『ポケモンスリープ』は休んでいる暇など一切ない「ポケモンアウェイク」だった

2024.7.3
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文=かんそう 編集=鈴木 梢


2023年7月にリリースされた睡眠記録アプリ『ポケモンスリープ』。リリース以降これまで継続しているブロガーのかんそうが、極めたからこそ見えてきたその恐ろしさと魅力を語る。

『ポケモンスリープ』というアプリの恐ろしい正体

ここ1年、狂ったようにハマっているアプリがある。その名は『ポケモンスリープ』。

リリースからほぼ休まず継続し、リサーチランク(このアプリにおけるプレイヤーランク)は53を突破、最大チームSP(パーティを編成するポケモンの合計能力値)は13000を超えた。完全無課金ユーザーでこれはなかなかの快挙だと自負できる。しかし、ここに到達するまでには吐くほどの困難があった。

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『ポケモンスリープ』がどんなアプリなのか知らない人のために簡単に説明すると、寝る前にスマートフォンを枕元に置いておくだけで、己の睡眠状態が計測・記録できる睡眠記録アプリだ。

「うとうと」「すやすや」「ぐっすり」の3つの睡眠パターン(特徴なしも存在する)を基本とし、それに応じて現れるさまざまな種類のポケモンたちの寝顔を観察(寝顔リサーチ)し「寝顔図鑑」を完成させる、というのがこのアプリの目的となっている。

当初は「何もせずともすべてのポケモンが集まってくる、ほのぼの箱庭ゲーム」だと思っていた私は、ただお気に入りのかわいいポケモンたちだけを集め、グータラ寝て過ごしていた。

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これが完全な罠だった。

すぐに残酷な現実に打ちのめされた。待てど暮らせど、一向にポケモンの寝顔が増えない。出現するのはコラッタ、キャタピー、ピカチュウ……初代トキワの森で出現するような弱ポケモンだけ。

おかしい、何かがおかしい。

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そう、このゲームには「カビゴン評価」という要素があった。ノーマル1からマスター20まで割り当てられており、評価が高くなればなるほどそれに比例して珍しいポケモンが出現する、という仕様になっていたのだ。

当然、野比のび太のようにアホみたいな顔をして何もせず寝ているだけでは評価が上がることなどないし、ノーマルランクのままではカイリュー、バンギラス、リザードンといった強ポケモンたちは永遠に出現しない。

そう、『ポケモンスリープ』とは「ほのぼの」とはまるで真逆の、鬼畜のようなアプリだったのだ。

強いポケモンたちと出会うために覚えておくべきこと

評価を上げるために必要な条件はひとつ。島に生息するカビゴンに、より多くのエナジーを与えることだ。そのためにはカビゴンに「きのみ」を食べさせ、食事を提供しなくてはならない。

順を追って説明しよう。まずは「きのみ」

まず前提として、寝顔リサーチが終わったポケモンには「おやつタイム」におやつ(サブレ)を与えることができ、フレンドポイントをMAXにすることで仲間にできる。そうして仲間になったポケモンは、カビゴン育成の手伝いをしてくれる(1組最大5匹のチームにすることができる)。

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そのポケモンは一定時間経つと、どこかから「きのみ」を採取してくる。「きのみ」には種類があり、ポケモンのタイプによって採取できるものは異なるのだが、出現するフィールドごとに生息するカビゴンの「好きなきのみ」が異なり、「好きなきのみ」を与えることでエナジー獲得量が2倍になる。

たとえば、一番最初に上陸することになる「ワカクサ本島」では毎週ランダムに好みのきのみが変わるが、次に上陸する「シアンの砂浜」ではモモンのみ(フェアリー)、オレンのみ(みず)、シーヤのみ(ひこう)、「トープ洞窟」ではフィラのみ(じめん)、ヒメリのみ(ほのお)、オボンのみ(いわ)と、フィールドによってカビゴンの「好きなきのみ」はまったく異なるため、適切なポケモンを選択しなければ効率的にエナジーを獲得することはできない。

