“ガリレオ”シリーズから単館系まで充実!2022年9月のオススメ映画

2022.9.10

映画ファン必見の9月公開予定作をラインナップ! 映画評論家・映画ライターのバフィー吉川がセレクト&推薦する、注目の映画作品をお届けします。


子供を守りたい一心でモンスターライオンに挑む!!『ビースト』

© 2022 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.
(c)2022 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

監督:バルタザール・コルマウクル
脚本:ライアン・イングル
出演:イドリス・エルバ、シャールト・コプリー、イヤナ・ハーレイ、リア・ジェフリーズほか
9月9日(金)全国公開

ストーリー

医師ネイト・サミュエルズは、ふたりの娘たちを連れ、最近亡くなった妻と初めて出会った南アフリカへの長期旅行を計画。現地では狩猟禁止保護区を管理する旧友の生物学者マーティンと再会を果たす。しかし、密猟者から生き残り、今やすべての人間への憎悪に満ちたモンスターライオンの出現によって、互いに生死と愛する者の命を賭けた死闘が始まるのだった……。

おすすめポイント

イドリス・エルバが子供を守るためにモンスターライオンに挑む……。
実はただそれだけの物語であって、シンプルそのもの。それが悪いわけではなく、今作においてはそれが正解であり、アニマル・パニック映画の真髄だといえる。

親が子供を守ろうとする行動原理に説明など不要。それが、たとえモンスターライオンであってもだ。軽装備でモンスターライオンに立ち向かうのはムチャ過ぎるのに、なぜかイドリスなら倒せるかもしれないと思ってしまうのが不思議だ。

『ミアとホワイトライオン 奇跡の1300日』(2018)や『ローグ』(2020)のように、トロフィーハンティングや密猟への警鐘を鳴らす側面もあるし、人間が動物を殺すことがコンプライアンス的にNGだったりするなかで、モンスターであってもライオンとの対決にどう決着をつけるのかは、かなり工夫されているし、現代的な着地点といえるだろう。なかなか決着がつかない展開も、コンプライアンスのメタファーと思えるのは、気のせいだろうか……。

劇場版ガリレオ第3弾は親友の葛藤を描く『沈黙のパレード』

©2022 フジテレビジョン、アミューズ、文藝春秋、FNS27社
(c)2022 フジテレビジョン、アミューズ、文藝春秋、FNS27社

監督:西谷弘
脚本:福田靖
出演:福山雅治、柴咲コウ、北村一輝、吉田羊、壇れい、椎名桔平、飯尾和樹、岡山天音、出口夏希、村上淳ほか
9月16日(金)より全国東宝系にて公開

ストーリー

天才物理学者・湯川学の元に、警視庁捜査一課の刑事・内海薫が相談に訪れる。行方不明になっていた女子高生が、数年後に遺体となって発見された。内海の説明によると容疑者は、湯川の親友でもある先輩刑事・草薙俊平がかつて担当した少女殺害事件で、無罪となった男。その男は今回も完全黙秘を貫き証拠不十分で釈放され、女子高生の住んでいた町に戻ってきた。町全体を覆う憎悪の空気。そして、夏祭りのパレード当日、さらなる事件が起こる……。

おすすめポイント

エンタメ色の強い『ガリレオ』ドラマシリーズとは少し毛色が違い、東野圭吾色が強くなる劇場版は、『容疑者Xの献身』(2008)や『真夏の方程式』(2013)も高い評価を受けている一級ミステリーであり、その第3弾が今作だ。

今作も東野圭吾ならではの人間賛歌でありながら、シニカルな視点が光る作品となっているのは言うまでもないが、法で裁けない事件、警察が作り出してしまう犯罪といった、法や警察のあり方を問う作品に仕上がっている。その中でシリーズを通して少しずつ描かれてきた湯川と草薙の、独特の距離感を保ちながらも確実にある友情が描かれているのも注目点。

辿り着いた事件の真実が草薙にとって、最も望んでいなかった結末だった場合、草薙は警察として、ひとりの人間として、真実にどう向き合うのか……。その点で、草薙は今作のもうひとりの主人公ともいえるだろう。

どんな家族も壁の向こうは問題だらけ『3つの鍵』

(c)2021 Sacher Film Fandango Le Pacte.
(c)2021 Sacher Film Fandango Le Pacte.

