樋口楓『Baddest』:PR

17歳のVTuber樋口楓「なんでそこに壁があるんだろう」容姿も性別も溶け合う世界での挑戦

2021.8.26

取材=渡部 遊 文=原 航平


「2.9次元の存在」であると、樋口楓は自身をそう形容する。

にじさんじプロジェクト所属、VR関西に住む高校2年生。YouTube上での生配信が活動の中心であるVTuber/バーチャルライバーである彼女は、特徴的なキャラクターがひしめき合うVTuber業界の中であえて“どこにでもいるような女子高生”を体現しているという。ファンタジーの中の住人ではなく、より3次元の世界に近い存在になるために。

とは言っても、樋口楓はけっして“無個性”ではない。一度ライブ配信を観れば、純な見た目とは裏腹な激しく明るい関西弁とのギャップに驚くはずだ。「でろーん」の愛称で親しまれている彼女のゲーム実況は、時にゲーム(2次元)の域を超えた感動を呼ぶ。

「2次元と3次元の壁を壊して、もっとVTuberのことを知ってほしい」と発言する樋口楓がアーティストとして音楽活動をするのも、その目標を達成するためだ。8月25日に発売されるメジャー2ndシングル「Baddest」で初のテレビアニメタイアップを経験した彼女に、楽曲の制作過程について話を聞いた。

リアルとバーチャルの間に「なんで壁があるんだろう」という疑問

樋口楓

──2020年1月にメジャーデビューを果たし、このたび2ndシングルが発売される樋口さんですが、VTuberとして活動し始めた当初からアーティストデビューを見据えていたのでしょうか。

樋口楓 まったく考えてなかったんですよね。音楽自体は聴くのも楽器を演奏するのも好きだったんですけど、自分が音楽活動をするというビジョンは全然なくて。VTuberの活動をするなかでファンの方にオリジナル曲を作ってもらえるようになり、結果的にアーティストデビューへとつながった感じでした。 

──現在は精力的にアーティスト活動を展開しながら、軸足は変わらずVTuberの方にあるイメージなのでしょうか?

樋口楓 そうですね。「VTuberを広めたい」「2次元と3次元の壁を壊したい」という明確な目標があってアーティスト活動をしているので、どちらかと言うとまだVTuberの割合のほうが大きいんじゃないかなと思っています。

──「壁を壊したい」というのはアーティスト活動でも重視している点なんですね。

樋口楓 アニメに偏見を持っているリアルのアイドル推しの方とか、その逆の方もいると思うんですけど、「なんでそこに壁があるんだろう」って活動以前から疑問で。もともと私は幼いころからネットゲームが大好きだったので、ネットゲームではキャラクターを自分が好きな容姿にできたり性別も関係なく設定できたり、2次元が3次元に溶け合っているような世界に違和感なく触れてきたんです。アニメも好きだし、リアルのアーティストさんのライブも好きでした。

──それが当たり前だったんですね。その意識が樋口楓の活動にも反映されている?

樋口楓 2次元とかアニメとかゲームのキャラクターって、しっかり台本があってキャラクターのバックグラウンドがあって、声優が声を発してっていうのがありますよね。でも私は台本もなくリアルタイムでお話しするのが強みなので、それを活かして少しでも3次元の人にそのよさをわかってもらえればなと思って活動しています。音楽活動では「17歳の女子高生のリアルな生き方」を歌っています。

──リアルな生き方。

樋口楓 等身大の悩みや葛藤とか、過去にあったこととか、あるいは5年後のVTuber活動をしていない自分を想像した楽曲もあります。

「もっとこうできたな」と思わないような完成度

──そんななか、2ndシングル「Baddest」はご自身初のテレビアニメタイアップ曲となりましたね。

樋口楓 『100万の命の上に俺は立っている』第2シーズンのオープニングテーマ曲を歌わせていただいたんですけど、タイアップはずっと夢見てたことだったので、実際にオープニングを観ても未だに実感が湧かないくらいうれしいです……。雲を掴んでいるような感じで。

──レコーディング段階での今までにない難しさはありましたか。

樋口楓 アニメの制作会社に音源を提出するというこれまでにないフローがあったので、レコーディングのタイミングがいつもよりかなり早かったんですよね。昨年の秋ごろには提出してたと思うんですけど。だから、半年以上経ったあとにその曲を聴いて「もっとこうできたな」と思わないような完成度を目指すことに必死でした。リリースされたときに聴いて「100点だ」と思えるように。

──そのタイムラグは確かにプレッシャーですよね……。

樋口楓 今回はアニメのタイアップでもあり、アニメファンの方が絶対に聴くオープニングテーマだったので、万人が聴いて違和感がない曲にするとかいろいろ意識していました。難しかったですね(笑)。

