ゲーム佳境で陥りがちな、“ラスボス鬱”の正体
ゲームの佳境、ラスボス手前などのタイミングでゲームを放置してしまった経験はないだろうか? その症状、「ラスボス鬱」かもしれない。ではなぜ、その症状に陥ってしまうのか?
『ゲームセンターCX』『勇者ああああ』『よゐこのマイクラでサバイバル生活』などのゲーム番組に携わる、放送作家の岐部昌幸が「テレビ×ゲーム」を考える連載。
”ラスボス鬱”とは
突然ですが、ゲーム好きの皆さん。こんな症状に陥ったことはありませんか?
長かった冒険もいよいよ佳境を迎え、あとはラスボスを倒すのみ。なのに、そのゲームをパタッとやめてしまった。
それ、「ラスボス鬱」かもしれません。
健康番組のチェック項目風に入ってみましたが、もちろん「ラスボス鬱」などという専門用語はありません。私が勝手に作った造語です。
ですが、私はまさしくこの症状の持ち主で、ラスボス手前になると、ちょっぴり憂鬱になって、そのまま放置してしまうことも。ゲーム好きを公言しておきながら、お恥ずかしい限りなのですが、あの大名作『ドラゴンクエストXI』も、ラスボス手前でセーブしたまま何カ月も寝かせていました(のちに、あの大エンディングをしっかり拝見しましたけれども)。
ドラクエXIに限らず、どのタイトルも、それこそ寝る間も惜しんで夢中でプレイしましたし、エンディング見たさに果てしなく遠い道のりを歩んできました。だのになぜ、ラスボス戦をいささか億劫に感じてしまうのか? 自分なりに分析してみました。
1. 幼少期のトラウマ
かの高橋名人は言いました。「ゲームは1日1時間」と。
我が家にも母・ミチコが作った独自のルールがありました。「ゲームは夕食まで」。母から「ご飯できたわよ~」と呼ばれたら最後、どんなにいい局面でも、なくなくリセットボタンを押さなければならないのです。
今はなき「家庭訪問」など、学校行事の関係で早く帰宅できた日は、そのぶんたっぷりとプレイできますが、通常は自宅から学校までが遠かったこともあり、与えられる夕飯までのゲームタイムは1時間前後。しかしながら、多くのゲームの最終局面は難易度も高く、それこそラスボス戦は手こずります。RPGなど、最終セーブポイントからエンディングまで1時間じゃ足りないこともしばしば。せっかくいい場面まで来たのに「ご飯できたわよ~」の招集がかかることが多々ありました。「今行く~」と言いながらプレイ続行しようものなら、「ねぇ! ご飯できたよ!」「ご飯できたって言ってるでしょ!!」と、母の声のトーンが第2、第3形態へと変貌していきます。世界の平和を守るためラスボスとの戦いを繰り広げる一方で、家庭の平和を守る母・ミチコとの壮絶な戦いが繰り広げられていたのです。
その結果、せっかくラスボスとのバトルにこぎ着けたのに強制終了となり「またやり直しか……」と何度もため息をつきました。そんな幼少期の苦い経験が、今もなおラスボスを前にすると脳裏をよぎるのです。まったくもって個人的な事情ではありますが。
2. そもそも強い
当たり前ですが、ラスボスは物語の最後にして最大の壁。すんなり勝たせてはもらえません。2回攻撃、全体範囲の超強力魔法、半分以上削ったのに全回復、重ねつづけた補助効果をすべてかき消す、などなどなんでもござれ。後生大事に取っておいたありとあらゆるアイテムを投入し、回復で手一杯になる防戦一方のターンを耐え抜いて、ようやく迎えた撃破の瞬間! 念願のエンディング!……と思いきや、「では、そろそろ本気を出そう」と、大学時代の私の口癖のようなセリフと共にベールを脱ぐ第2形態。こうして、プレイヤーを絶望の縁へと叩き落とすのです。
特にレトロゲームでは、ラスボス戦に辿り着いた時点での装備では太刀打ちできなかったり、アクションゲームでは私のテクニック的な問題で普通に詰むこともあります。そうした「ああ、またあのしんどい戦いが待っているのか」という刷り込みがラスボス手前で蘇り、なんというか“よっこらせ”になってしまうんですよね。
言うまでもなく、壮絶な戦いを乗り越えてエンディングを見たときの達成感はひとしおですし、タイトルは伏せますが、ゲームボーイの某有名RPGみたいに裏技でラスボスを一発撃破できちゃうというのも(いまやいい思い出ですが)味気ないものです。ラスボスが弱かったら弱かったで困る。それが人間のSa・Gaとでも申しましょうか。
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