【『Roots of 電気グルーヴ ~俺っちの音故郷~(仮)』#3:Daniel MillerとMute Records】ミュートにハズレなし
電気グルーヴの石野卓球とピエール瀧が、彼らの音楽的なルーツとなったアーティストについて語るトーク番組『Roots of 電気グルーヴ ~俺っちの音故郷~(仮)』。株式会社ビーアットによる「BE AT TOKYO」がサポート、同社が運営するコミュニティスペース「BE AT STUDIO HARAJUKU」で収録されている。
第1回のニュー・オーダー、第2回のDAFと、好評を博している同番組の最新回が取り上げるのは、ダニエル・ミラーとミュート・レコードだ。1970年代末から独自のエレクトロニックミュージックを届けてきたミュートについて、ふたりが自由闊達に語った。
このQJWebのテキスト版では、トーク中に登場する固有名詞の数々に注釈を付している。すでに動画を楽しんだ方でも発見があるはずなので、ぜひご一読を!
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ミュート黎明期
ピエール瀧 さあ、今回のテーマはなんでしょう、卓球くん?
石野卓球 今回のテーマは、ダニエル・ミラー(※1)とミュート・レコード(※2)。(瀧のマスクを指して)これです。
瀧 マスクを買いました。
石野 瀧くんが今日着てるこれ(Tシャツ)も。
瀧 これは作ってもらったんだよね。
石野 お母さんに? 夜なべして、せっせと編んでもらったんだ(笑)。で、今回のテーマのダニエル・ミラーさんはイギリスの人で、ミュート・レコードっていうのを始めて、今もつづいてるんですけども。このレーベルの特に初期の音源に、僕らは非常に影響を受けてまして。ふたりが一緒にやる前のアマチュアバンドの、僕が最初に人前でやったライブでも──。
瀧 メリーノイズ(※3)ね。
石野 それもね、ミュート・レコードのアーティストのカバーというか、コピーをしまして。コピーも、うまくできてなかったんだけど。
瀧 コピーしてたつもりだけど、ほぼオリジナルになっちゃってたっていう。でも、それがオリジナルのスタートじゃない?
石野 ほんとにそう思う。コードとかも知らなかったしね。
瀧 和音が出るシンセもなかったし。
石野 で、ミュートなんだけど、78年に出たダニエル・ミラーのユニットのノーマル(※4)の「Warm Leatherette」っていうシングル、これが第一発目で。でも、このあとは出してないんだよね。これ(『Live At West Runton Pavilion, 6-3-79』)はミュートじゃないんだけどライブ盤で、ロバート・レンタル(※5)&ザ・ノーマル名義の片面レコードで、客席でカセットで録った、もう音がバリバリに割れてるようなやつなんだけど。
石野 78年っていったらパンクの時代なんだけど、そのころからイギリスとかでもインディーレーベルが盛んになって、その中でもミュートが異彩を放ってたのは、全部シンセサイザーでやってたこと。今みたいなコンピューターがない時代に、アナログシーケンサーとか、さっき言った和音が出ないモノフォニックのシンセのみで作られてて。パンクの時代にこれをやってたっていうのが、すごいことなんだよね。先見の明があるというかさ。
瀧 でも、精神としてはパンクですよね。
石野 そうそう。DIY精神ね。これ(「Warm Leatherette」)は未だに名曲って言われてるんだけど、メロディというよりも、ビートのみっていう。あと、メロディを歌わないボーカルというかさ、ボイスというかさ。
瀧 フレーズだけをずーっと繰り返すだけ、みたいな。
石野 言ったら、ミニマルだよね。音も4つぐらいしか入ってないんだけど。これがね、とにかくクセになるんですよ、よけいなものがないから。何も足さない、何も引かない、何もない、っていう(笑)。ちなみに僕ね、ソロでカバーしたことがあって。「The Rising Suns」(2004年)っていうシングルを切ったときにそのカップリングで入ってるんで、興味ある方は探してみてください。
石野 ミュートは、最初はダニエル・ミラーのプライベートレーベルって感じだったんだけど、次にファド・ガジェット(※6)っていうアーティストを出すんだよね。この『Fireside Favourites』(1980年)は、最初にミュートから出したアルバムなんだけど。これはね、フランク・トーヴェイっていう人がボーカルっていうか、その人のソロユニットだね。小山田圭吾のコーネリアスとか、バカリズムみたいな感じ(笑)。実はファド・ガジェットも、アマチュア時代にコピーをしていて。
石野 「Ricky’s Hand」(1980年)っていう、このシングルがすごくいいんです。これ(7インチ)じゃなくて、「One Man’s Meat」(1984年)っていう12インチのB面の2曲目に入ってるライブバージョンがすごくいいんですよ。この曲がおもしろいのは、(ジャケットの)裏に書いてあるけど、電気ドリルを使ってるんだよね。
瀧 「♪リッキーズハーンド ギーーーーー!」っていうね。
石野 ウチ、土建屋をやってたから、電気ドリルもあったのよ。
瀧 お前の部屋、電気ドリルもあるし、グラインダーもあったよな。
石野 あった。でも、テレビはなかった。ラジオはあった。
石野&瀧 「レーザーディスクは Who are you?」(※7)だった(笑)。
石野 ちなみに、これはミュートの2番。ノーマルのあとに出たシングル「Back to Nature」(1979年)。ちょっとデヴィッド・ボウイっていうかさ、その雰囲気の感じの低温のボーカルなんだよね。
瀧 渋くて、曲調もわりと暗めが多いんですよね。
石野 これも実際、音をやってたりプロデュースしてたりするのはダニエル・ミラーで、彼が絡んでるんだよね。次に出たのがこれ、『Boyd Rice』(1981年)っていう。(スリーブに「Boyd Rice」と書いた)紙を入れてるんだけど、入れとかないと(ジャケットが真っ黒なので)なんのレコードだかわかんなくなるんだよね。一応、エンボスで「BOYD RICE」って入ってるんだけど。ボイド・ライス(※8)は……テープアーティスト?
