電気グルーヴに深く刻まれた哲学「君が捨てている部分が一番大事なところ」【Roots of 電気グルーヴ#6:Pop Will Eat Itself】


パンクのアティテュードでエレクトロニックを操る

石野 で、90年に来日してるんだよね。これ、ウチら行ったよね。

 行きましたね〜。(クラブ)クワトロですよ。

石野 渋谷のね。覚えてる? これ、土曜日だったんだよね。で、ポップ・ウィルが2ステージだったのよ。普通のコンサートの時間だったら7時ぐらいにスタートして終わるんだけど、さらにもう1本オールナイトでっていう2回まわしで、ひと晩に2本やってたのよ。それはもちろん、オールナイトのほうが絶対いいじゃん。だけどウチらは行けなかったの。で、早い時間(のライブ)だけ観て。

 あっ、土曜日だから?

石野 『オールナイトニッポン』(※25)だったのよ。それで、そのときの『オールナイトニッポン』で今日はこれを観に行ってきたって話したのを覚えてる。

 ステージを観たときに、両サイドにモニターを縦に積んでたのは覚えてる。やっぱこのビジュアルのイメージもあるからさ、楽しみにして観に行ってるじゃん。「どんなんなんだろうな?」と思ったら、当時ライブで映像をステージに取り入れるっていうのもまだそんななかったからさ。

石野 俺がこのときに覚えてるのは、当時はクリント・マンセルとグラハム・クラブってツインボーカルだったんだよね。ふたりボーカルがいて、それがかけ合いみたいな感じで、あとギターと、ドラム……いなかった気がするんだよな。

 ターンテーブルじゃなかったっけ?

石野 ターンテーブルと打ち込みとあとベースかな。とにかくそういうステージでやってて、クリント・マンセルがそのときステージでオーバーオールを着てたのよ。オーバーオールって、普通ここ(サスペンダー)を留めるじゃん。それを留めないで、前にべろんってやってベルトしてんのよ。片っぽだけ留めてて、片っぽだけびよーんってしてて。それがもうかっこよくて! しばらくそのあとずっとそれをまねして、そういう着こなしをしてた。ちなみにね、初期のポップ・ウィルって全部、作詞作曲が「ヴェステン・パンス(Vestan Pance)」っていう名前になってるのよ。これ、バンドのペンネームなんだって。

 あ〜、そうなんだ。バンドみんなで作ってるんだけど、別の名前でっていうことなんだ。

石野 そう。おもしろいじゃんっていう。酔ってやってんなって。クリント・マンセルは、このあと辞めちゃうんだよね。ちなみに、ポップ・ウィル・イート・イットセルフは96年に解散するんだよ。まあ、最近再結成してるんだけど、クリント・マンセルはずっと辞めたままで。実は彼は2000年代にアメリカに越して、映画音楽で大成するのよ。ダーレン・アロノフスキー(※26)、あの人の映画全部やってんのよ。

 マジで!?

石野 『レクイエム・フォー・ドリーム』。

 あれもそうなの!?

レクイエム・フォー・ドリーム

石野 そうそう。あと、それこそ『レスラー』。竹中直人の「♪それがレスラ~」じゃないほうね。あれ、最高だよな。あと『ブラック・スワン』とか。『攻殻機動隊』のハリウッド版(『ゴースト・イン・ザ・シェル』)とかもやってるのよ。

 なるほど! じゃあ、マーク・マザーズボー(※27)みたいな感じだね。

石野 ディーヴォのね。あの人もそうだし、あとSPKのグレアム・レヴェル(※28)とかもそうなんだよね。今ハリウッドで映画音楽やってて。で、ほかのメンバーは、ベントレー・リズム・エース(※29)ってあるじゃん。

 ベントレー・リズム・エース、俺好き。

石野 ファットボーイ・スリム(※30)とかさ、ビッグビート(※31)っていうのが流行ったとき、あれはポップ・ウィルのDJっていうか、打ち込みをやってた人が作ったユニットなんだよ。今も再結成して別のメンバーでやってたんだけど、ちょっとヘビーロック寄りになってたりとかして、正直ウチらが追ってたのはクリント・マンセルがいたときまでなんだけど。

 「軽くて」って言ったらちょっと変だけど、ちょっとイケイケでっていうやつね。

石野 そのへんの輩がサンプラーを使ってやって、パンクっぽいアティテュードでエレクトロニックを操る、っていうのの走りだよね。

 「考える前にもうやっちゃおうぜ!」みたいな感じのノリだったよね。

石野 そうそうそうそう。そういうのが、すごいよかった。パンクバンドだよね、感じとしてはね。ビースティ・ボーイズもハードコアバンドからヒップホップに行ったんだけど、それとはまたやっぱり違う。しかもバーミンガムっていうさ、ちょっとロンドンから離れた感じ。だから、ウチらも静岡だけど、なんかそれに近いっていうかさ。バーミンガムでもお茶が採れるかどうかはわからないけど(笑)。

 っていうか、イギリスのお茶はイギリスで採ってるわけじゃないから(笑)。

石野 あっ、そうなの? セイロン?

 そうでしょ。インド方面で採ってるんでしょ。

石野 ためになるよね〜。

 ためになりました? ありがとうございます(笑)。

※25 電気グルーヴのオールナイトニッポン:1991〜1994年に放送されたニッポン放送のラジオ番組。

※26 ダーレン・アロノフスキー:1969年、ニューヨーク生まれの映画監督。『レクイエム・フォー・ドリーム』(2000年)、『レスラー』(2008年)、『ブラック・スワン』(2010年)などの監督作で知られる。クリント・マンセルは、長編デビュー作『π パイ』(1998年)以降のアロノフスキー監督作のすべてで音楽を担当している。

※27 マーク・マザーズボー(Mark Mothersbaugh):1950年、アメリカ・オハイオ生まれのミュージシャン。ディーヴォのメンバーとして活躍したのち、多数の映画やゲームの音楽を担当している。

※28 グレアム・レヴェル(Graeme Revell):「グレーム・レヴェル」とも。1955年、ニュージーランド・オークランド生まれのミュージシャン。インダストリアルミュージックバンドSPKのフロントマンで、1990年代以降は映画音楽の分野で活躍した。

※29 ベントレー・リズム・エース(Bentley Rhythm Ace):1995年、イギリス・バーミンガムで結成されたエレクトロニックミュージックデュオ。メンバーはポップ・ウィル・イート・イットセルフのリチャード・マーチとマイク・ストークス。

※30 ファットボーイ・スリム(Fatboy Slim):1963年、イギリス・ロンドン生まれのミュージシャン、ノーマン・クックのステージネーム。代表曲は1999年の「Praise You」、「Right Here, Right Now」など。

※31 ビッグビート(big beat):1990年代に流行った音楽スタイル/ジャンルで、ブレイクビーツを中心としたエレクトロニックダンスミュージックのこと。ファットボーイ・スリムやケミカル・ブラザーズはその代表とされている。

無駄こそ無駄じゃない

この記事の画像(全18枚)


この記事が掲載されているカテゴリ

QJWebはほぼ毎日更新
新着・人気記事をお知らせします。