そして、もうひとつの要素「食事」

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毎週「カレー・シチュー」「サラダ」「デザート・ドリンク」の3つの項目から割り当てられ、それに応じた「料理」を作ることができるのだが、それには、「きのみ」とは別にポケモンがどこかから採取してくる「食材」が必要だ。

ピカチュウなら「リンゴ」、ヤドンなら「カカオ」、ゼニガメなら「牛乳」など、それぞれのポケモンが採取する「食材」は異なり、レシピを確認しながらポケモンを選び、食材を集めていくことが重要になる。

当然、ポケモンにも得意と不得意が存在する。「きのみ」を採ってくるのが得意なポケモンもいれば、「食材」を採ってくるのが得意なポケモンもいる。なお、これらはけっして両立することはない。

「きのみ」と「食事」のバランス、これをフィールドごとに見極めその時々に合った最適なパーティを組む、これが『ポケモンスリープ』というアプリなのだ。つまり、お気に入りのポケモンだけでパーティを組むことは一切許されない。

起きている時間も、寝ている時間も、考えることをやめてはならない

さらにRPGのポケモンなどと同じく、このアプリにも「育成要素」が存在する。レベルを上げ、時には進化させることで、きのみや食材を採取するスピードや量が増えるのだ。しかし、レベルを上げるのも「タダ」ではない。ポケモンを育てるにはそれぞれに応じた種類の「アメ」さらに「ゆめのかけら」というアイテムが必要になってくる。

「アメ」は日々のポケモンの寝顔と、ショップやミッションの報酬などで手に入る「ばんのうアメ」を使うことで入手できる。「ゆめのかけら」の入手方法はさまざまだが、課金アイテム以外では「ランクアップ時」と「珍しい寝顔発見時」が現状の最効率となっている。

つまり「ランクを上げなければ『ポケモンスリープ』は何も始まらない」ということなのだ。

しかも、このアプリには「タイムリミット」があり、評価は一週間で打ち切られ、リセットされてしまう。『ポケモンスリープ』で高ランクを目指すうえで重要なのは、寝ている時間よりも「起きている時間」をいかに効率よく過ごせるかだ。

毎日3回のカビゴンに与える食事に加え、定期的にポケモンをタップし、きのみと食材を採取する。加えて、各ポケモンたちのレベルアップなど、毎日のルーティンは山のようにある。最適なパーティを組み、絶え間なくサイクルを回し、カビゴンの評価を素早く上げ、出現するポケモンの種類を増やし、珍しい寝顔を集める。

寝ている時間も、考えることをやめてはならない。冒頭で「うとうと」「すやすや」「ぐっすり」の3つの睡眠パターンがあると述べたが、「うとうと」だけを繰り返していても永遠に寝顔図鑑は完成することはない。なぜなら、それぞれの睡眠パターンでしか出現しないポケモンが存在するからだ。

そのためには、自分の睡眠パターンを変えなくてはならない。わざと疲れてから寝てみたり、あえて夜中に起きたり、ということをしてもいいだろう。現状「ぐっすり」は枕元から離れた場所でスマホを長時間放置すれば深く眠っているとみなされるが、すべてのパターンを100パーセント操作する方法は明らかになっていない。さまざまな方法を試し、自分なりの睡眠を探っていく。

最大の鬼門、個体値(ゲンガーAとゲンガーBの場合)

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そしてもうひとつ、ポケモンには「個体値」が振り分けられており、たとえば同じ種族でもまったく能力が異なる。この要素こそ『ポケモンスリープ』最大の鬼門であり、最も我々「ポケモンスリーパー」を狂わせる要素だ。以下、2枚の画像をご覧いただきたい。

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これは「ゲンガー」というポケモンを2匹用意し比べたものだ。レベルは同じ「20」だが、採取する食材からお手伝いスピードまで、その値がまったく異なっているのがおわかりいただけるだろうか。

