平成のエンタメ宝庫「TSUTAYA」の思い出。サブスクにはない“レンタル文化”で背伸びした日々

文=長井 短 編集=高橋千里


演劇モデル・長井 短。平成5年に生まれ、平成を生き抜いてきた彼女が、忘れられない平成カルチャーを語り尽くす連載「来世もウチら平成で」。

今回は、CD・DVDレンタルサービスで一時代を築いた「TSUTAYA」の思い出を振り返る。


TSUTAYAに支えられたウチらの青春

「え、渋谷のTSUTAYAなくなったの!?」

去年、何度この言葉を耳にしただろう。正確にはリニューアルのための一時的なお休みだけど、店頭のCD・DVDレンタルが終了した事実はあまりにもデカい。

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待ち合わせはTSUTAYAの前で。あ、TSUTAYA返さなきゃ。帰りTSUTAYA寄ろう。それがウチらの青春だった。

渋谷のTSUTAYAと地元のTSUTAYA。まるで規模の違うふたつのTSUTAYAに支えられて、たくさんの音楽と映画に出会った日々。あぁTSUTAYA……。あなたがいなかったら私、どんな人間になっていたかしら……!

というわけで今回は、「旧作DVD5枚セットで1,000円・旧作CD10枚セットで1,000円」システムに目を輝かせながら、何時間かけて選ぶんだよってほど熟考したことがあるすべての人に捧げる、「ウチらとTSUTAYAの日々」をお届けします。

邦ロックブームは、TSUTAYAとともに

最初にTカードを作ったのはいつ? 私はたぶん中1。ラジオで聴いたRADWIMPSの『ふたりごと』を借りるため、地元駅前のTSUTAYAに走った。

当時はたしか3枚目のアルバム『RADWIMPS 3〜無人島に持っていき忘れた一枚』が最新で、10枚で1,000円のうち3枚をRADWIMPSに捧げた。残りの7枚は何を借りたんだろう。やっぱYUIですかね?

CDとヘッドホン
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ここから始まった私の邦ロックブームは中学を卒業するまで続く。フジファブリック、THE BACK HORN、椎名林檎・東京事変にZAZEN BOYS。と来ればもちろんナンバーガール。ゆらゆら帝国と銀杏BOYZも忘れないで。

中学生にとっての1,000円は大金だ。私のお小遣いは、たしか中1から1,000円→2,000円→3,000円のランクアップシステムだった。この中でプリも撮らなきゃだし、ポスカとかスクバにつけるキーホルダーも買わなきゃいけないんだから、てんてこまいである。

ひと月に借りられるのは10枚。もっとたくさん借りたいのに!

ではどうするのか。一曲でも多く収録されてるCDを探しますね!

「ナ」行のナンバーガール、そこに並ぶCDを取り出しては曲数を記憶して、ついに見つけた驚きの40曲収録アルバム『記録シリーズ』これだ! これで絶対かなり網羅できるでしょ!

どのアルバムを借りるべきかわからないときは、とりあえず一番新しいのを借りておくか?ってことで、ゆら帝は『REMIX 2005-2008』。

ホクホク家に帰って『記録シリーズ』からCDコンポに入れると……ん? なんか音が……え、てかなんか客いない、これ? ライブ版じゃねーか!! ライブ版て……私まだナンバガ聴いたことないのに……。

気を取り直してゆら帝を聴くと、これ本当に『はねトび』のオープニングと同じバンドですか? 雰囲気違いすぎません? そりゃそうだ、「REMIX」っつってんだから。

でも当時の私は「REMIX」の意味を知らなかったんだ、恥ずかしながら。ナンバガだって『記録シリーズ』といってるんだから、冷静に考えればライブ版だってわかるじゃんね。ガキだからなーんにもわかりませんでしたッ☆

今ならスマホで検索しながらCDを探せるけれど、当時のガラケーは検索にあんまりスキルを振っていなかった気がする。「着うた」に振りすぎて。

さらに、あのころのTSUTAYAはなぜか異常に電波が悪かった。だいたい圏外。だからもう一歩踏み入れたら最後、自分の記憶と勘を頼りにするしかなかったのだ。

「一曲でも多く」ってがめつさのせいで、いったい何枚のライブアルバムを借りただろう。くよくよしながら翌月に普通のアルバムを借りに行ったことは忘れられない。

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高校生になると邦ロック熱は冷め、洋楽へ移行する。お財布に優しい洋楽。なぜなら、洋楽のCDは図書館にあるから。

