今、道枝駿佑が「金田一少年」を演じる意味とは。堂本剛以降の“はじめちゃん”が担うジャニーズ俳優の役割

『金田一少年の事件簿』道枝駿佑

文=竹中夏海 イラスト=たまごひめ 編集=高橋千里


最新のニュースから現代のアイドル事情を紐解く。振付師・竹中夏海氏がアイドル時事を分析する本連載。

今回は、2022年4月からスタートしたドラマ『金田一少年の事件簿』の主演キャスティングについて考える。


「三枚目に振り切れていない」堂本版と比較された道枝版・金田一

日テレ系日曜夜10時30分枠の4月期ドラマとして放送中の『金田一少年の事件簿』。今回、5代目「金田一一(きんだいち・はじめ)」を襲名したのは、なにわ男子の道枝駿佑だ。

初代から堂本剛(KinKi Kids)、松本潤(嵐)、亀梨和也(KAT-TUN)、山田涼介(Hey! Say! JUMP)と、そうそうたる顔ぶれが主演を務めた、説明するまでもない人気シリーズである。

『金田一少年の事件簿』File01「学園七不思議殺人事件」ダイジェスト

5月1日に第2話が放送予定だったものの、海に囲まれた孤島で起きた殺人事件を題材にしたストーリーだったため、北海道・知床海難事故に配慮し延期となった。

急遽代わりに放送されたのは、堂本版・金田一のエピソード。「これに比べると道枝版は三枚目に振り切れていない」「美形が仇となっている」など意地悪な意見のネット記事も散見されたが、もはやこの作品は単なる漫画原作実写化と別の目的が確立されている気がしてならない。

実は共通点がほとんどない、金田一一の歴代キャスティング

初回放送を前に『春の金田一祭り 〜歴代傑作イッキ見せ!〜』と称してTVerやHuluで過去作が配信、関東ローカルでは地上波で再放送もされた。

確かに私も世代的に思い入れが強いのは堂本版・金田一、というか推しのともさか版・美雪なのだが、全シリーズを観比べてみた一番の感想は「主演俳優の幅があまりにも広い」だった。

同じ原作の同じ役に扮しているとは思えないほど、金田一一のキャスティングには共通点がほとんどない。

“はじめちゃん”といえば「普段は三枚目で、かわいい女の子に弱いが、実はIQ180の天才で、なおかつ情に厚い」というギャップ萌えの先駆け的キャラクター。

それぞれにその役どころはまっとうしているものの、松本版はかなり荒々しさが目立ち、特に序盤は“リトル道明寺”といった雰囲気だし、亀梨版は直後に演じた『野ブタ。をプロデュース』の修二を彷彿とさせ、山田版は原作に忠実な部分も多いものの圧倒的に華があり、どこか王子様的なのだ。

確かに堂本版・金田一は原作ファンも納得のハマり役だった。「三枚目なのにヒーロー」という持ち味を演じられる10代の若手俳優は、当時ジャニーズタレントに限らずとも堂本剛以外にいなかったように思う。

【初代・堂本剛×5代目・道枝駿佑】『金田一少年の事件簿』放送直前スペシャル「金田一meets金田一」

それにより作品は大ヒットし、2度のレギュラー放送に加え、スペシャル版2本、劇場版1本まで制作されているのは、あとにも先にもこのときだけである。

堂本自身の代表作であると同時に、90年代半ば〜後半の時代を象徴するドラマと言っていいだろう。


ジャニーズ俳優による「金田一少年の襲名」の意味合い

そんな役を後輩たちが演じ、継いでいくのは、どういう意味合いを持つのか。

実はこれは、ジャニーズ事務所にとって「近い将来、演技派としてスター街道を駆け上がるのはこの子ですよ」と大衆に示す手段なのではないだろうか。

『金田一少年の事件簿』File02「聖恋島殺人事件・後編」予告

ファンにはすでに周知されていることでも、金田一を演じることで世間一般から初めて認識される効果は大きい。歴史ある、どの世代にもなじみのある役を任されるとは、そういうことなのだと思う。

つまり金田一少年の襲名は、「カルピス女優」に選ばれることと同義なのではないだろうか。

清涼飲料水のCMキャラクターは、昔から若手女優の登竜門とされている。カルピスのCMでは過去に、内田有紀、長澤まさみ、能年玲奈(のん)、黒島結菜、永野芽郁などを起用した。ポカリスエットのCMには、森高千里、宮沢りえ、綾瀬はるか、川口春奈、中条あやみといった面々が歴代名を連ねている。

これだけのスターを輩出していくうちに、視聴者は新作CMを観ると「今はこの子が業界で注目されているのだな」と察するようになった。「カルピス女優」「ポカリガール」なんて呼ばれるほど、そのイメージは定着している。

しかも毎年発表されるわけではなく、それらは決まっていつも不意に決定する。それがかえって「満を持して」感を強めているように思う。

カルピスウォーター® CM「甘ずっぱい日常」編 15秒 當真あみ

そう考えると、金田一少年は同じ役なのになぜ演じる役者に共通点が少ないのか、腑に落ちる気がしないだろうか。だって、金田一一はカルピスなのだ。ポカリスエットだし、オロナミンCなのだ。

きっと原作を忠実に再現することはすでに堂本剛がまっとうしていて、以降は「今、誰になら金田一少年を任せられるか」がキャスティングを決める上での最重要項目になっているのではないだろうか。

この作品を、次世代のドラマ界を背負っていく俳優の顔見世興行だと考えると合点がいく。

道枝駿佑が生み出した、新しい“はじめちゃん”

現に道枝にとって、金田一一役を演じるのは7年越しの目標だったそうで、ジャニーズ事務所に入るきっかけでもあったらしいが、そのころに観て憧れたのは山田版・金田一だったという。

原作の連載期間は1992〜2001年。2002年生まれの道枝にとって、この作品はマンガの実写化というよりも「先輩の役を継ぐ」という意味合いが大きいのは当然のことだろう。

『金田一少年の事件簿』道枝駿佑

そうした視点で道枝版・金田一を観てみたら、とても現代的でハマっていると思った。無理にコミカルに振り過ぎるわけでもなく、柔和で軽やかに演じる姿は、過去のどの“はじめちゃん”とも違う。

今まで道枝が演じた『俺の家の話』の大州ほど思春期真っ只中ではないし、『消えた初恋』の青木ほど混乱してもいない。飄々とした物腰に、実はIQ180という説得力も感じさせる。加えて現代は、学生を演じる若年層の役者は総じて芝居がうまい。

「○○版に比べて〜」なんて意見が出ることは、本人が百も承知だろう。それでもどうかそんなものに揺さぶられることなく、道枝なりの新しい“はじめちゃん”をのびのび演じてほしいと願わずにはいられない。

きっと彼を見て、また未来の演技派アイドルが金田一一役を目指すのだから。

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竹中夏海

日本女子体育大学ダンス学科卒業後、2009年に振付師としてデビュー。その後、さまざまなアーティスト、広告、番組にて振付を担当。コメンテーターとして番組出演、書籍も出版。著書『アイドル保健体育』 (CDジャーナルムック)は「令和の保健体育の教科書」としても注目されている。

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