議論する姿勢が放棄された五輪問題
東京五輪を巡るネット的な議論もしかり。
あれも、そもそもは「利権の巣窟討つべし」「国際的な公約を翻すなんて」「経済効果が」「文句ばっか言うなよ」「え? マジでやるの?」「純粋なスポーツ精神の尊重を」「いや人命・公共倫理の尊重がまず基本で」といった問題認識から発して賛否の大枠に収斂している感じだが、その収斂の具合にはやはりというか、ネット的な囲い込みの感触が濃厚に感じられる。自分も含めて大方の人は無自覚なんだけど。
論争が大型化し、煮詰まってゆくにつれて強まってゆくのが「視野の狭さ」「ガンコさ」「あと戻りのしにくさ」だ。ゆえに、そもそも相手と議論する姿勢が放棄され、どちらかといえば内輪的な盛り上げ強化にもとづく、自陣営の自己完結的な拡大を指向しているように見える。
そんな東京五輪のひとつの注目点は、たとえば、
世間的にガッツリ盛り上がるか否か、である。
過日、私はこんなツイートをした。
〈「いざ始まっちまえば、みんな五輪に熱狂しちゃうでしょ」的な憶測があるけれど、開幕2ヶ月前、周囲の誰も「メダル予想」とかで盛り上がっていない現状を見るに、これは本番突入してもダメなんじゃないかな、という気がする。そもそも選手が競技に集中して全力で挑める状況じゃないし。〉(5.24)
そして他方、こういう現実もある。
〈言論界からは肯定的な評価がまったく聞こえない聖火リレーですが、ネットの反応をつぶさに見るに、あの「大音響ウェイ系DJ」演出を素直に受け入れている層もそれなりに居るようで、その割合って電通流の試算通りだったりするのか? とか地味に気になります。〉(4.5)
〈私は、あのチームコカコーラの電飾山車を最初に見たとき、こんなの社会的に受け容れられるわけないだろ! と本能的に感じたのですが、「社会は自分の期待値どおりには動かない」わけで、そのへんもうちょっとディープに考えなければいけないのだろうなーと思ったりしています。〉(4.5)
マスコミは「市場ニーズ」に応えただけか
聖火リレー付属のスポンサーコンボイ軍団、あれって非難&否定的な感想が目立つけど、プロデュース側はそもそもそーゆー層の歓心を買うことなど端から考えてなくて、オリンピックに「それほど否定的でない」~「好意的」な層を市場化しながら囲い込んじゃうのに有用なツールとして活用しているのかも、と考えさせられる。
にしても、もはや賛否両派の会話プロトコルが噛み合わない(もし会話に近いものがあるとしても、せいぜい反対陣営に対する揚げ足取りしか目につかない)ところまで来ているから、対立軸をも取り込むような有効な議論や思考がやりにくい。
いやーなんてこった、と思うが、実はここにこそ日本社会を総合的に手玉に取る電通の(この電通が、って表現もテンプレ化してて悩みどころだけど)ジャパニーズ心理を知り尽くした匠の技が存分に発揮されているのでは? という気がしなくもない。
噛み合わないといえば、たとえばテレビで、同じ番組なのに報道パートでは五輪についてやたら疑問視して否定的に述べる一方、スポーツコーナーでは五輪選手への期待をスーパーポジティブに述べたりする状況。
あれって、マスコミの無能さ無責任さの表れだとよく糾弾されていて、実際そういう面もあるだろうけど、単に現存する「市場ニーズ」に応えただけと考えれば逆に納得感が深い。どちらの陣営からも叩かれるというのは、どちらの陣営のニーズにも配慮した結果なのだ。矛盾を気にしていては顧客対応を最適化できない「市場」の現況にも、ある種の深い病理があるような気がする。そしてマスコミ報道は開幕に向けて追い込み的に、やたら五輪アゲアゲな姿勢を強めたりするのだろうか? そのあたりの動向も気になるところだ。
どういった「現実感」がいまどき有効なのか
さて実際、東京五輪は盛り上がるか否か。
いくら空気感を読み取れといっても、個人の観点でその判定を下すのは困難だ。
たぶん主催者側や賛成派は「大成功! 盛り上がった! 日本よくやった!」と主張し、反対派は「無理やり盛り上げようとしてたけど全世界にウソがバレバレで痛かった! インチキ感動主義の皆様乙!」と主張するだろう。
これ、どちらかがウソをついているというより、市場が現実を構成してしまうがゆえに、別種の現実にもとづく複数の結論が並置されざるを得ないと思うのだ。なので、それらごとに見どころと思われる点を吟味しながら吸収していく、というのがおそらく知的にいけてる姿勢なのだろう。それは、どういった「現実感」がいまどき有効なのかという考察にもつながっていくと思われる。
矛盾とストレスに晒されながら、ある社会が巨大イベントとさまざまなピンチにどう対処し、何が「ニーズに応えた」ものとして記憶されるのか、また人心はどこかで適度にリセットされるのか。それはエグい話かもしれないがとても気になる。
存外、世界各国の頭脳層が東京五輪を巡るあれこれを通じて最も注目するポイントは、実はそのあたりだったりするのかもしれない。
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