東京五輪を巡る「現実の分裂」同じ番組で開催を疑問視したかと思えば選手に期待する、なぜ両立しているのか

2021.6.9
マライ・メントラインサムネ

止まらないQアノン論者の熱さ。トランプは、大統領戦に負けたことで違うフェイズの権力を手中にしたようにも見える。東京五輪を巡る言説もこの状況に似ていないか? 同じ番組の中で、五輪開催を疑問視して否定的に議論、CM明けてスポーツコーナーでは五輪選手への期待を特集したりするメディアの現状。おかしくなりそうだ。分裂する現実感覚の行方をマライ・メントラインが考える。

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開き直りのQアノン界隈

以前、このコラムで「いわゆる」陰謀論の跋扈について書いた。
その焦点だったアメリカ大統領選は結局バイデンの勝利に終わり、トランプ支持者たちが熱心に主張していた大いなるパラダイム逆転イベント展開も特になく、バイデン政権は、わりと普通に稼働開始して現在に至る。

で、この現況、選挙当時Qアノン的陰謀論に染まっていた人たちは、さぞや落胆して……。
いないんだなこれが。
あ、もちろん全盛期に比べたら営業縮小してますよ。
しかしなんというか、つづけている人たちの熱量が意外と落ちてないっぽいのが印象的。さらにいえば、たとえ情報がデマと判明しても、だから何? 全然オッケー! もっと話題プリーズ! みたいな開き直り感さえ見受けられる。

なぜこういう状況が維持できるのか。

陰謀カルトにしろヤバ系宗教にしろ、そこから家族や知人を取り戻した記録を読むと、だいたいターゲットをカルト集団から引き剥がして孤立化させ、こっち側のメンツでひたすら包囲・圧倒・説得して「現実復帰」させる、というパターンが多い。
つまり多数決原理を援用した逆洗脳であり、その根本的な力学は、実はカルト側とあまり変わらなかったりする。だからダメだよとか野暮なことを言うつもりはないけれど、とにかくそれが現実だ。

しかし、ネットでカルト領域にハマった人たちの場合、この逆洗脳が根本的に難しい。なぜなら現代的な生活常識として「ネット断ち」は困難であり、ゆえに彼らは電脳を介して「だって仲間がたくさん居るし!」と徒党を組み、という、カルトへの帰属意識&勝手な多数派感覚を維持・強化しがちだからだ。

ドナルド・トランプの手にした観念的勝利

そんなわけで、分断は終わらない。
否。「分断」というのは社会批評的な観点からの表現だ。
カルトにしろ何にしろ、プロデュース側から見ると、やっていることは「市場形成」以外の何物でもない。扱うネタが真実であろうとデマであろうと、それを軸に情報やモノやカネの代謝サイクルがちゃんと成立すれば問題ない。つまり「市場として機能する」ということ。これが重要なのだ。

ゆえに、冒頭に記したQアノン業界の終わらぬ賑々しさがある。
確かに2021年のアメリカ大統領選はルール的にジョー・バイデンが勝利したものの、ドナルド・トランプも別種の観念的勝利を手にしたといえるだろう。選挙を通じて「現実よりも強固で、恣意的にコントロール可能」な、トランプ市場ともいうべきシステムとリソースを得たからだ。

そして最近のネット社会では、大小取り混ぜ、さまざまな現象の背後にこの原理が蠢いているように感じられる。
わかりやすいところでは、たとえばネットサロンを軸とした商売。ああいうので主催者が世間からの風当たりをまるで気にせず驀進する背景には、要するに「いくら叩かれようと、囲い込み済みの顧客を元手にペイできる」自信があるからだろう。

議論する姿勢が放棄された五輪問題


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マライ・メントライン

翻訳(日→独、独→日)・通訳・よろず物書き業。ドイツ最北部、Uボート基地の町キール出身。実家から半日で北欧ミステリの傑作『ヴァランダー警部』シリーズの舞台、イースタに行けるのに気づいたことをきっかけにミステリ業界に入る。ドイツミステリ案内人として紹介されたりするが、自国の身贔屓はしない主義。というか..

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