外出自粛要請、真の問題は「習慣の切断」。ミニシアターを支える映画監督が見たリアルな地方の現状

2021.9.17
入江悠0917ジャーナル

文=入江 悠 編集=鈴木 梢


昨年は全国一斉休館し、現在も営業短縮の状況がつづく映画館。映画監督の入江悠は、コロナ禍にミニシアターを応援する活動をしながら、映画『シュシュシュの娘』を制作、8月21日(土)より全国のミニシアターで上映を開始した。舞台挨拶のために全国のミニシアターを回り、地方の状況の厳しさを目の当たりにする日々。入江が今、その目で見ているリアルなコロナ禍の影響を語る。

「悲愴感はいらない」入江悠が20代の若者たちと“健康的に明るい現場で”作り上げた『シュシュシュの娘』

コロナ禍、「ミニシアター」はなぜ苦しいのか

今、『シュシュシュの娘』という僕の映画を全国のミニシアターで公開している。
去年、ヨイショと一念発起して制作した自主映画だ。SNSで募集した俳優やスタッフたちと一緒に撮影した。出演は福田沙紀さん、井浦新さんなど。

映画『シュシュシュの娘』より
映画『シュシュシュの娘』より

2020年のコロナ禍で、日本全国のミニシアターが経営的な危機に陥った。政府主導による未曾有の自粛要請と、スケープゴート探し。映画館は日本の映画史でも前例のない、全国一斉休館という事態になった。
現在、映画館の安全性はかなりの部分が実証されている。建物はもともと厳しく換気設定が施されていて、観客がしゃべることはない。じっとスクリーンを見つめるのが映画館だ。でも2020年から2021年にかけて、とりあえず人が集まるところは閉館させようと、ほかの施設と共に映画館は目の敵にされた。

最も深刻なダメージを受けた(今も受けている)のが、「ミニシアター」と呼ばれる規模の小さな映画館だ。海外では「アートハウス」などとも呼ばれている。日本のミニシアターは、いわゆるシネマコンプレックス(シネコン)とは異なり、大企業が運営しているわけではない。映画好きなおじさんおばさんが立ち上げて、地元の市民の力によって継続しているところが多い。僕の地元の埼玉県にある「深谷シネマ」という映画館も、子供たちに映画を観せるのが好きなおじさんが、20年来の夢を叶えて立ち上げたミニシアター。今は館長の人柄に引き寄せられて、有志の市民が支えている。こういう映画館では、世界中のさまざまな映画やドキュメンタリー、かつて僕が作った映画『SR サイタマノラッパー』みたいなインディペンデント映画を上映している。小さなところでは50席くらいしかなく、座席制限などの自粛要請を受けると、25人しか観客を入れられない。家賃などの固定費がかかるので、その状態がつづくとそのうち経営的なピンチがやってくる。もう来ている。

映画人や映画ファンは、去年から全国のミニシアターを応援する活動をさまざまなかたちでしてきた。Tシャツなどの物販を買ったり、寄付をしたり。僕も全国のミニシアターの商品を買ったり、劇場支配人の声を届けるための取材などをしてきた。でも、いくら映画好きな人でもずっと寄付をつづけることは難しい。みんな自分の生活があるからだ。
そして、僕が行き着いたのが一番シンプルな応援策。「やっぱり映画館は映画を観るところ。映画を作って応援したい」と思い、クラウドファンディングの力を借りて、映画『シュシュシュの娘』を完成させた。ミニシアターで観てもらうことを目的とした映画だ。今、この映画を持って全国を回り、呼んでいただけるミニシアターには舞台挨拶にも行かせてもらっている。

真の問題は「習慣の切断」

行くと、地方がとても厳しい。
コロナ禍で映画館に通う習慣が切れてしまった常連客が、戻ってこないのだ。埼玉、茨城、名古屋、京都、大阪、長野、新潟、広島、大分、熊本などのミニシアターを、『シュシュシュの娘』と共に回った。どこも「苦しい」と言う。映画館でクラスターが出たという話はいまだないし、館内の安全性もかなり証明されているけど、いったんついてしまった「怖い」というイメージを払拭するのは難しい。人によっては、自宅で配信を観る習慣に切り替わった方も多いだろう。地方のミニシアターは、年配の女性がメインの客層のところが多いけど、彼女らが「夫や子供から止められて」映画館に来なくなっているという話も多い。
さらに追いうちをかけたのが、オリンピックだ。「安全安心」を首相は連呼していたが、案の定、誰もが予想していたように感染者は激増した。そりゃそうだ。増えることがあっても減るはずはない。オリンピック会場付近には、警視庁だけじゃなく、新潟県警や広島県警などが警護に駆り出されていた。海外から来た人やお祭り気分の日本人も多くいた。移動の制限を一方で国民に訴えながら、オリンピックにはめちゃくちゃ多くの人が移動してきている。自粛していた人たちがアホらしくなるのも当然と言える。

