最新のニュースから現代のアイドル事情を考える。振付師・竹中夏海氏がアイドル時事を分析する本連載。
今回は、Netflixオリジナルドラマ『今、私たちの学校は…』にハマった竹中氏が、振付師・アイドルファン目線で、作品の魅力とダンス文化の歴史を紐解く。
目次
アイドルファンにも刺さる、韓国のゾンビドラマ『今、私たちの学校は…』
「ちょっと待ってこの子たち、めちゃくちゃ身体が利くな……?」
これが、Netflixオリジナルドラマ『今、私たちの学校は…』を観た私の最初の感想だった。作品を再生し始めてわずか2分10秒でのことである。
1月28日に公開された本作は、『イカゲーム』の大ヒットも記憶に新しい韓国が制作したゾンビドラマ。身近な学校を舞台に物語がスタートする点や、コロナパンデミックのつづく現況とも相まってか、公開から連日、世界中のNetflix視聴ランキングで1位を獲得しつづけている。
どんな注目作品でも、基本的に「大量の血がNG、ラブコメ大好き」な私がハマるはずないと思っていたのに、うっかりマイリスト登録してしまったのにはいくつか理由がある。このドラマ、アイドルファンにも刺さる要素が散りばめられているのだ。
そして再生するや否や、冒頭の感想に行き着くのである。ストーリーもいい、キャストも魅力的、予算が潤沢で演出も舞台も素晴らしい。だけど私がまず釘づけになったのは、あまりにも踊れるゾンビたちだった。
街全体がグループアイドル?監督がこだわった「ゾンビの動き」
YouTubeで公開されているメイキング映像を観ると、なるほど、やはりゾンビの動きを振付師とダンサーが作り、役者に指導しているシーンがあった。監督のイ・ジェギュも「これが非常にうまくいった」と手応えを見せている。
俳優たちは何度も練習を重ねこのムーブを習得したそうだが、どう見てもまったくのダンス素人ではないと思われる。少なくとも感染時の見せ場がある者に関しては、ダンサー、または経験者を採用しているのだろう。ジャンルでいうとポッピングやアニメーション、ブレイキンあたりの要素を感じる。これが一朝一夕でできるはずがない。
ここまでゾンビの動きに惹きつけられるとなると、同じジャンルの他作品とは違う新たな楽しみ方ができてしまう。つまり、ストーリー上「次はこの子が感染してしまうのでは……」というフラグが立つ。すると同時に「ということは、この俳優もまさか踊れるのか……?」と別の角度から妙に期待するようになるのだ。
実際ゾンビになってしまうと物語としては切なかったりやるせなかったりしても、「やっぱり踊れた!! かっこいい!!!!」と、感染がアイドルのソロパート的・見せ場となるのだ。もう学校が、街全体がゾンビパンデミックの皮を被ったグループアイドルである(?)。
本作では(おそらく)踊れない役者への演出の工夫も興味深い。たとえば、ゾンビ化した幼児たちが出るシーンは「動画配信者の主観カメラ」という設定で撮られているため、細かな動きのニュアンスができない子役でもバレないようになっている。
また、あるメインキャストの感染シーンでは、「大量のゾンビに襲われる」という演出でゾンビ役の役者たちに身体を支えてもらうことで上体を反り、非常に絵力の強いポージングとなっているのだ。制作者の、感染時の所作への強いこだわりを感じる。
多様なキャラクターの中で見つかる“推し”
もちろんこの作品の魅力は、ゾンビ以外の人間キャストの力も大きい。普段の学生生活でなら大して仲よくもない、交わりもしない生徒たちが特殊な状況で集まり、ひとつの困難に立ち向かう。古今東西で親しまれてきた、王道青春ドラマの雛形である。
この手の作品はキャラクターが多様なので“推し”ができやすい。実際、出演俳優たちのSNSのオフショットを見て、ドラマとのギャップを楽しむファンも多いそうだ。
生きるか死ぬかという状況でも、好きな人がいれば目で追ってしまうし、友達の視線だって気になる。高校生にとっては命と同じくらい恋や友情が自分の世界のほとんどを占めているのだろう。そんな誰しも身に覚えのある感覚が、この作品の根底にはある。
だから、普段なら「ゾンビものはちょっと……」という人でも、この甘酸っぱさにやられて「次のエピソード」ボタンを次々と押してしまうのかもしれない。
「踊れるゾンビ」には韓国のアイドル文化が影響?
「踊れるゾンビ」についてもう少しだけ考察したい。なぜこのような演出に行き着いたのか。勝手ながら私は、これは近年のK-POPアイドルの躍進が少なからず影響しているのではないかと推察している。
昔からなぜだかダンスという表現は何かと融合させると軽視されやすい、という性質を持っていた。「歌とダンス」を行うアーティストよりも「歌一本で」やっていくほうが本格派とされやすいし、ダンスよりも楽器ができたほうがなんだかまじめに音楽と向き合っているように見られやすい。
踊り始めるととたんに軟派な印象を持たれるというのは、アイドル文化が長く根づいた日本だけではなく、ロックミュージックの盛んなアメリカやイギリスでも“あるある”だと思う。
ところが、韓国出身のアーティストで世界から評価を受けたのは、BTSやBLACKPINKをはじめとするK-POPアイドルだった。
韓国の音楽シーンでは、歌って踊るアーティストへの敬意が高い。ダンスという表現方法は軽く見られているどころか、国と世界をつなぐ手段のひとつとして認められているように感じるのだ。
世界に配信される韓国のNetflixオリジナルドラマ。しかも直近で『イカゲーム』の記録的大ヒットにより注目度が高いことは保証されている。
いわば国を挙げての一大プロジェクトに、エンタメジャンルの垣根を越え、こうしたかたちでダンス表現が採用される。こういうところに、この国のダンスへの信頼の厚さを感じるのだった。
日本でも20年前から認められていた、ダンス表現のおもしろさ
実はこうした「ダンサーのポテンシャルをダンス以外の表現で採用する」例は、日本にもある。
2002年公開の映画『たそがれ清兵衛』がそのひとつだ。舞踊家の田中泯を初めて俳優として採用した同作では、彼が斬られるシーンが非常に印象的なのである。
芝居とも踊りともつかないその奇妙な所作は、作品に強烈な個性を残し、田中はその年の日本アカデミー賞で最優秀助演男優賞と新人俳優賞を受賞している。
こうした表現のおもしろさは、実は20年前から日本でも認められていたということだろう。それを惜しげもなく作品のそこかしこに散りばめ、エンタメ化させたのが『今、私たちの学校は…』だともいえる。
未見の人はもちろん、すでに全話完走したという人も、ぜひその視点で作品を観返してみてもらいたい。
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