──アニメの世界観を崩さないように、というような大変さもあったのでしょうか。

樋口楓 それはそこまで意識せずにできたと思います。初めてのタイアップだったのでメロディや歌詞はすべてお任せしてたんですけど、バーチャルの世界で戦闘する『俺100』の主人公の心情がネットゲームをしてきた私には理解できましたし、デビューシングルからずっと光増ハジメさんにディレクションもやっていただいていたので、アニメタイアップだからといって楽曲や歌詞に対しての違和感はなかったんです。むしろ私が「アニメタイアップだから」と力み過ぎていて「樋口さんの曲なんだからもっとリラックスして歌いなよ」とスタッフさんに言われてた感じでしたね。今までの制作環境と大きく変わらないのでそんなに緊張する必要はなかったんです。

樋口楓2ndシングル「Baddest」メインビジュアル

初めての声優体験で苦戦

──『俺100』の世界観が反映されたMVなども公開されていますが、ファンの方からの反響はいかがですか。

樋口楓 アニメから入って曲をダウンロードしてくれた方が「これ、でろーんの曲やったんや!」みたいに言ってくれたりするのが一番の喜びでした。MVについては、私がVTuberになるきっかけだった『マビノギ』というゲームの要素を取り入れたり私が好きなものを細かく散りばめていたので、そこに気づいてくれた人が笑ってくれたりするのもうれしかったです。

──今回のシングルCDにはMVのメイキングも収録されているとか。

樋口楓 グリーンバックを背景に、樋口楓が実際にアクションに取り組んでいる姿を見てもらえるメイキングになっています。3DCGじゃなくて本当にやってるんだという驚きがあるんじゃないかな……。

──『俺100』には第1話にゲスト出演もされましたが、初めてのアニメ出演はいかがでしたか。

樋口楓 声優をするのも初めての体験だったので、「あ、ほんとにキューボックスある!」みたいな、社会見学のような貴重な時間でした(笑)。アニメのアフレコは思った以上に難しかったです。全然タイミングが合わなかったり、標準語をしゃべるキャラクターだったので気持ちを込めるのも大変だったり……。でも最初で最後かもしれない経験だったので、全部楽しかったです。

──2ndシングルのカップリング曲についてもお聞きしたいのですが、まず「Sting or stung」はどういったコンセプトなのでしょうか。

樋口楓 まずは今までにないベースメインの曲を作りたいと思ったのが発端でした。少し大人っぽい曲になるかもと思って始めたんですけど、『俺100』の視聴者層である中高生の男の子にも聴いてほしいなって思いがあって、難しい言葉を並べてみたり厨二心あふれるような曲にしていきました。

──歌詞がみっちり詰まっている感じですよね。

樋口楓 詰まり過ぎてるくらいですね。レコーディングが大変でした(笑)。

──一転して3曲目の「ikiteku.」はポップで爽やかな楽曲になりました。

樋口楓 『AIM』に収録された「現代社会、ヒロインは!」を作ってくださった作詞の安藤紗々さん、編曲のPandaBoYさんのタッグが評判よかったのでまたお願いできればなという思いがあったのと。今まではロックばっかりで、静かめな曲って2曲くらいしかないんですよね。自分の内なる思いをバラードに乗せて歌うということがあんまりなかったから、また挑戦してみたいなと考えていました。曲調からしたら女の子っぽいのに歌詞の内容は女性って感じで、そのギャップも気に入っています。

リアルのアーティストが立っていても違和感がないステージに

──今年2月に開催された『Kaede Higuchi Live 2021 “AIM”』のBlu-rayも8月25日に同時発売されました。ライブではどういった演出を意識しているのでしょう。

樋口楓 ライブでも、リアルとバーチャルの狭間の存在としての私の強みを生かしてリアルのアーティストさんが立っていても違和感がないようなステージにしたくて。アイドルはサインボールを投げたり物理的なアプローチができるけど、じゃあそれを黒子さんを使ってやるかとか、スタッフさんと毎回いろいろな相談をしています。今回のライブでは現地で生演奏・生歌唱・生稼働をするためにすごく試行錯誤しました。モニターを上に上げてもらって宙に浮いているような演出をしたり、会場全体を使って楽しんでもらえるように工夫しましたね。

──最後に、アニメタイアップなどの新たな体験を経た今後の音楽活動のビジョンがあれば教えてください。

樋口楓 またタイアップのお話があればぜひやらせていただきたいんですけど、それ以上に「VTuberという存在をひとりでも多くの人に知ってもらいたい」と思っているので、これからも変わらず内面のことだったりを歌っていきたいです。あと野球がシンプルに好きなので、始球式とかで歌えたらな……なんて淡い夢を抱いています。バッティングマシーンにモニターをつけてもらって160kmの球を投げてもらうとか(笑)。バーチャルの世界を知らない人によさを知ってもらうために、3次元のアーティストさんと関わるようなこともやっていけたらなと思っています。

樋口 楓(ひぐち・かえで)
にじさんじ所属のバーチャルライバー。YouTubeの登録者数は43.6万人(2021年8月25日現在)。2020年3月にアーティストデビューを果たした。

(c)BANDAI NAMCO Arts Inc. (c)ANYCOLOR, Inc.


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渡部 遊

(わたなべ・ゆう)『クイック・ジャパン』編集部。猫アニメ自転車サウナ山が好き。