上のゲンガーを「ゲンガーA」、下のゲンガーを「ゲンガーB」とした場合、ゲンガーAの特徴は「おてつだいスピードの速さ」だ。性格は「おてつだいスピード」に上方修正がかかる「いじっぱり」、サブスキルに「おてつだいスピード」「おてつだいボーナス」「おてつだいスピードM」といったスピードを上げるものがすべてそろっており、瞬発的な働きは申し分ない。

対してゲンガーBは、おてつだいスピードこそゲンガーAに劣るが、レベル30で食材「あじわいキノコ」を採取できる。「あじわいキノコ」は、高エナジーが期待できる「ニンジャ」や「きのこのほうし」系の料理を作るうえで欠かせない食材であり、現時点では採取できるポケモンはかなり限られているため、とても貴重だ。

加えてゲンガーはもともと「とくいなもの」が「食材」なポケモンのため、「おてつだいスピード」よりも「食材確率」や「最大所持数」が重視されることが多い。ゲンガーAの場合、「おてつだいスピード」はたしかに抜群だが、食材は「げきからハーブ」しか採取できず、性格も「食材おてつだい確率」に下方修正がかかるので、フィールドカビゴンの好きなきのみを集める週でしか活躍は期待できない。

対してゲンガーBは、2種類の食材を安定して採取することができ、レベル25で「最大所持数アップM」のスキルを習得するため、多少放置をしていても確実に仕事をこなすことができる。また性格が「おとなしい」であることに加え、固有スキルの発動率もサブスキルで習得しているので、総合的に見ればゲンガーBのほうがゲンガーAよりも獲得エナジーの量が多いといえる。

しかしこの結果も、パーティに組み込むほかのポケモンとの相性によって変わる。ゲンガーBの「2種類の食材を採取できる」という特徴は、裏を返せばどちらかに食材が偏ってしまう危険性も孕んでいる。

「げきからハーブ」が欲しいのに、「あじわいキノコ」しか採ってこないこと(逆もしかり)が起きてしまうと、いずれ必要な食材が足りなくなり、安定的な食事の供給が滞ってしまう。そもそも現時点の食事レシピにおいて「げきからハーブ」と「あじわいキノコ」の両方を使う料理は存在しない。つまり、2種類の食材を採取できる必要はないということになる。

反対に、ゲンガーAは確実に「げきからハーブ」だけを常に採取できるため、ほかのポケモンでほかの食材をまかなえれば、安定した働きが期待できる。では、ゲンガーAを基準にパーティを組むとすればどうなるか、考えてみたい。

ゲンガーAが最も活きる場面は現状、フィールドが「ワカクサ本島」で、好みのきのみにゴーストタイプの「ブリーのみ」があり、その週の食事が「カレー・シチュー」だった場合だろう。

そこで私は、「ふといながねぎ」×14、「げきからハーブ」×8、「あったかジンジャー」×10で作ることができる「からくちネギもりカレー」をベースの食事に組み立てていくことに決め、以下のパーティを用意した。

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ともに得意が「食材」で「ふといながねぎ」を採取できるメタモン、「あったかジンジャー」を採取できるバンギラスを組み込み、ゲンガーを含めたこの3匹を中心に日々のサイクルを回していく。さらに、同じゴーストタイプのジュペッタを入れることで、好みのきのみもしっかりと与えつつ、ヤドランが持ってくる食材「おいしいシッポ」を集め、高エナジーが獲得できる「あぶりテールカレー(「げきからハーブ」×25、「おいしいシッポ」×8)」のチャンスも窺っていく。

このようにさまざまな状況を考慮しつつ、その時々に応じた最適なポケモンを選択し、何が成功し、何が失敗したのか、常にトライ・アンド・エラーを繰り返し、アップデートし続けていく。それがアプリ『ポケモンスリープ』のすべてだ。

そう、『ポケモンスリープ』とは休んでいる暇など一切ない「ポケモンアウェイク」だったのだ。ぜひ、あなたもけっして終わることのない睡眠の沼にハマってほしい。

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かんそう

1989年生まれ。ブログ「kansou」でお笑い、音楽、ドラマなど様々な「感想」を書いている。

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