平成プリクラには“ジャングルジム”があった!?女子中高生が「かわいい」より重視していたこと

文=長井 短 編集=高橋千里


「演劇モデル」と称し、舞台やテレビ、映画など幅広く活躍する長井 短。平成に生まれ、平成を生き抜いてきた彼女が、今も忘れられない平成カルチャーを語り尽くす連載「来世もウチら平成で」がスタート。

今回は、平成から今に至るまでティーンに愛されつづける「プリクラ」を懐古しながら、平成プリと令和プリから見る“ティーンの欲望の変化”を考える。

「平成」がテーマのパーティーを開きたい

「平成」と聞いて、思い浮かべることはなんだろう。私にとっては『ポケモン』で、『GALS!』で、ミニモニ。テレフォン使ってミル姉さんに電話したい。

たれぱんだの便箋に私の秘密は書いたから、掃除の時間に落としたりしないでね。てかそれパクんのやめて? パクってないけど? てかそれパクんのやめて? H/K 今日マックで三角チョコパイ食べて帰ろうよ。

平成中期、学生時代の長井短

同窓会の会場は平成がいい。子供のころめちゃくちゃうざかった昭和自慢をする人たちの気持ちが、今はよくわかる。自分の生きた時代のことだもん、愛しちゃうよな良くも悪くも。

難しいことは置いておいて、とりあえず平成を浴びたい。「平成」がテーマのパーティーを開きたい。え、開こうよ? オープニングは「恋愛レボリューション21」で決定ね?

そんなわけでこの連載は、愛すべき平成カルチャーを振り返りながら、パーティーの開催を虎視眈々と目指したいと思います。オシャレして読んでね♡xoxo♡ゴシップーガール♡

平成のプリ機には、うんてい・ジャングルジムがあった!?

平成に生まれて令和5年現在も発展をやめない、第一線を走りつづけるものがある。「プリクラ」だ。

1993年、平成5年生まれの私のプリクラとの出会いはたぶん、5歳くらいのとき。近所のデパートの1階に設置されたディズニーの「プリント倶楽部」がマイファーストプリクラだったと思う。

今のように落書きなんてできるはずもなく、最初にフレームを選んだらあとは撮るだけ。ちょっとかわいい証明写真機みたいなものだった。

幼なじみとほっぺたをくっつけて撮ったそのプリクラは、たぶんまだ実家のどこかに眠っている。この連載のために探してみたけど、結局見つけることはできなかった。

※画像はイメージです

それから数年後、中学生になった2005年。私は本格的にプリクラと出会う。もうかつての形はしていなかった。コンパクトだったはずの機械は巨大化してるし、なんてったって落書き機能が搭載。ほとんど今流通しているプリクラと同じといっていい。

ただ、あのころのプリクラってなんか……ふざけてなかった? 私とプリクラの距離が最も近かった2000年代後半=平成中期。むちゃくちゃだなと感じたプリクラ機はいくつかある。

【1】撮影ブース=ソファ=落書きスペースなプリクラ機

ソファに座って撮ることしかできない。懺悔室みたいなその空間は、ほぼ部屋だった。だいたいリプトンを持ち込んで飲みながら撮る。落書きも飲みながらやる。カウントダウンが止まったら語る。

【2】撮影ブースにうんていがあるプリクラ機

カーテンを開くと、壁から天井にかけてハシゴみたいなものがかかってて、あれはうんていだった。ぶら下がって撮った。校庭以外にあるうんてい、このプリクラ機のほかに見たことがない。

【3】撮影ブースにジャングルジムがあるプリクラ機

小さめだけど、マジでジャングルジム。とりあえず登るけど、たいてい腑に落ちないなって表情になるから使い方が難しかった。確か「夢見鳥」という機種だった気がする。

【4】カメラが天井・正面・床にあるプリクラ機

「次はこのカメラッ」とか言って煽ってくる。髪ボサボサになるよ。

みんなは何個経験ある? こうやって書き出してみると、やっぱりふざけているとしか思えない。

「かわいいと思われたい」という自意識が恥ずかしかった

それに対して令和のプリクラは本当にお行儀がいい。広いし、うんていとかないし。じゃあこの違いってなんだろうと考えると、そもそも「写真を撮る」って行為の意味が、令和と平成中期では相当違う。

あのころはまだスマホはなくて、中学校に上がると同時に、親との「ケータイ買って」バトルが始まることが多かった。私自身も中1のときはまだダメで、2年に上がったとき、英検合格のごほうびかなんかで買ってもらった覚えがある。当然学校へは持っていけない。

休日に友達と会って、ケータイで写真を撮ってみるけど「モザイクかけてんのか?」ってくらい荒い画素数だった。だからたぶん、あのころの平凡なハナチューにとって、プリクラは「ちゃんとした画質で写真を撮るイベント」だったように思う。

だとしたらまぁ、プリクラ側も気合い入れてジャングルジムとか建てるか……建てるか?

