で、先輩が「ひとりずつお前らのダメなところを言ってく!」って言って。「まず〇〇、お前は……」って言っていって、そして瀧の番に「顔!」っていう(笑)。そのときに瀧と並んでる1年がみんな「ぷっ」って笑って、「何お前ら笑ってんだ! 足上げだ!」って(笑)。
瀧 「顔!」って言われたときに顔を上げちゃって。
石野 はははは(笑)!
瀧 まだ新入生で先輩は名前覚えてないからさ、たとえば石野ならここ(ユニフォームの胸の部分)に「石野」ってつけるわけよ。うしろを向いたときにわからないから背中にも「石野」っていう背番号みたいのを作って、そこに縫いつけるわけよ。もしくは、マジックで直で書くんだけど。それで「おい、瀧、お前は『顔』だから『顔』って書け!」って言われて。それはちょっと……っていう。
石野 って書いたの? 「それはちょっと」って(笑)。
瀧 ずんのやす(笑)。
石野 ずんのやすのトークライブと同じ感じで、「それはちょっと」って(笑)。で、「おい! 『それはちょっとの顔』!」って呼ばれるんでしょ(笑)。
瀧 っていうので、勘弁してもらった思い出があります。ポップ・ウィルの話、まったくしてないけどな(笑)。
※1 ポップ・ウィル・イート・イットセルフ(Pop Will Eat Itself):前身バンドのフロム・エデン(From Eden)、ワイルド・アンド・ワンダリング(Wild And Wandering)を経て、1986年にクリント・マンセル、アダム・モール、リチャード・マーチ、グラハム・クラブがイギリス・スタウアブリッジで結成したバンド。同年にシングル「The Poppies Say Grrr!」でデビュー。1989年、「Can U Dig It?」や「Wise Up! Sucker」といったシングルをヒットさせる。1996年に解散。2005年に一時的に再結成。2011年以降はグラハム・クラブを中心に新たなメンバーで活動中。
※2 デザイナーズ・リパブリック(The Designers Republic):1986年にイアン・アンダーソンとニック・フィリップスがイギリス・シェフィールドで設立したグラフィックデザインスタジオ。ポップ・ウィル・イート・イットセルフの作品や、オウテカ、エイフェックス・ツインなど、同郷のワープ・レコーズの作品のアートワークを手がける。
※3 バイアグラ・ボーイズ(Viagra Boys):2015年に結成されたスウェーデン・ストックホルムのポストパンクバンド。2018年にファーストアルバム『Street Worms』をリリース。2021年1月にセカンドアルバム『Welfare Jazz』をリリース。
※4 ポパイポパイ:電気グルーヴが1996年にリリースしたアルバム『ORANGE』の収録曲。
※5 集まれ〜!:田中マルクス闘莉王がケンタッキーフライドチキンのCMに出演した際のセリフを2010年に今野泰幸がものまねしてネタ化した。
※6 俺が畳だ!殿様だ!:人生の楽曲で畳三郎(ピエール瀧)の持ち歌。アルバム『顔として…』や『SUBSTANCE V』、『人生 ナゴムコレクション』に収録。電気グルーヴのライブでも披露されることがある。
※7 レベッカ「MOON」の「せんぱ~い」:1988年のシングル「MOON」で「せんぱ~い」という声が聞こえる部分があり、幽霊の声ではないかという噂が広がった。
※8 岩崎宏美「万華鏡」の声:1979年のシングル「万華鏡」のエンディングで男性のうめき声に聞こえる部分があり、幽霊の声ではないかという噂が広がった。
※9 アントニオ猪木:1943年生まれ、日本の元プロレスラー。13歳のときに家族でブラジルへ移住、コーヒー豆の収穫など過酷な労働をしていたという。「死神酋長」はテレビドラマ『チャンピオン太』(フジテレビ/1962〜1963年)での役名。
※10 ゲイリー・ニューマンの「カーズ」:イギリスのシンセポップアーティスト、ゲイリー・ニューマンのソロデビューシングル「Cars」(1979年)のこと。国内外でヒットし、彼の代表曲として知られている。
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