電気グルーヴ、コンセプトの源になった言葉を明かす「陳腐なことを重ねていくとスーパー陳腐なものができ上がる」【Roots of 電気グルーヴ#5:Palais Schaumburg】
電気グルーヴとの関係
石野 ホルガー・ヒラーの『Ein Bündel Fäulnis In Der Grube』は、今聴いても全然楽しめると思います。あとホルガー・ヒラーは、これ(「Hyperprism」1986年)とか。のちにミュート(※22)からも色々出すよね。これ(「Whippets」1987年)は、アソシエイツ(※23)ってバンドのビリー・マッケンジーがボーカルやってたりとかね、けっこうおもしろいの出してる。あと、これ。俺たちの大好きなアンドレアス・ドーラウ(※24)と組んだ、アンドレアス・ドーラウ&ホルガー・ヒラーのオペラ。
瀧 夢の組み合わせ。
石野 だけど、そんなにおもしろくないんだよね。「Guten Morgen Hose」(1984年)、「おはようズボン」っていうね(笑)。いいよね、ほんと。パレ・シャンブルグの話に戻ると、そのあとホルガー・ヒラーはパレ・シャンブルグを辞めちゃうんですけど、辞めたあとにこのヴァルター・ティエルシュっていう人が入って、今度はこの人がボーカルになって。このセカンドアルバムはファーストからぜんぜんトーンが変わって、ちょっとラウンジっぽいんだよね。アコースティック色も強いっていうかさ。
石野 これは『Lupa』(1982年)っていうアルバムなんですけど、これもね、いいんですよ。ちなみに、俺、YELLOW(※25)でやってたレギュラーパーティーと、ソニーの中でやってたレーベルのタイトルが『LOOPA』(※26)っていうんですけど、スペルは違うけどここから取りました。あと、これ(「Lupa」)とかね。これはエッチング。片面シングルで、こっち(エッチングされていないA面)は音が入ってるんだけど。
瀧 これ、すげえな。
石野 いいでしょ。おそらくこのアルバム(『Lupa』)はね、ほとんど売れなかったと思うんだよね。ここから、実際にはちょっと迷走期間。で、『Lupa』を出して、そのあと同じメンツで、「Hockey」(1983年)。これもいいよね。(「Hockey」のレコードを2つ並べて)これ、違いわかる?
石野 同じ曲なんだけど、こっちはドイツ盤なのよ。このころはメンバーがこんだけいたんだけど(ジャケットを裏返してメンバーが5人写っている写真を見せる)、この曲が何カ月後かにイギリスで出たときにはもうメンバーがいなくなってて、減ってるんだよね。だから、アー写もないの(UK盤の裏ジャケットを見せる)。ボーカルも英語版で録り直してて、メロディラインとかは一緒なんだけど、全然ボーカルのトーンが違うから、ほぼ別の曲と言ってもいい。
で、次が「The Beat of Two 2」(1984年)。これもよく聴いたよね。で、「Easy Go」(1984年)。そして、このサードアルバム『Parlez-Vous Schaumburg?』が出るんだけど、フランス語なんだよね。「シャンブルグ、話せますか?」っていうタイトル。このときにはもう3人組になってて、このサードアルバムがたぶん一番売れなかったじゃないかなと思うんだけど。今までとの違いは、ドラムマシーンになったの。デペッシュモードのときにも言った、エンジニアのガレス・ジョーンズ(※27)が全部プロデュースして、すっげえエレクトロニックなアルバム。でも、これが果たしてパレ・シャンブルグなのかっていう。
瀧 まあ、(パレ・シャンブルグといえば)ファーストのザリザリしたやつだよね。
石野 これ(『Parlez-Vous Schaumburg?』)とファーストアルバムの音の質感の距離って、もう同じバンドとは思えないっていうかさ。で、全部のアルバム、ボーカリストが違うから。
瀧 ファーストを聴いたときのザリッとしたのは、すげえ衝撃あるんだけどさ、聴いてると、ちょっと困る感じがあるじゃんか(笑)。どう受け取ったらいいんだろうって。
石野 生まれて初めて、女性に乳首を舐められた瞬間って覚えてる?
