「ニコ動ゲーム実況者」の15年以上くすぶり続ける余熱(たろちん)

2024.6.21

文=たろちん 編集=田島太陽


およそ15年前、いつも酒に酔い、適当なトークを繰り返しながらニコニコ動画で気ままに「ゲーム実況」を配信していただけなのに、ごくごく一部のネットオタクたちの心をつかんでしまった男、たろちん。

その後ネットメディアの編集者として活躍し、会社を辞め、大病を患って生死をさまようなどさまざまな日々を経て、最近は「ゲーム実況」黎明期を描いたマンガ『亀戸お遊び組 ~古参ゲーム実況者の交友録~』(ルーツ/講談社)に本人役で登場している。

『Quick Japan』のコンセプト「Dive to Passion」にちなんで、「私だけが知っているアツいもの」について綴るコラム企画「DtP」。たろちんが今改めて、あのときの「ゲーム実況」を回想する。

よくわからないまま「友人」になってしまった僕たち

世はまさにゲーム実況時代である。猫も杓子も、大人も子供も、素人もタレントも、みんなゲーム実況をやったり見たりしている。

僕がゲーム実況を始めた2008年ごろはまだゲーム実況というのは「なんかニコニコ動画のオタクがゲームやりながらしゃべってるらしい」という扱いだった。今のように動画配信のガイドラインなどもなく、「ゲームというコンテンツに無断で便乗して自己実現を企てるイタいやつら」という見方も強かった。動画の収益化なんて概念がないのはもちろん、ブログにアフィリエイトを貼っただけで「金儲けするな!」と大炎上するような時代だった。

僕たちの多くは学生やフリーターでまだ何者でもなかった。

そして同じようにゲーム実況をしている酔狂な暇人に興味を持ち、惹かれ合い、一緒に酒を飲むようになった。酔っ払った勢いで一緒にゲーム実況動画を撮り、ネットに投稿して反応を楽しんだ。肯定的な反応に鼻を高くし、否定的な意見には直情的にオラつき返した。若くて、浅くて、場当たり的で、青春だった。

2008年ごろ、ルーツ(『亀戸お遊び組』作者)にて
当時のルーツ(『亀戸お遊び組』作者)の自宅にて

知り合ったメンバーのうち、ふたりがたまたま東京の「亀戸」という土地に住んでいた。僕たちは何かあれば亀戸に集まり、何もなくても亀戸に集まった。ネットばかりしていた僕たちはネットを通じて似たような匂いのする人間を見つけ、リアルで会って鍋をつつきながらネットの話をした。気がつけばリアルで会うのが当たり前で、なにより楽しみなことになっていた。

今のようにネット上での「コラボ」という文化が確立されておらず、よくわからないまま「友人」になってしまった僕たちは、数年後には半数以上がまともなネット活動もしなくなってしまい、ただただ集まっては酒を飲んだり旅行に行ったりする関係になっていた。

その間にも時代は流れ、「ゲーム実況」という文化はどんどん大きくなっていった。主戦場はニコニコ動画からYouTubeやTwitchに移り、ガイドラインやコンプライアンスを遵守した万人が楽しめるゲーム実況が主流になった。新しいゲーム実況のスターが次々に生まれ、多くの人がゲーム実況に興味を持つようになった。

極めて変な日常マンガになった

一方で、僕たちはとことん「僕たち」にしか興味がなかった。時代のトレンドを敏感に察知するのが「バズる」秘訣となるなかで、2008年のノリをマイペースに貫き続けた。

その姿は傍から見れば「インターネット老人会」そのものだっただろうが、それが僕たちの自然体だった。引っ越しや就職などでそれぞれの環境が変わり、もう亀戸に集まることがなくなっても、心はずっと「亀戸組」のままだった。

スノボ旅行に行って飲んだくれた夜
スノボ旅行に行って飲んだくれた夜

僕たちは相変わらずリアルで会って遊び続けた。ラフティングやボルダリングをして陽キャぶったこともあった。結婚式では「あいつも立派になって……」と言って涙ぐんだ。ひとり、またひとりとおっさんになっていき、話題に仕事の愚痴が増え、趣味がサウナや競馬に変わったりもした。酒の飲みすぎで膵臓を壊し、死にかけて4カ月半入院したやつもいた(僕である)。

2023年、そんな僕らのことを仲間のひとりがマンガにした。『亀戸お遊び組』と題されたそのマンガは、ゲーム実況出身の漫画家であるルーツとその実況仲間たちの、ほとんどゲーム実況をしていない交友関係が赤裸々に描かれていた。僕たちの姿はなぜか美少女や動物やそのまんまのおっさんとしてバラバラに表現され、内容はすべてノンフィクションという極めて変な日常マンガだ。

『亀戸お遊び組~古参ゲーム実況者の交友録~』(ルーツ/講談社)
6月17日に発売された『亀戸お遊び組~古参ゲーム実況者の交友録~』第2巻(ルーツ/講談社)
※実際のたろちんは30代後半の男性だが、マンガではなぜかピンク髪の女性として描かれている(表紙左上)

ただのネットオタクが集まって「すごいメンツだ……!」と感動する滑稽さ。年齢よりも再生数が重んじられる村社会。初の富士登山のあとに飲んだ、人生で一番うまかったビールの味。スキー旅行でスキーよりもホテルのゲーセンに夢中になってしまう悲しい性。

ネット配信者を題材にしたマンガなのに、描かれるのはどこまでいっても僕たちの「リアル」だ。僕たちを知らない人はもちろん、僕たちのネット活動を知っている人ですら興味を持ってくれるのかわからなかった。でも、それがすごく僕たちらしいとも思った。

16年が経ち、時代は変わったけれど

漫画は、この界隈を15年以上見続けて煮凝りのようになってしまった視聴者だけでなく、当時のニコニコを知る人たちからも「懐かしっ」「まだ生きてたんだ」と好意的(?)に迎えられた。池袋・ミクサライブ東京で行われた出版記念イベントは即完売になり、配信チケットも会場のイベント史上一番くらいに売れたらしい。

僕がライターとして初めて書いた原稿も、2008年の『Quick Japan』での「今ゲーム実況がアツい」というコラムだった。

そのとき僕はゲーム実況の魅力を、画面を通じて「友達感覚」を味わえることにあると書いたが、この漫画の魅力もそこにある。僕たちの大切な思い出をプロの漫画家の手腕でコンテンツに昇華してくれたルーツに、ひとりの友人として感謝している。せっかくなので当時の言葉で言おう。うp乙!

ニコニコでゲーム実況を始めて、そして友達になってから約16年。

時代は変わり、僕たちはあまり変わっていない。あのとき何者でもなかった僕たちは、今もまだこうしてネットの片隅でくすぶり続けている。うっかり触ると火傷しそうな程度の余熱を帯びて。

たろちんが『Quick Japan』vol.80(2008年)に書いたコラム
たろちんが『Quick Japan』vol.80(2008年)に書いたコラム

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たろちん

ゲーム実況、ライター、同人サークル「宵待ち坂」(小説担当)。元『ねとらぼ』の中の人。元飲むお酒ファン(現膵臓なし)。重症急性膵炎王。非閉塞性無精子症。スト6マスターブランカ。詩人みたいに生きたい事実上の死人。

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