監督・脚本:ナンニ・モレッティ
出演:マルゲリータ・ブイ、リッカルド・スカマルチョ、アルバ・ロルヴァケル、ナンニ・モレッティほか
9月16日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、UPLINK吉祥寺ほか全国ロードショー

ストーリー

ある夜、建物に車が衝突し女性が亡くなる。運転していたのは3階に住む裁判官夫婦の息子アンドレアだった。2階のモニカは夫が長期出張中のためひとりで出産のため病院に向かう最中で、1階の夫婦は仕事場が崩壊したので娘を朝まで向かいの老人に預けることにした。小さな選択の過ちが、予想もしなかった家族の不和を引き起こし、彼らを次第に追い詰めていく。彼らが手にする未来の扉を開く鍵とは? スリリングな展開に目が離せなくなる。

おすすめポイント

『息子の部屋』(2001)や『母よ、』(2015)など、人生の中で誰にも起こり得る悲劇や過ちを描きながら、その先にある再生と未来への希望を描くことを得意とするナンニ・モレッティ節が炸裂する。

交通事故によって家の壁が崩れてしまうシーンから始まる今作。高級住宅街に住む何不自由なさそうな家族も、壁の向こう側には人には言えないことが、たくさんある。その壁が崩れて、のぞいてみたら……ということを表しているのだ。

登場する家族も、交通事故で人を殺してしまった息子を持つ裁判官のヴィットリオ、娘のシッターをしてもらっていた老人が認知症になり娘に“いたずら”したのではないかという疑念が晴れないルーチョ、娘が産まれたばかりだというのに夫が詐欺事件に関与した疑いで逃亡中のモニカなど、さまざまな背景を背負っている。そして、それぞれが他人には干渉しない。家族の問題は家族で決着をつけるしかないのだ。現代的でドライな視点を描きつつも、それでも、どこか優しさを感じさせる。

ちなみにモレッティの代表作のひとつ『親愛なる日記』(1993)も9月23日(金・祝)からリバイバル上映される。

インドの教育システムに貢献した実在の人物を体現『スーパー30 アーナンド先生の教室』

(c)Reliance Entertainment (c)HRX Films (c)Nadiadwala (c)Grandson Entertainment (c)Phantom Films.
(c)Reliance Entertainment (c)HRX Films (c)Nadiadwala (c)Grandson Entertainment (c)Phantom Films.

監督:ヴィカース・バハル
脚本:サンジーヴ・ダッタ
出演: リティク・ローシャン、ムルナール・タークル、アーディティヤ・シュリーワースタウ、パンカジ・トリパーティー、アミット・サードゥ、ヴィジャイ・ヴァルマーほか
9月23日(金・祝)全国順次ロードショー

ストーリー

貧しい家庭の生まれながら天才的な数学の才能を持つ学生、アーナンドは、ある日、数学の難問の解法をケンブリッジ大学に送ったところ、その才能が認められ、イギリス留学のチャンスを得る。だが、貧しい家計から費用が出せず、当てにしていた援助もすげなく断られ、「王になるのは王の子供じゃない。王になるのは能力のある者だ」と、いつも彼を励ましてくれていた父親も心臓発作で亡くなってしまう。留学を断念したアーナンドは、町の物売りにまで身をやつすが、IIT(インド工科大学)進学のための予備校を経営するラッランに見出され、たちまち学校一の人気講師になり、豊かな暮らしを手に入れた。そんななか、貧しさゆえに路上で勉強するひとりの若者との出会いが、アーナンドの心に火をつけた。突如として予備校を辞めた彼は、才能がありながら貧困で学ぶことができない子供たち30人を選抜して、無償で家と食事を与えて、IIT進学のための数学と物理を教える私塾、スーパー30を開設したのだが……。

おすすめポイント

2018年に“世界で最もハンサムな男性ランキング”で6位となったインド映画界きってのナイスガイな上に、演技派という向かうところ敵なしの俳優リティク・ローシャン。先輩のインド映画界のスーパースター、シャー・ルク・カーンの息子がドラッグで逮捕されたときには、更生を手伝うと申し出るなど、人格者として知られている。

そんなリティクが、インド・ビハール州なまりのヒンディー語を習得するため、毎日2時間から3時間の特訓をして挑んだ役は、教育プログラム「SUPER30」の開発者で実在する人物、アーナンド・クマール。

アーナンド自信が貧しい家庭に育ち、ケンブリッジ大学に合格しても通う資金がなく断念したという過去の経験を、近い境遇の子供たちにも味わわせてはならないという願いから、恋人との結婚も、高収入が約束された塾講師という道も捨てて、ただひたすら子供たちのために突き進む姿は、感動なくして観ることはできない。

身近な人の死を少女の視点から描いた『秘密の森の、その向こう』

(c)2021 Lilies Films / France 3 Cinema.
(c)2021 Lilies Films / France 3 Cinema.