瀧 テープコラージュアーティスト、みたいな人だよね。
石野 テープをループさせて、イコライザーとかをいじって、ループに音質の変化を足していくっていう。
瀧 そのテープループも、リズムとかじゃないんだよね。ノイズとか、環境音みたいなやつとかで。
石野 オーケストラの一部とかね。まあ、聴かないとわかんないんだけどね。知らない人が聴いたら、ただの針飛びにしか聴こえないんだけど。そのループにEQで変化をつけていくっていうのは、もう今の音楽の作り方としては当たり前のことじゃないですか。アシッド(ハウス)とかさ、フィルター系のダンスミュージックとか。ボイド・ライスは、それを当時やってて。
しかもこれ、「45回転でも33回転でも、どっちで聴いてもいいですよ」って書いてあって。だから、これはCDとかでは出てないんだよね。ちなみに、ミュートのシングルを集めたボックスセット(※9)があって、ミュートから出たシングルがほとんど入ってるんで、ぜひ聴いてみるといいんですけど。これにもボイド・ライスの曲が何曲か入ってるの。でも、やっぱCDで聴くのとアナログで聴くのは意味が違うっていうかさ。
瀧 そうだよね。
石野 45でも33でもいいっていう、それには当時すごい衝撃を受けて。「そんなことあるんだ!」っていうね。
瀧 最初聴いたとき、「何がおもしろいんだろう?」と思ったもん。
石野 でも、今の耳で聴くとね、普通に聴けるっていうか、流しておける。
※1 ダニエル・ミラー(Daniel Miller):1951年、イギリス・ロンドンのメリルボーン生まれのプロデューサー、ミュージシャン。ミュート・レコードの設立者で、後述する数々の変名、バンド、プロジェクトで作品を発表。
※2 ミュート・レコード(Mute Records):1978年にダニエル・ミラーが設立したイギリスのインディペンデントレーベル。エレクトロニックミュージックや実験音楽に始まり、現在に至るまで幅広い音楽を扱い、シングルのカタログナンバーは600を、アルバムは400を超える。多数のサブレーベルも抱えている。
※3 メリーノイズ(Merry Noise):石野文敏(石野卓球)が吉野英彦と初めて組んだバンド、宅録ユニット。石野卓球のYouTubeチャンネル『takkyu ishino』で当時の録音を聴くことができる。
※4 ザ・ノーマル(The Normal):ダニエル・ミラーの変名、ソロプロジェクト。J・G・バラードの小説『クラッシュ』にインスパイアされたという7インチシングル「T.V.O.D. / Warm Leatherette」を、1978年にミュートのカタログナンバー1番としてリリース。1980年にロバート・レンタルとのライブアルバム『Live At West Runton Pavilion, 6-3-79』をラフ・トレードからリリース。「Warm Leatherette」はグレース・ジョーンズやデュラン・デュラン、トレント・レズナー、ボイド・ライスら、多数のアーティストにカバーされている。
※5 ロバート・レンタル(Robert Rental):1952年、スコットランド・グラスゴー生まれのミュージシャン。本名はロバート・ドナチー(Robert Donnachie)。ミュートからのシングル「Double Heart / On Location」(1980年)やトーマス・リアとのコラボレーション作品など、数点を発表。2000年没。
※6 ファド・ガジェット(Fad Gadget):フランク・トーヴェイ(Frank Tovey)のステージネーム、ソロプロジェクト。1979年にシングル「Back to Nature」でデビュー。シンセサイザーと共にドリルや電気カミソリなど、楽器以外のモノ(ファウンド・オブジェクト)の音を音楽に持ち込むことで知られる。なお、「One Man’s Meat」に収録されている「Ricky’s Hand」のライブは、1984年にマンチェスターのハシエンダで録音されたもの。トーヴェイは2002年に逝去。
※7 レーザーディスクは Who are you?:前回「【『Roots of 電気グルーヴ ~俺っちの音故郷~(仮)』#2:DAF】「君のことを考える」ってタイトルが沁みる」を参照。
※8 ボイド・ライス(Boyd Rice):1956年、アメリカ・カリフォルニアのレモングローブ生まれの実験音楽家。「ノン(NON)」としても活動する。「ロトギター」という自作楽器やファウンドオブジェクトを使用した演奏、大音量のノイズパフォーマンスなどで知られ、その表現は多岐にわたる。ファーストアルバム『Boyd Rice』(「The Black Album」とも呼ばれる)は1977年に自主リリースされたあと、1981年にミュートからリイシューされた。
※9 Mute Audio Documents:2007年にリリースされたCD10枚組のボックスセット。1978年から1984年までにミュートがリリースしたシングルを収録。初CD化の楽曲も多かった。
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