瀧 (真剣な表情で考え込む)……生まれて初めて女性に乳首を舐められた瞬間か~。そこにフォーカスしたことなかったわ。覚えてねえのかもしんない。
石野 たぶん、これは多くの男性諸君が同意してくれると思うんだけど、「気持ちいい、でも、どうしよう」「なんだこれは!?」っていう。松田優作だよね。
瀧 「なんじゃこりゃあ」っていう。抗えないっていうね。
石野 「死にたくねえよお」って(笑)。乳首舐められて(笑)。「なんだこれは!?」っていうさ。衝撃のほうがデカくて、でも、気づいたら身体は反応しているぞっていう。言葉じゃない、理屈じゃないっていうかさ。だから、あまりにも未知のもの過ぎて、今までの自分の持ってるものに──。
瀧 当てはまんないんだよね。
石野 当てはまんないんだけども、身体はすでにそれに興味を引かれてるし、その心地よさにもうハマってるっていうさ。
瀧 そうね。快感──。
石野 おお。今、薬師丸(ひろ子)入ってきたね(笑)。セーラー服と──「セーラー服と前科者」(笑)。
瀧 いいタイトル(笑)。快感に感じるときもあるし──。
石野 えっ、何?
瀧 「カ・イ・カ・ン」に感じる時もあるし──。
石野 1回、撃ってから。
瀧 (機関銃を撃つふりをして)ドドドドドドド……。ここでスローになって「カ・イ・カ・ン」。
石野 ここ(頬)にケガするんだよね。
瀧 ビンが割れたやつでね。
石野 あれ、本当(のケガ)なんだよね。ジャッキー・チェンが(撮影中に)落ちて、骨折したのと同じ(笑)。ジャッキー・チェンが足を折って、ロケを中断して病院へ行って戻ってきて、足に石膏をはめた上からスニーカーの絵を書いて、つづきをまた撮ったっていう。
あと、このアルバムで電気グルーヴと関係があるっていったら、ツヴァイラウムヴォーヌングのインガ・フンペ(※28)さん。『30』(2019年)っていう僕らの30周年アルバムで、「Shangri-La」をリメイクしたんですけど。その時に「feat. Inga Humpe」っていうバージョンで出して、そのフンペさんが参加してるんですよ。長いね、あの人も。
瀧 いい人だったなあ……。
石野 死んだみたいに(笑)。
※22 ミュート:「【『Roots of 電気グルーヴ ~俺っちの音故郷~(仮)』#3:Daniel MillerとMute Records】ミュートにハズレなし」を参照。
※23 ジ・アソシエイツ(The Associates):1979年、スコットランド・ダンディーでビリー・マッケンジーとアラン・ランキンが結成したバンド。シングル「Party Fears Two」を収録したセカンドアルバム『Sulk』(1982年)などのヒットで知られる。
※24 アンドレアス・ドーラウ:「【『Roots of 電気グルーヴ ~俺っちの音故郷~(仮)』#2:DAF】「君のことを考える」ってタイトルが沁みる」を参照。
※25 Space Lab YELLOW:1991~2008年にあった東京・西麻布のクラブ。石野卓球は1996年からレギュラーパーティー『LOOPA』を主催していた。
※26 LOOPA:上記のパーティーと連動していたソニー/キューンレコーズ内のテクノレーベル。
※27 ガレス・ジョーンズ:「【『Roots of 電気グルーヴ ~俺っちの音故郷~(仮)』#3:Daniel MillerとMute Records】ミュートにハズレなし」を参照。
※28 インガ・フンペ(Inga Humpe):1956年生まれ、ドイツ・ハーゲン出身のミュージシャン、作曲家。姉アネット・フンペとのフンペ・フンペ(Humpe Humpe)など複数のグループで活動。現在はトミー・エッカルトとのデュオ、ツヴァイラウムヴォーヌング(2raumwohnung)ので活動中。
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