ダニエル・ミラーとの邂逅
石野 ちなみに俺、ダニエル・ミラーに最初に会ったのがラブパレード(※28)だったのよ。そのころに、我々の友達のDJウエストバム(※29)の『We’ll Never Stop Living This Way』(1997年)っていうアルバムを編集したものがミュートから出るっていうことがあって、その打ち合わせで、ちょうどラブパレードの時期にダニエル・ミラーがベルリンに来てたんだよね。で、ホテルのロビーでウエストバムと一緒にダニエル・ミラーと挨拶したんだけど。
ちなみに、ミュートから出たアルバムはドイツ盤とちょっと内容が違ってて、ミュート盤のほうにはウエストバムと一緒にやった「タクバム(Takbam)」っていうユニットの「Elektronische Tanzmusik」って曲が入ってるの。だから、ちょっとうれしい。
瀧 なるほど。一応、ミュート傘下に入ったことがあるっていう。お~、いいなあ!
石野 気がついたら入ってたってだけなんだけど。それが最初で、次にダニエル・ミラーと会うのが2016年。代官山のSankeys TYOっていうクラブで、DJで一緒になるんですよ。そのあと、2017年にも僕がWOMBでやってた「STERNE」(※30)っていうレギュラーパーティーにもゲストで来て、2016年の9月と2017年の12月にダニエル・ミラーと一緒にDJやっててね。そのときのエピソードがあってさ。
瀧 ダニエル・ミラーがDJで来るっていったら、こっちとしては心躍るわけですよ、本当に。「どんなんかけんだろう?」っていう。「ノーマルからスタートするのかな? そんなわけねえわ!」って思いながらさ、行くわけじゃん。そこで、隙あらば、あのダニエル・ミラーと──。
石野 あの財布を狙ってやれと(笑)。ポンド札を。
瀧 隙あらば、写真を撮りたいわけですよね。ミーハーっすけど。でも、ダニエル・ミラーがどんな人物かわかんないじゃん。フレンドリーかもわかんないし、そうじゃないかもしんないし。あと、こっちも失礼なことはしたくないっていう。そんなに英語も得意じゃないけども、なるべく英語で「big funなんです!」って言おうとか、「“big fun”はよくないかな~?」とか、いろんなことを思いながら。
石野 “Where is your wallet?”ってね(笑)。
瀧 じゃなくて(笑)。で、WOMBに行ったら、ちょうど2階席にダニエル・ミラーがいて。そろそろと彼のところへ行って、「写真いいっすか?」って撮らせてもらいましたよ。そしたら、そのときのダニエル・ミラーがめっちゃ不機嫌だったっていう(笑)。写真、見ます? さんちゃんってウチのマネージャーに撮ってもらったんだけども、露出を飛ばしやがってさ。「何この写真?」って感じじゃん。
石野 「サウナですか?」みたいな(笑)。
瀧 でも、「もう1枚お願いします」って言えなかったっていう。その写真がこれです(スマホを見せる)。でも、俺はうれしい。何かをクリアした感じがする。
石野 ちなみに、ダニエル・ミラーのあとが俺のDJだったんだけど、自分の出番ギリギリぐらいに行ったんで、彼がDJやってたときに着いてブースに入ったんだけど。当日、マネージャーのさんちゃんが着てたのが、ノーマルの今まで再発されたレコードの品番がずらっと書いてある超マニアックなTシャツで(笑)。
瀧 「いい角度のやつでしょ?」っていうね(笑)。
石野 で、ダニエル・ミラーに「こんにちは。財布、まだありますか? 気をつけてくださいよ」って言って、俺は準備してたの。さんちゃんはそのとき、上着を着てたのね。で、写真を撮る前の瀧が俺のところに来て、「ダニエル・ミラーに声をかけたいんだけど、さっきほかのお客さんが『Warm Leatherette』のシングルを持って『サインくれ』って言ったら、“No!”ってピシャリと言われてたんだよね。それを見たら、怖くて声がかけられない」っていう話をするのよ。それを聞いたさんちゃんが、上着を脱げなくなっちゃって。その日、さんちゃんはずっとクラブの中で上着を着てたっていう(笑)。クラブの中、暑いのにね(笑)。
でもまあ、気持ちもわからないわけではないんだよね。だって、78年に出したレコードだし、世界中でそれをやられてるわけですよ。これ(「Warm Leatherette」)にサインをくれってやつは、相当オタクが多いから気持ち悪いっていう印象なんだと思うよ。
あと、最近でも、ガレス・ジョーンズ(※31)ってデペッシュ・モードとかのエンジニアをやってた人と一緒にコラボユニットのサンルーフっていうのをやってるんだって。