そのとばっちりを思い切り受けているのが、東京以外の町だ。
日々、新型コロナウイルス感染者の激増を伝えるニュースがテレビやネットから流れてくる。
『シュシュシュの娘』で各地を回ると、夜に営業している飲食店はほぼない。東京や大阪では「もう限界だ」と営業をしている店も多いけど、地方になればなるほど周囲の目が怖くて営業ができない。町は夜になると、真っ暗になる。それは映画館も例外ではない。座席制限に加えて、上映回数も削減。いったいいつまで経営がもつのだろう、と心配になる。
そして真の問題は、前述した「習慣の切断」だ。おそらく政府は、「オリ・パラ終わって感染者も減ってきたから、ちょっと自粛をゆるめていいですよ〜」とそのうち緊急事態宣言やまん防を解除するだろう(たぶん、総選挙に合わせて一番人気が取りやすい時期に)。でも、そのころ、地方の町は映画館や飲食店も含めて死屍累々になっている。オリンピック開催によるさまざまな分野への影響は、忘却の彼方に吹き飛んで、ただ負債だけが地方の町の小さな店の経営者にのしかかっていく。

映画『シュシュシュの娘』舞台挨拶
映画『シュシュシュの娘』舞台挨拶の様子(提供=入江悠)

『シュシュシュの娘』で各地のミニシアターで舞台挨拶をさせてもらうと、その日は観客が大勢来てくれる。「また来てね」「また来ます」と劇場のスタッフさんと笑顔でお別れする。でも次の日からは、またコロナ下の日常が戻ってくる。観客が減ったミニシアターの姿だ。いったい「またね」は本当に訪れるのだろうか。「閉館しました」と突然お知らせが届いたりしないだろうか。そんな不穏なことを、ふと考えてしまう。
あるミニシアターの館長はこんなことを言っていた。「うちも厳しいけど、もっと厳しいところはいっぱいある。どこで借金をやめて、潰すかを迷っている映画館もあるはずだ」と。オリンピック・パラリンピックの影響は、たぶん時間差でやってくる。
支配人や劇場スタッフの心が折れてしまったら、個人経営のミニシアターはもう復活できない。その町から、ほぼ永久にミニシアターが失われたままになる。世界中の愉快な映画や、才能あふれる新人作家のインディペンデントな映画を観る機会は、その町からはなくなる。かつて私が育ててもらったように、これからの新人監督や新人俳優が羽ばたいていく場としてのミニシアター。それもなくなる。

映画監督として、映画制作者として、今いったい何ができるだろうか、とずっと考えつづけている。まずは『シュシュシュの娘』と共に上映がある映画館を回り、劇場スタッフさんから話を聞き、観に来てくれた観客の方から「新たな日常へ戻す」ためのヒントをもらい、試行錯誤をつづけていくしかないだろう。


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  • 映画『シュシュシュの娘』メインビジュアル

    映画『シュシュシュの娘』

    製作、脚本、監督、編集:入江悠
    出演:福田沙紀、吉岡陸雄、根矢涼香、宇野祥平、金谷真由美、井浦新ほか
    8月21日(土)〜渋谷ユーロスペースほかにて順次公開

    地方都市・福谷市のはずれに生まれ育った鴉丸未宇(からすま・みう/福田沙紀)は市役所に勤めながら、祖父・吾郎(宇野祥平)の介護をしている25歳。平凡な日々を送っていた未宇だったが、役所の先輩の間野幸次(井浦新)の自殺によって運命ががらりと様変わる。先輩の死に関わる理不尽な“文書改ざん”の陰謀を暴くべく立ち上がる未宇。

    “今までは、息をひそめて生きてきました。でも、今日からは。”これまで目立たないように生きてきた未宇の人生が花開く、痛快で爽快な88分。

    文書改ざん、移民排斥……社会の闇を暴く物語は、スケールの大きい商業映画にもなり得る題材。それをあえてこじんまりしたスケール感でやりきるユーモア。ゆったりとしたスケジュールで美味しい食事を摂りながら充実した創作活動を行うこと。その道のプロと学生が入る混ざる学びと実践の場。人間が生きるための大事なスタンダードが、最近見かけない慎ましさあふれるスタンダードサイズの映画の中にぎっしり詰まっている。


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