プラットフォーマーの免責
コメカ SNSが浸透したことで、誰が何を言うかということが、かつてよりもさらに動員やパワーゲームに直結する状況になった感がある。すべてがスペクタクル化していて、政治やオリンピックについての態度や意志表明も、ポップカルチャーについての感想や意見も、日々の小さな「祭り」になっていくわけだね、WEB上で。スポーツ選手だろうが有名ツイッタラーだろうがさ、その意を汲んで動くオーディエンスに囲まれて、そこを何がしか操作する意識で言葉を提出するわけだ。
池江選手のツイートも、「こうあってくれ」という彼女の言葉を自主的に汲もうとする人がたくさんいるわけでね。どの「祭り」に乗るかという選択の問題でしかなくなっているところがあると思う。そしてどの「祭り」を選んだかによって、その人間にとっての社会像が変わってしまっているというかね。
パンス そういう一連の動きが、だいたいツイッターというプラットフォームの中で起こっている。まあツイッター自体が「祭り」をやるのによくできていて、自分もここ10年というものそこに乗っかっていたこともあっただろうなという反省も込めて主張したいんだけれども、とにかく僕は自由意志というのが大切だと思っていて、それが誰か、というより集団性によって右往左往させられるのがイヤなんだよね。この種の議論はこれから高まっていくのではないかなあ。
ところでプラットフォームの問題といえば、5月末に、YOASOBIのMVがYouTubeで再生前に警告文が出るようになったというニュースも。「放送禁止歌」が展開される場も移り変わったんだなあという実感があったけど。
コメカ ラジオやテレビのようなマスメディアによる規制というのもじゅうぶんに恣意的なものだったわけだけど、WEBプラットフォームによるそれというのはさらに不透明かつ曖昧な部分があるね。YouTubeによる「夜に駆ける」に対する「次のコンテンツは、一部の視聴者にとって攻撃的または不適切な内容を含んでいるとYouTubeコミュニティが特定したものです。ご自身の責任において視聴してください」という警告文も、この楽曲・MVの何に対して言及したものなのか結局はっきりしない。アリバイ作りとしての警告文が表示されるだけで、単にプラットフォーマーを免責することにしかなっていない。
ラジオやテレビがそれをできていたわけではまったくないけども、社会的・倫理的な問題性を考え意見表明していくというメディア責任が果たされているわけじゃなくて、単なるリスクヘッジでしかないわけだよね。プラットフォーマーにとってはトラフィックが稼げればそれでいいわけで、それはツイッターにおいてもそう。メディアの責任は免罪されたまま、その上で起こる「祭り」によって状況が形成されていく。
パンス うーん、メディア側の責任論に持ち込むのは妥当ではあるんだけど、それはそれで現代的だな、ネット的だなと思う。これはふたりの間で意見が異なるところなんだけども、僕が危機感を覚えるのは、曖昧な部分が除去されて、ゼロイチ的にすべてが判定される状況で、リスクヘッジ的な対応もそのなかで生まれてくるものだと捉えてる。
そういえば國分功一郎・熊谷晋一郎『<責任>の生成』(新曜社)はそんな「責任」とはなんなのか、源流を掘り下げていておもしろいです。プラットフォームについて考えるときは、管理者側の問題がありつつ、受け取る側の個人がどう受け止めるか、祭りに乗るのか乗らないのか、という部分を重視したい。
コメカ 「祭り」に乗らない、ゼロイチ的な社会観に乗らないという態度を個々人が取れるか否かというところが、状況規定の根源的な鍵だとは確かに思う。しかし僕は単純に、ユーザーの欲望を汲み取って利益を得ているプラットフォーマーたちが免責される構図がムカつくんだよね(笑)。確かに逆算された結果としてリスクヘッジ的対応が生まれているところがあるんだけど、すべてがネットに回収されていく現状の流れを止めるのはやっぱり難しい。
動員的なネット環境と距離を置くべきだという言論もいろいろ生まれてきているし、それらが重要だと僕も思うんだけど、単純な意味でのプラットフォーム批判・システム批判的な言葉というのもやはり作っていかないと、無気力に覆われてしまいかねないなあとか、最近は考えているね。
パンス プラットフォームが巨大過ぎて無気力になっちゃうというのはあるかもね。打破するなら機械自体を破壊していこう! ラッダイト運動ですよ! インターネットを壊す!っていうのは難しいので、まあ確かに改良主義的にはならざるを得ないわね。ただ、ある種の「倫理」が構築されたとして、それはむしろプラットフォーム自体を強化することにもなり得ないかという問いが自分の中にはあるんだよね。この件については引きつづき話せそうだな。
コメカ この問題はもっと話したいですね(笑)。インターネット打ち壊し運動というのが、本当は一番必要なんじゃないかと最近思ってるよ(笑)。という感じで、今回はこのあたりで。また次回!
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