石野 あと、これね。『Early Mute Selection “The Scientifically Tunes”』(1998年)っていう、初期のミュートのシングルとかを僕が選曲して選んだアルバムなんですよ。ミュートはとにかく、エレクトロニックミュージックっていうことでずーっと、一本筋が通ってるというかね。もちろん、幅広くやってるんだけど。
瀧 エレクトロニックミュージックを広めたっていうか、作ったと言っても過言ではないですよね。
石野 そのとおり。そういう点で、もう信用ができるレーベルっていうことでね。
瀧 我々のルーツですよ、ということですかね。
石野 ほんとに色んなアーティストが出てるんで。ミュートにハズレなし、ということで。あと、カンとかも再発で出てるっていうね。とにかく、再発モノもすごいんで。
瀧 最近は、テレックス(※32)ですよね。
石野 そうそう。あと、言うの忘れたけど、サブレーベルのノヴァミュートは、もうちょっとダンスフロア向けのテクノを出してて。それこそモービー(※33)とか、ジュノ・リアクター(※34)とか、プラスティックマン(※35)も出してたよね。とにかく、エレクトロニックミュージックの名門レーベル。
瀧 掘りがいがありますよと。ということで、今回の……なんだっけ? タイトル忘れた(笑)。
石野 『俺っちのウェディング』(※36)(笑)。時任三郎の。「ときにんざぶろう」の(笑)。
瀧 「ときにんざぶろう」、おもしろいな(笑)。
石野 それ、昔から言ってたよ。『ふぞろいの林檎たち』(※37)の岩田のころから言ってる。
瀧 もうそっちに広げ出すと、また尺が増えるので(笑)。じゃあ、次回で。
※28 ラブパレード(Loveparade):1989年にドイツ・ベルリンでスタートしたレイヴ。石野卓球は日本人で初めて参加、ファイナルギャザリングでプレイするなど、たびたび出演している。2010年、死傷事故が発生したため終了。
※29 ウエストバム:前回「【『Roots of 電気グルーヴ ~俺っちの音故郷~(仮)』#2:DAF】「君のことを考える」ってタイトルが沁みる」を参照。『We’ll Never Stop Living This Way』は1997年にドイツのレーベル「Low Spirit Recordings」からリリースされたあと、1999年に収録曲などを変更してミュートからリリースされた。
※30 STERNE:2002年から東京・渋谷のクラブ「WOMB」で開催されていた石野卓球によるレジデントパーティー。2018年に16周年を迎えて終了。「Sterne(シュテルネ)」はドイツ語で「星」の意味。
※31 ガレス・ジョーンズ(Gareth Jones):1954年、イギリス・ウォリントン生まれのプロデューサー、エンジニア。デペッシュ・モード、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン、ワイアーとの仕事で知られる。ダニエル・ミラーと「サンルーフ(Sunroof)」として1990年代からリミックスなどを行い、2021年にファーストアルバム『Electronic Music Improvisations Vol. 1』をリリースした。
※32 テレックス(Telex):1978年に結成されたベルギーのシンセポップグループ。2021年にミュートのリイシュープロジェクトが始まり、4月にコンピレーションアルバム『This Is Telex』がリリースされたばかり。
※33 モービー(Moby):1965年、アメリカ・ニューヨーク生まれのミュージシャン。パンクバンドでの活動を経て、ダンスミュージックへ転身。1991年に「Go」のヒットでブレイクする。
※34 ジュノ・リアクター(Juno Reactor):1990年に結成された、ベン・ワトキンスを中心とするロンドンのダンスミュージックグループ。
※35 プラスティックマン(Plastikman):ダンスミュージックプロデューサー/DJのリッチー・ホウティンによるソロプロジェクト。ミニマルテクノの代表的なアーティストで、2014年に11年ぶりのアルバム『EX』をリリースした。
※36 俺っちのウェディング:1983年の映画。監督は根岸吉太郎、脚本は丸山昇一、主演は時任三郎。
※37 ふぞろいの林檎たち:1983年から1997年に放送された、山田太一の脚本によるテレビドラマ。「岩田(健一)」は時任三郎の役名。
<BE AT TOKYO>
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