平成の黒歴史「前略プロフィール」。ナンパと“不良たちの流行”を盗み見た日々

文=長井 短 編集=高橋千里


演劇モデル・長井 短。平成5年に生まれ、平成を生き抜いてきた彼女が、忘れられない平成カルチャーを語り尽くす連載「来世もウチら平成で」。

今回は、2000年代に若者を中心に大流行したインターネットサービス「前略プロフィール」を振り返る。

「前略プロフィール」は黒歴史の宝庫

連載も早いもので4回目。そろそろ開け始めてみるか? パンドラの箱……というわけで、いつ触れようか悶々としていたあいつが今回の主役です。前略プロフィール!!

2004年にサービスが始まった「前略プロフィール」(2016年にサービス終了)。私が利用を開始したのは2006年、中学1年生の春。

やけにギャルが多い演劇部に入部してすぐ、先輩に「前略やってる?」と聞かれて、大慌てで作ったのだ。

当時の私はまだ携帯を持っていなかったから、リビングに置かれている真っ白なiMacを使って、親に隠れて登録した。

どんなふうに回答を埋めていたかはあまり記憶にないけれど、どうせこんな感じだろって想像で書いてみたのでご覧ください。

作=長井短

恥ずかし……すぎる!!!! こんなもんマジでやらないほうがいい。

でも、それはインスタにもTikTokにもいえることで、私たちはいつまで経っても、残さないほうがいい自分の記録を残してしまう生き物なのだ。

アクセス数や書き込み数で測られる戦闘力

あのころ、前略で戦闘力を測られているような気分だった。

回答のセンスのよさはもちろんのこと、末尾に貼られたリンクから飛ぶホムペのデザインやアクセス数。ゲストブック機能への書き込みの多さも、もちろん見られている。

パソコンで更新していた私は、イケてるクラスメイトや先輩たちのように回答に絵文字をはめ込むことができなくて日々絶望していた。

※画像はイメージです

ネットの海から探し出した、誰も使っていない特殊な顔文字を「ぁたしはこっち派だぉ?」って顔してコピペしていたこと。

携帯を持っている子と比べて確認できる時間が限られているせいで、ついていけないんじゃないかって不安に襲われたこと。

こっそり、隣のクラスの不良の前略を見まくっていたこと。

こういった思い出なら何千字でも書くことができます。

ゲストブックを使った“前略ナンパ”

たくさんの思い出がある。中でも強く印象に残っているのが、ゲストブック機能だ。

リンクの名前を自由に変えられたその場所は「からむーちょ」とか「げすぶ」という名前にされることが多くて、恋人がいる人は「男絡みいらん」としていたりもする。あー大人っぽい。

そこには誰でもなんでも書き込むことができた。インスタのコメントと同じように、謎のプロモーションみたいな、意味不明な書き込みがされることも多かったけど、とにかく胸を高鳴らせるのは、他校のタメの男子からの書き込みだ。

「一中の田中だけどわかる?笑」みたいなやつ。私のゲストブックに書き込まれることはありませんでしたが、そういうナンパまがいな書き込みがとにかく眩しかった。自演してやろうかと思ったこともある。

「一中の田中だけどわかる?笑」
「え だれ?笑」
「かずきに聞けばわかるよ笑」
「かずきだれ笑」

「笑」をつけることでダル絡みの体(てい)を装い保険をかけるのが、ウチらの常套手段だった。

それは今も変わらないようで、時々SNSで見かける厄介DMにも、たいてい「笑」がついている。

人間ってだせえよなと思いながらも、そういうところが愛しくて、私はこういうなんの足しにもならないやりとりを見るのが好きだった。

少しずつ会話が盛り上がってきて、個人情報が増え始めると、文字の色が変わる。背景の色と同化させるのだ。

そんなんで守れるプライバシーはない。今思い返すとあまりにも雑だけど、秘密の会話は背景と同じ色でやればバレないみたいなノリがあそこにはあった。

ここで、パソコン前略勢の私の出番である。パソコンで見ていればね、んなもん秒で暴けんだよ。クリックしてドラッグすれば、スラーっと文字が浮かび上がる。

「てかさ」
「なに」
「会いたい」
「えー」
「会おうよ」

こいつら絶対付き合うじゃん!

急に仕入れてしまった情報に心拍数が上がる。リビングでひとりニヤニヤが止まらない。気分はスパイで、ハッキングして特別な情報を手に入れた気分だった。ダサすぎる。

ぶぉんぶぉんファンが鳴りつづけるパソコンの前で、大して話したこともない同級生のゲストブックを見ている女。陰キャ待ったなしである。

時代の流行を作った「不良の前略プロフィール」

仲よくない、話したこともない不良の情報を、前略で仕入れているとき、私はどんな顔をしてたんだろう。

市内の不良たちが学校を越えて作った不良グループみたいなのがあって、そのホームページをよく眺めていた。

「東卍」みたいにみんなでしゃがんで、暗闇で撮った写真がトップ画に貼ってあったけど、今考えるとあれ普通に公園だよな。めちゃくちゃかわいいよな。

でもあのころは、ただ夜の公園で撮られたその集合写真が恐ろしいもののように思えていた。「こいつら……悪すぎるッ」そう感じていた私もまたかわいい。

※画像はイメージです

ホームページからは、構成員の前略に飛べるようになっていて、そこにはたいてい二つ名が書かれていた。「府中の鬼」とか「調布の姫」とか、私も! そういうの! 欲しかったよ!!!! 友達とは「なにこれ〜ww」とか言ってたけど! 本当は! ちょっと! 憧れてたよ!!

不良ってなんなんだろう。あの子たちの前略はとても洗練されていた。

黎明期にたくさん書き込まれていたプロフィールは、次第に「少ないほど強い」みたいな流行に飲まれ始めて、不良の皆さんの前略はマジで短かった。パソコンで見ているとスクロールがいらないほどに。

HN り
以降の質問ぜーんぶすっ飛ばして
ここだけの話 たくゃ since 2006.0915〜∞
       卍卍卍

とかね。もう何もわからない。プロフィールとして機能していない。でも、それがかっこいいのだ。

ちなみに、この人がたくやと別れるとこうなります。

HN .

あ、まだ短くできたんですねぇ〜……てか闇堕ちしすぎだろ。

この2種類の間をシャトルランしつづける不良たち。私はうらやましかったよ。かっこよかったよ。みんな元気にしているだろうか。自分たちが流行を作っていたことに、気づいていたんだろうか。

本当は仲よくなってみたかったのに、怖さとか照れとかプライドとかで声をかけられなかった彼・彼女たちと、じゃあ今インスタでつながりたいかっていわれるとそれもやっぱり緊張しちゃうから、私は全然成長していないんだろう。

いつかどっかの居酒屋で「実はゲストブック盗み見てたよ」って告白したいものです。

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長井 短

(ながい・みじか)1993年生まれ、東京都出身。「演劇モデル」と称し、舞台、テレビ、映画と幅広く活躍する。読者と同じ目線で感情を丁寧に綴りながらもパンチが効いた文章も人気があり、さまざまな媒体に寄稿するなか、初の著書『内緒にしといて』を晶文社より出版。

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