※画像はイメージです

とにかくあのころ、私たちは「写真を撮る」ことにまだ慣れていなかった。写真とは「誰かに撮ってもらうもの」であって、自分で撮るものじゃない。なんなら、自分から「写真撮って〜」とかいうのはちょっと、痛かったかもしれない。「あいつナルシ」って悪口言われかねない。

それはプリクラを撮るときも同じだった。遊ぶ=プリ撮ろ、ではあったけど、でもそのためにすごいオシャレをしたり、口紅を塗るのは難しい。だってウチらの目的は「プリ撮る」であって「かわいく写る」じゃなかったから。これは空気としてあった。

でも本当はみんな「なんか、かわいく写りたい気がするな……」とか思ってた。『ニコラ』の付録についてた、モデルさんが撮ったプリクラのモロパクリでかわいいプリを撮ってみたかった。

けど「かわいいと思われたい」っていう自意識が恥ずかしい。だからみんな、登りたくもないジャングルジムに登って「アイスを愛す♡」とか落書きすんだよ。なんだよそのギャグ。

平成プリは「“かわいいじゃないかたち”でかわいく写る」

いつの時代も人間には「よく見られたい」という欲求があるはずだ。でも私たちはそれを、ダサいことのように扱っている節があった。

もしこれが、たまたま私のまわりにだけ起きていた流れだとしたらなんてグループだよって感じだけど、平成中期は今よりも、欲望に対してのハードルが高かったように思う。

だからなのかはわからないけど、機械に内蔵されているスタンプも「地元汚仲間」とか「我等友情永久不滅」とか、イカつさがあった。イカついギャルブームだったのかな。「LOVE」とかももちろんあったけど、あんなもんスタンプしてる人ほとんどいなかったもんな。

真っ正面から「かわいい」を目指すとダサくなるんじゃないかっていう恐れが私たちを支配していて、いかに「“かわいいじゃないかたち”でかわいく写るか」がウチらのテーマだったように思う。

※画像はイメージです

それに対して、令和のプリクラは偉い! 真っ正面から「かわいく撮ろうぜ」って意志を感じる。私はその素直さが本当にうらやましいよ……私だって本当は、うんていにぶら下がって「☆SASUKE☆」なんてやらずに、ただただ笑顔で写りたかった。でも仕方なかった。

まぁ今思い返すと、中学生っていうただでさえ痛い時期に脱臼しながらプリクラを撮れていたことは、ある意味救いなのかもしれない。キメ顔しなくてすんだしな。

あのころのSNSは「プリ機の保存&スライドショー機能」

最後に、平成プリクラの恐ろしい機能を紹介しよう。あのころのプリ機にはどういうわけか、撮影したプリクラを1枚選んでプリクラ機に保存できるっていう機能があった。「プリの殿堂」である。

どういう流れで登録に至るかは覚えていないのだけど、とにかくあったのだ。保存されたプリクラは、シールができ上がるまでの間、スライドショー再生される。

……おわかりいただけただろうか。つまり、自分が写ってるプリクラが、次にこの機械を使った人間に見られるんだよ!! どんな罰だよ!!!!

私がいつも行っていたゲーセンの主な利用客は、私が通ってたA中学校と、近所にあるB中学校の生徒だった。そして、このB中学校に通う子の中には、同じ小学校だった子がたくさんいたのだ。不思議な気分だった。

中学でできた友達と、ゲーセンに行ってプリを撮る。すると画面には、数カ月前まで一緒にドッジボールしていた旧友の「1-A最狂」と書かれたプリクラが表示される。最狂……か。

中には彼氏とふたりで撮ったプリクラ(since..0624〜∞)もあった。ずっと友達でいようって言ったけど、それって叶うのかな……なんて寂しい気持ちになったものだ。

でも同時に、ここでプリを撮ればみんなの近況がわかる。寂しくなったり、負けてる気がして悔しくなったりするけど、知らないよりも知りたかったから、私はいつも舐めるようにそのスライドショーを見ていた。

桜とセーラー服の生徒
※画像はイメージです

今思い返すと、あれも一種のSNSだったように感じる。実際に足を運ばないとログインできないSNS。怖い機能ではあったけど、当時の私はなんだかんだあれが好きだった。スマホがないならないなりに、ウチらも何かでつながっていたかったんだなとしみじみ思う。

あ〜「姫組2」で象にまたがってるプリ、あともう一回でいいから撮りたいなぁ。

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長井 短

(ながい・みじか)1993年生まれ、東京都出身。「演劇モデル」と称し、舞台、テレビ、映画と幅広く活躍する。読者と同じ目線で感情を丁寧に綴りながらもパンチが効いた文章も人気があり、さまざまな媒体に寄稿するなか、初の著書『内緒にしといて』を晶文社より出版。

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