監督・脚本:セリーヌ・シアマ
出演:ジョセフィーヌ・サンス、ガブリエル・サンス、ニナ・ミュリス、マルゴ・アバスカルほか
9月23日(金・祝)ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー

ストーリー

8歳のネリーは両親と共に、森の中にぽつんと佇む祖母の家を訪れる。大好きなおばあちゃんが亡くなったので、母が少女時代を過ごしたこの家を、片づけることになったのだ。だが、何を見ても思い出に胸を締めつけられる母は、何も言わずにひとりでどこかへ出て行ってしまう。残されたネリーは、かつて母が遊んだ森を探索するうちに、自分と同じ年の少女と出会う。母の名前「マリオン」を名乗る彼女の家に招かれると、そこは“おばあちゃんの家”だった……。

おすすめポイント

『水の中のつぼみ』(2007)や『燃ゆる女の肖像』(2019)など、心の揺らぎや自分の性への戸惑いと不安を繊細なタッチで、説教臭くなく自然に描くことが得意なセリーヌ・シアマの新作はファンタジーだ。

かつて脚本を担当したクレイアニメの『ぼくの名前はズッキーニ』(2016)に通じる部分もあるが、今作では、8歳の少女の目を通した身近な人の死と別れを描いている。

死と別れを悲しいものとしてだけ描くのではなく、世代が移り変わる人間のサイクルとして、8歳なりの解釈で理解していく様子が、セリフで多くを語らずとも伝わってくるのは、セリーヌ・シアマと『燃ゆる女の肖像』でもタッグを組んだ撮影監督クレア・マトンとの息の合った演出の結果である。

そして何より、今作からカメラには映らないはずの見えない絆を感じるのは、主人公ネリーを演じるジョセフィーヌ・サンスと、8歳の母マリオンを演じるガブリエル・サンスのふたりは本当の双子であり、そこに本当の絆が存在しているからなのだ。

ただ、子供と一緒に生活がしたい。それだけなのに……『ドライビング・バニー』

(c)2020 Bunny Productions Ltd.
(c)2020 Bunny Productions Ltd.

監督:ゲイソン・サヴァット
脚本:ソフィー・ヘンダーソン
出演:エシー・デイヴィス、トーマシン・マッケンジー、エロール・シャン、トニ・ポッター、ザナ・タンほか
9/30(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開

ストーリー

ニュージーランド、オークランド。信号待ちの車がびっしりと並ぶ交差点に、バニー・キングはいた。娘のシャノンの誕生日までに新居へ引っ越すと決意したバニーは、明るい笑顔と気の利いたトークで車の窓拭きをして小銭稼ぎをしている。夢は家族水入らずの生活を再開させること。まだ幼いシャノンの誕生日パーティも盛大に開きたい。しかしある事情から、今は家庭支援局で行われる監視つきの面会交流で我慢するしかない。幼いシャノンは大好きなママに甘えてくるが、思春期の息子、ルーベンは微妙な態度だった……。

おすすめポイント

子供は、貧しくても実の親子と育ったほうがいいのか、それとも里親でも生活環境の整った場所で育ったほうがいいのか……といった、究極の問いを描いた物語である。子供には不自由させたくないのが親の心理ではあるが、同時に、どんな状況でも一緒にいたいのも、また親の心理。どちらが正しいともいえないが、子供にとってはどちらがいいのだろうか。社会から見た損得勘定、機械処理的な判断に、子供の意思は反映されない。

多様性が叫ばれる世界において、血のつながりというのは、良くも悪くも重要視されず、個人の個性として認められつつある。しかし一方で、血がつながった家族を引き離すような制度も存在するのも事実。ただ子供に会いたい、一緒に生活がしたい……。そんな心からの叫びに背を向ける世の中は、果たして正しいといえるのだろうか。

エシー・デイヴィスが、負のサイクルから抜け出せず、「子供のために」の制度の負の側面に苦しむ主人公を体現している。


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