これ今考えるとなんでなんだろう。なんで図書館には落語とドアーズばっかりあるんですか? 9mm Parabellum Bulletも置いてよ。

邦画ブームは、興味と自意識の狭間で

それはさておき、相変わらず私のお財布事情は厳しい。今度は映画にハマったからだ。

きっかけは高1のときに観た『人のセックスを笑うな』だったと思う。邦画邦画邦画。『デスノート』とかではない邦画。

リモコン
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思い返すと、高校時代が一番映画を観ていた。自分の部屋に置いた小さなDVDプレーヤー、もしくは親が帰ってくる前のリビングで。

せっかくなら親と一緒に仲よく観りゃいいんだけど、我が家は壁にデヴィット・リンチの写真が飾ってあるタイプの家だったので、なんか、自分の映画セレクトを見られるのがすごく恥ずかしくてできなかった。親にまでセンス悪いと思われたくないって、マジで生きづらい自意識である。

『恋の門』『真夜中の弥次さん喜多さん』『青い春』『クワイエットルームへようこそ』などなどなど……すでに俳優を志していながら、演劇しか眼中になかった私は映画のおもしろさに震えた。

映画もありかもしれないなんて偉そうに思いながら、小さな小さな画面に目を凝らしていたあのころ。そこから15年かかるけど、ちょいちょい夢叶うから安心しな。

圧倒的規模と情報量!「渋谷TSUTAYA」との出会い

旧作DVDは5枚で1,000円。CDよりもさらに難しい。しかもこのころ、井の頭線沿いの高校に通っていた私はついに“キングオブTSUTAYA”こと「渋谷TSUTAYA」に出会うのである。

規模がまるで違う。呼吸ができなくなりそうなほどの情報量に胸が高鳴って、いつかここにあるすべての映画を観たいと思った。

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邦画ブームが落ち着いたところで、いよいよ洋画にも手を出し始める。最初に借りたのはトッド・ソロンズ監督の『ハピネス』だった。府中のTSUTAYAにはないこの作品を渋谷で借りるアタシ……超オトナじゃんね。

自宅にある雑誌『CUT』「名作映画ベスト100」の中から気になる映画を見つけては、渋谷で大きな棚を見上げる。『アニー・ホール』『2001年宇宙の旅』『ゴッドファーザー』『パルプ・フィクション』。字幕を読みすぎてしゃべり方が変わったことは早く忘れたい。

ただ「観たい」で選んでいた映画は、次第にコミュニケーションツールに変わり始める。やっぱ、ゴダール観とかないとアレだよな……と意を決して借りた『軽蔑』は寝ちゃってよく覚えていない。『屋根の上のバイオリン弾き』も『野のユリ』も同上です。無理すんな。

観たいもん観りゃいいんだよって思うけど、ちょっと無理してでも観る映画。わかってないのにわかったふりしてしゃべる考察、Wikiを写す記録ノート。

そういう時間が今の私を作ってくれたと思うと、あのころ背伸びしてアキレス腱切ってくれた自分に頭が上がらない。貴重な1,000円払ったんだから、絶対に再生は最後までする。わからなくてもわかったって実感を無理やり持つ。鬼の気迫だった。

私はTSUTAYAが大好きでした

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TSUTAYAには、もうずいぶん長いこと行っていない。NetflixもDisney+も入ってるし、Amazon Prime Videoで購入もできるし。あのころよりずっと、楽に大量の映画を観られる環境にいる。

音楽だってそうだ。Apple MusicやSpotifyのおかげで、いつでも音楽に触れられる。ライブ版だったら別のアルバムに変えればいいだけだし。

こんなにも恵まれた環境にいるのに、じゃあ頻繁に観たり聴いたりしているかというと、全然していない。お金も払っているのに「払ったからには……!」っていう気迫があのころみたいに湧かないのだ。

なんでだろう。大人になったから? それもあるだろう。でもやっぱり、スマホ画面にジャケットが並んでいるのと、目の前に実物のパッケージがずらぁっと並んでいるのでは、作品から出てくる情報量自体も違うんだと思う。

TSUTAYAでは、みんなが私に「観て!」「聴いて!」と話しかけてくるようだった。もしかしたらそのざわめきのせいで、TSUTAYAはいつも電波が悪かったのかもな、なんて、ちょっとファンタジックなことを考えちゃうくらいには、私はTSUTAYAが大好きでした。


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長井 短

(ながい・みじか)1993年生まれ、東京都出身。「演劇モデル」と称し、舞台、テレビ、映画と幅広く活躍する。読者と同じ目線で感情を丁寧に綴りながらもパンチが効いた文章も人気があり、さまざまな媒体に寄稿するなか、初の著書『内緒にしといて』を晶文社より出版。

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